非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の問題発言と俺の痛い

百三十一話




【新転勇人】




「どうだー!」
あれから一週間ほど経ったある日。
いつになくテンションの高い金霧先輩は赤丸がたくさんつけられている紙を見せつけてきながらはしゃいでいる。
すべてが八十点以上で、もはやなんで今まで点数取れなかったんだというレベルだった。

「赤点回避どころか平均点以上って……あなた今まで何してたのよ……」
これにはももちゃん先輩も別の意味で頭を抱えている。
ちなみにももちゃん先輩はオール九十点以上で、満点もちらほらあったらしい。
「で、進路どうするの?」
「やっぱり幼稚園の先生になりたいかも」
「正直この時期に決めるのは遅い気もするけど……頑張りなさいよ」
ももちゃん先輩が優しい声で言った。
…………そうだよな……せっかく仲良くなれた先輩と一緒に学校生活を送れるのはあと半年くらいしかないんだよな。
俺は、いつものように隣に座っている円香へ目を向ける。

もしゃもしゃとクッキーを頬張ってる円香へ一つ尋ねる。

「円香は進路どうするの?」
「そうですねぇ……」
食べかけていたクッキーを机に置いて、円香は数刻考える。
「結婚……と言いたいところですけど、正直な話、食物学を学びたいです。」
おっと……?
やっと俺の願いが通じたのか?
まさか結婚以外の答えが出るとは。

でもなんで食物学?料理の専門とかならまだ分かるんだけど……。
「料理の専門とかじゃなくて?」
「はい。勇人くんと少しでも長く一緒にいたいので料理の専門というよりは栄養学の知識も欲しいので。」
「俺の身体を労わって?」
「そうです。あとは私たちの子供がすくすく育つようにです」
……理由はなんであれ数年後、数十年後まで見越した進路選びができてるのは尊敬するわ……。

「勇人くんはどこへ?出来れば近いところがいいですよね」
俺かぁ……。
特にやりたいことも夢もないし……。
今みたいな楽しい生活が出来るならなんでもいい。
「まだやりたいこととか見つからないから円香と一緒のところでがんばろうかな。」
「…………へへっ」
ん?
なんで顔伏せて――
「皆さん聞きましたか!?今勇人くんがデレましたよ!私と同じところって!」
多分本人的にはものすごく喜んで、周りに自慢してるんだろうけど、ものすごい煽られてるきがするのは気のせいですかね。
ほらももちゃん先輩なんて、なんて言っていいかわからなくてぎこちない笑い方しちゃってるじゃん!
「でもでも!勇人くんはいつも私がたじろぐ姿を見て楽しんでいるので仕返しします!」
「新天、それって言わない方が」
先輩の話を一切聞いてない円香はドヤ顔で、鼻息を荒くしてしてやったと言わんばかりに、
「勇人くん!ダメです!」
「そっかじゃあ別れよっか」
「あぁ!嘘です!嘘ですぅ!」
折れるのが早い!
「私が悪かったです!同じところに通いたいですー!」
そんな嬉しいことを言いながら抱きついてくる彼女の頭を撫でながらあやす様に言葉を紡ぐ。
「はいはい、俺こそ別れるとか言ってごめんね。」
………………おい待て。
……俺たちバカップルしてねぇか?
駅の改札ででめっちゃキスしてるカップルと同罪じゃないか?
「円香。」
「はい?」
きょとんと顔を上げる円香。かわいい。
「円香は俺とどんな付き合い方したい?」
ありえないとは思うが、場合によっては業を背負って生きていく可能性がある。
改札でこれでもかといちゃつくカップルと同じく業を背負い、地獄に落ちなければならない。
円香は、なんで勇人くんったら今さらこんなことを聞くんだろう。と言わんばかりの表情で、
「誰も不快に思わないような健全で正しいお付き合いをしたいです」
「良かったぁ……」
でもなんでここまで常識をはっきり認知してる子が結婚結婚騒いでたんだろ……。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
「――でも円香?今俺たちがしてるのは誰も不快に思わせてないかな?」
ぎゅー。
と抱きついてくる円香を撫でる俺。
この構図を見て、不快に思わなくても顔を真っ赤にして、ふんがふんが言いそうな人が……。
「――はーい、先生暇だから来てあげた…………」
……第三の刺客……だと……ッ!?
「あなたたちだけは修学旅行の班組ませない。これ決定だから。今決定したから。」
「本当に申し訳ございません。もう二度と先生の目の前でイチャついたりしません」
さすがに修学旅行はまずいです。
本当に申し訳ございません。
「一人になる人が出ないように学年全体で班を組むようになってるのに、二人だけぼっちだから。密会なんて許さない」
「先生……」
「なに?」
俺は仕方ないので爆弾を投下することにした。
肉を切らせて骨を断つ戦法だ。
「ぼっちにならないために班組ませるのに、去年まんまとぼっちになった男の話聞きます?」
唯一希望の残されていた浅見くんのグループは満員だったのだ。
仕方ないね!
「…………先生大人気ないこと言ってごめんね」
さすがの先生でもこれは堪えただろう。
自分の生徒の過去の傷をえぐってしまったんだから。
まぁ全然気にしてないけどさ!
今年は楽しくなりそうだし!


「勇人くん。私がいますからね」
「勇っち修学旅行の日ずっとあたしとゲームしてたもんね」
「(ももちゃん先輩はさっきの俺たちを見てからずっと放心状態)」
「勇人、あの時はホントごめんな」
「せ、せんぱい…………」


「あれ?」
おかしいな。
俺の思ってた反応と違うな?
なんでこんなに俺がかわいそうな奴扱いされてんの?
いや確かにかわいそうではあってけどさ。
あと三郷さん!わりとこっちまで申し訳なるから同族を見るような目はやめて!?
「今年はみんなで組もうな」
「浅見くん……ッ!」
思わず目頭が熱くなる。
ぼっちじゃない修学旅行なんて小学生ぶりだよぅ……。
「勇人くんは私が幸せにしますからね……もう安心していいですからね……」
優しさが逆につらい!
「だ、大丈夫だよ?そんな気にしてないし!」
「勇人くん……そんなに気にしてたのね……先生悪いことしたわね……」
おい話聞いてんのか独身先生ェ!
「勇人くん、泣いてもいいんですよ?私の豊満な胸の中で泣いてもいいんですよ?」
まな板で涙を拭いてるのと一緒じゃない?
とは言えないのでグッとその言葉を飲み込む。
「大丈夫だから!全然、これっぽっちも気にしてんむッ!」
ぎゅー。と円香の胸に抱き寄せられた。
「辛かったですね。辛かったですね……」
すまん円香。
感動シーンみたいな雰囲気バンバン醸し出してるところ悪いんだけど、ものすごく痛い。
むしろ今の方が辛いから。
「ちょ、円香」
「大丈夫。大丈夫ですよ。」
大丈夫じゃないから!
いや大丈夫だけど!
今が危険だから!
つらいと言うより苦しいから!主に息が!
「新転、そろそろ勇っち離してあげて?ももちゃんがいつまで経っても復活しないからさ」
「あ、ごめんなさい」
「はぁっ」
胸いっぱいに息を吸い込む。
「……ところで由美ちゃん先生、修学旅行っていつなんですか?」
俺が解放されたのに気づいて、話をそらしてくれる左道さん。
相変わらず視野が広いな……。
「来月下旬に二泊三日で京都と奈良よ」
「あたしたちの時と一緒なんだ」
「先生!男女の部屋は分かれますか!」
そろそろ円香には永世天然おばかの称号をあげてもいいと思う。
「分かれるに決まってるでしょ!?」
「そもそも新天の場合、男女同じ部屋なんかになったら勇人どころじゃなくなるぞ?」
「あぅ……そうでした……」
円香は悲しそうな顔を浮かべて肩を落とす。
そうでした。って言えるあたりさすがだな……。
俺と付き合ってるの知った上で告白してくる人が後を絶たないらしいし……。
ということは俺ってもしかしなくても相当なめられてる?
「私には勇人くんがいるって何度言っても、そんなやつより〜って。さすがの私でも堪忍袋くらいあるんですよって感じです!」
どうやらご立腹のようだ。
セルフでぷんぷんっ!って言っちゃうくらいご立腹。
まぁ俺には嬉しいだけの怒りだけど。

「でも勇人くんも勇人くんですよ!」
「えっ?俺?」
急に矛先が俺に向いたな。
なんだ?
「そうです!もっと私を勇人くんものだって知らしめるようなことしてくださいよ!」
「えぇ……」
オープンスクールのもっかいしよ事件でダメなら何やってもダメだよぅ。
「例えば身ごもらせるとか!」
「円香おいついて。女の子が自分から言っちゃいけないこと言ってるから。問題発言すぎるから」
「す、すいません。ちょっと熱くなりすぎてしまいました。」
よしよし、最初の頃と比べてだいぶ冷却が早くなってるな。
えらいえらい。


「で、なんの話してたんでしたっけ?」









改札の前でイチャつくカップルを見ると毎回思うんですけど、あれって入れ替われると思うんですよ。

この話したかな?

まぁいいや、何らかの音のしない武器を持って片方を眠らせるなりなんなりして素早く入れ替わればすぐな気がします。
ああいうことするカップルは大抵目を瞑っていますし、一度唇が離れたとしてももう一度懲りずに口付けを交わすと思うので、少しのラグは大丈夫でしょう。
入れ替わってしまえばこっちのもんですしね。

まぁとにかく、あんなことするのは入れ替わられる覚悟のある人間だけだということを言いたい。

ちなみに昨日のやつは、要約すると眠いよ。ばいばい。ってことが書いてあるので。
ちゃんと解読したいんだけど!って方。

勝手にどうぞ♪

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