非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の手汗興奮と俺の初恋人繋ぎ

五十六話







【新転勇人】








とりあえず声をかけてみたものの……。
寝てることはまず無いよな。









待てよ?
今の円香は寝たフリをしてるってことだよな?目を瞑って俺を騙そうと…………。


よし。

俺は身を屈め円香の顔に自分の顔を近づけて、わざとらしく演技をする。
「寝てますかねー?」
ギュッと不自然なまでに目を瞑っていた円香がびくりと体を震わせた。
やばい……。

楽しい。

からかいがいがある。

ぐうかわ。

【TKG】が揃ってしまうくらいやばい(語彙力低下)
「むにゃむにゃ……勇人くんダメですよぉ……むにゃ…」

こ     れ     は     ま     ず     い     !     !

「ちょっと可愛すぎやしませんかね」
と。
ついやばすぎて口から漏れてしまった。
「かわ――…………む…むにゃむにゃ……」
反応しちゃってるし、「むにゃむにゃ」って言葉にされると身が持ちません。
ですのでそろそろ海の方へ。
「――円香!」
「わっわぁっ!勇人くん!?」
寝起きなのに元気ですねぇ円香さんは。
「ど、どどどどうしたの!?」
つい笑いそうになってしまうが、あくまで“ドッキリ”体でやってるから我慢する。
「……これから海行きませんか?二人きり――」
「はい!是非!」
おぉう食い気味ぃ……!








【新天円香】







気のせいじゃなければ、さっき「かわいすぎる」って言ってましたよね?
私の寝たふりに気づかずに、ひとりの時で言ったってことは確実に本音……ッ!

好き!!

私は旅館の廊下を共に歩く勇人くんの手へ手を伸ばします。
「勇人くん……」
「……はい、わかりました」
勇人くんはそれだけ言うと、握手のような握り方ではなく、指の一本一本がそれぞれ絡み合うような握り方で私の手を握ってくれました。


…………こんな事でドキドキ死しそうになっちゃダメですよ円香!!
これから浜辺でキスするんですから!


「円香?どうかしました?」
「い、いえ!にゃんでもないでしゅ!」






【新転勇人】






「着きましたね」
「はい」
初の恋人繋ぎでドキドキしながら歩いた先、浜辺に到着した。
鈴虫の奏でる子気味良い音と優しく打ち付ける波の音が見事な雰囲気を醸し出している。

さぁ円香!
この雰囲気だったらキスでも何でもカモンだぜぃ!?

「少し歩きませんか?」
「はい……手は繋いだままでも……?」
円香は握られた手に力を込めたようで、ギュッとした感覚が伝わってくる。
「大丈夫ですよ」











いやね?
俺って童貞でオタクでしょ?
もちろんギャルゲーもやってるけど、リアルで恋人繋ぎは初めてなんですよ。
あのぉ…………。


――なんかえろい!!


そう考えると手汗がやばいんだけど、円香気づいてるかなぁ……。
ドン引きだろうなぁ……。


「うわっ……勇人くん手汗が凄いです…………クンクン……うへえ…」


ってなるだろうな。


はぁ。
どうか気づかないでおくれ。






【新天円香】






勇人くんの手汗!!!

こーふんします!!

私も手汗をかいてるので、二人の汗が混ざってるって考えたら…………ムフッ♪


でも……私がそんなこと考えてるってバレちゃった時はドン引かれませんかね……。
どうしましょう……。

「え……手汗で興奮するとか……ありえな…ネジ飛んでるんじゃないですか?」

うわああああああああああああああああああああ!!死ねます!死ねますよこれ!!
バレないようにしないと……。
バレたらげーむおーばーです!


「円香?」
「ひゃい!」
声が裏返って口も回りませんでした。
「ここに座りませんか?」
「……そ、そうですね…」
私たちは手を繋いだまま砂浜に腰掛けました。

私は月明かりに照らされた彼の顔に視線を移します。

数刻後のキスを想像するように。

「非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く