非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

あたしの嫉妬……?と俺のにやけ

七十四話







【新転勇人】







「いやっ先輩!?違いますからねっ!?」
水を打ったような静けさの中、その静寂を破ったのは浅見くんの弁解の言葉だった。
肩に回していた手を膝の上に置いて先輩を真っ直ぐに見つめている。
「違うってなにが?」
先輩は部室に入ってきた時と声のトーンを変えずに尋ねる。
先輩が浅見くんを好きな感じはなかったし、ここからthe修羅場にはならないだろうな。
トーンが変わらないのはそれはそれで怖いけどね。
「いや……あの……」
浅見くんも声のトーンで臆しているようで言葉が喉元で引っかかっているようだった。
三郷さんは「ぁ……え?ぇ?」と困惑を隠しきれてない様子。
「いや、私は別に浅見が誰と付き合おうと構わないんだけど……」
先輩は相変わらずの声のトーンで。
続いて、伏せたままだった瞳を浅見くんの方へ向けて、

「まさか朝の女の子だとはねぇ〜彼女を守ったってわけね」

と、明るく、取り繕ったようなトーンで言った。
――今一瞬表情が陰ったような……。
「いや、彼女じゃないですよ!」
「なに君照れてんのぉ?」
「そういうわけじゃないです!!」
…………気のせいか……。

「で?三郷さん……だっけ?この子のどこに惚れたの?」
いつもの先輩と違ってグイグイ三郷さんに寄っていく。
「いやっ……あの……ふぇぇ」
三郷さんは耳まで真っ赤にして寄ってくる先輩から少しずつ離れて言っている。
「君もこんな可愛い彼女だいじにしなよ!」
「だから彼女じゃ――」
「あたしはもう帰るわ!用事あるの思い出した」
「ちょ先輩!!」
  先輩は三郷さんから離れると、バッグを持って足早に部室を出ていった。
嵐のように唐突に現れて、嵐のように去っていった。
ただそれだけの事に見えるが、俺には無理にテンションをあげているようにしか見えず、あの陰った表情が何を意味するのか気になっていた。
「勇人くん……」
円香も何かを感じていたようで、俺を見つめてくる。
「追いかけよっか」
「うんっ」
俺たちは浅見くんに聞こえないように小声でそう決めた。
こんな状況なのに、顔を近づけたときに香ったシャンプーの良い匂いに軽くニヤついてしまいそうになってしまった俺はもう末期だろう。
なんで女の子ってこんな良い匂いするんだろうね。本当に不思議。
円香に至っては香水とかシャンプーでも飲んでるんじゃねぇかってくらいいい匂いだもん。俺も飲も。
「勇人くん行きましょ」
「うん。浅見くん、俺たち先に帰るわごめん!」
止められる前にリュックを背負って部室を後にする。

部室を出て、俺たちは昇降口へと向かう。

…………円香の手を握ってもいいかな?引っ張ってくみたいに。
うん、いいよね。
俺彼氏だもんね。
周りに、調子乗ってるとか後で言われないよね。

俺は隣に小走りでついてきている円香の手を――

「勇人くん、確かに私も手を繋ぎたいです。むしろ四六時中ふれていたいです。けど今は先輩を追いかけるのが最優先ですっ!」

怒られた……。

怒られたのにすごいニヤけそう。
円香のこういうところ本当にえぐい。
わざとなのかな?俺を殺しにきてるよね!

俺はちょっとショックでだいぶにやけながら円香の隣を急いだ。







【金霧杏佳】






あたし焦ってる?

浅見があの女の子と一緒にいるのが嫌なの?


いや、確かに朝の浅見はかっこよかったさ。
見直したのもほんと。
けど浅見はあたしと付き合ってるわけじゃないし。

自分を好きって言ってくれてたあの子がものの数時間で後輩に乗り換えたことに…………嫉妬してるの?

わかんない。

こんなのゲームじゃ出てこなかった。
嫉妬なんてわかんない。

勇っちが新天と付き合ってるって知った時も同じ感じになってたけど……今のこれとは違うよ……。


あたしは浅見の事が…………?



いや、ない。
それはない。
グイグイくる人は苦手だし、朝の出来事だけで落ちるようなチョロインでもないし。


あぁ…………ほんともうわかんない。

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