非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私のメールと俺の緊張

八十一話






【新転勇人】






俺の一日は円香からのLimeで始まる。
いつも、『おはようございます(´∇`)』などでかわいい顔文字付きのメッセージが届くのだが、極たまに、
『勇人くんの愛妻である円香ですよ(はぁと)。
おはようございます(おんぷ)』
と、ユーモア溢れるモーニングコールが届く。
記号を打つんじゃなくて“()”で囲んじゃうあたりがお茶目さんだ。

そしてその“極たまに”が本日の朝に訪れていた。

『勇人くんおはよう♪
突然ですが本日、私の家に来てください。
準備とかは特に必要ないけど、私への好いてる気持ちだけを所持して来てくださいね!
じゃあ待ってます♡』

今日は祝日で、久しぶりに一日中ゲームに勤しもうと思っていたのだ。
円香初心者はこのメッセージを見て、どこがおかしいんだ?と思いがちだが明らかにおかしいところがあるのだ。
まず始めの文の「おはよう♪」というところ。
普段の円香だったら「おはよう“ございます”」と送ってくるはずなのだが「おはよう♪」と届いている。
そして二つ目、「必要ないけど」というところ。
“けど”っていうのを円香はあんまり使わない。あくまでイメージだが「必要ないですが」とか、円香だったらこう送って来そう。
そして、この二つで考えられる円香に起きている事象は、
「何か焦ってる……?」
ここまでいつもの円香と違うと焦りが手に取るように分かる。
…………でも今日って祝日だよな?
その場合、お母さんだけじゃなくお父さんまでいるよな……?

「俺の娘に手ェ出すんじゃねぇぞクソガキィ!」
とか言われたりしないよな?
でも円香の丁寧な性格が父親からの遺伝だとすると……、
「僕の愛しい娘とどのような事をなされたんですか?手と足……縛られるならどちらがよろしいですか?」
………………アウトやん……。
ドラマとかアニメで見る主人公の恋人のお父さんというのはみんなブチギレてる印象だ。
本当に円香を愛する気持ちだけで生きて帰ってこれるのだろうか?
胸に週刊ジャ〇プとか仕込んでおいた方がいいだろうか?

俺が悩みながらリビングをうろうろしていると、再びスマホが振動し通知を告げた。
『待ってますよ♡
別に大したことが起きたり挨拶したりとかそんなことは起きないので安心してください。
お父さんは穏やかです。』
「言っちゃってるよねぇ!挨拶、お父さんって単語が揃っちゃってるよね!?」
歳で言ったらあと2つ。
年数で言ったら一年とちょっと。
相当あとだよ?最速を狙いに行っても結構先よ?
………………まぁ円香は嘘つくような女の子じゃないし、円香が穏やかだって言うならそれはもうナマケモノ並に穏やかなのだろう。
俺は手に持っていた週刊ジ〇ンプを床に起き、スマホと財布、円香を愛する気持ちを胸に秘め、花火大会以来円香の家へと向かった。







【新天円香】







「ふふっ♪……完璧なメールです!」
私は既読のついたメッセージを眺めながら呟きます。
「円香ぁ、父さんずっとここにいればいいのか?」
お父さんが一階のリビングから声をかけてきました。
お父さんはリビングのソファで待機です!
「はーい!そのままでーす!」
「はいよー」
私たち家族は仲良しなので、今頃お父さんとお母さんはイチャイチャしているところでしょう。
娘の私に巨乳好きというへきを知られていると知ったらどんな顔するでしょう?
お母さんに仕返しできますかね?
……それは奥の手に残しておきましょう。
「円香ー!そろそろ勇人くんが来るかもしれないから降りて来なさーい!」
「分かりましたー!」
私はすまほを握りしめ、一階へと降りていきました。






【新転勇人】






「お父さんは穏やか……お父さんは穏やか……」
円香の家の前へと到着した俺は自分に言い聞かせるように何度もつぶやく。
「……よし……ッ!」
俺は震える指でインターホンを押した。
『はい!今開けますね!』
光の速さで円香がでた。
焦った俺は裏返りそうな声を押さえつけながら、
「はーい」
と、動揺を悟られないように返答した。

俺は持っているスマホで前髪を整える。
よし、いつもの俺だ。多分。
スマホから家のドアに目を移し、その時を待つ。
「こんにちは!じゃあ早速ですが上がってください!」
「は、はい……」
俺はいつもより覇気を纏った円香の声に導かれるように家に入った。

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