非リアの俺と学園アイドルが付き合った結果

井戸千尋

私の募る不安と俺の…俺……の…

三十三話




【????】



「さてと。予定より遅くなっちゃったけど“勇人”に会いに行こうかな♪」
その女性は道行く人全ての視線を奪っているようだった。
風に揺れる金色の髪。
見つめるだけで蕩けてしまいそうな垂れた瞳。
胸元がさらけ出ている服。
彼女はすれ違う人の鼻腔を直接刺激されるかのような刺激的で甘い匂いを振りまいていた。
その日彼女は勇人の家ではなく、戸内高校オープンスクールへと向かっていた。






【新天勇人】





「うっわ…こんなに人来るんですかこの学校のオープンスクール」
部室の窓から見える光景についそんな言葉を漏らしてしまう。
気持ち悪くなるほどの人が一箇所に押し寄せていた。
うちの学校の規則として、親とともに見学をするというものがある。そのためか、夏休みにもかかわらず普段と同じかそれ以上の人が来ていた。
そして、もう一つ。
人数以外での驚愕点があった。
それは―


「―ぁ…あぁ……こ、こんな人の前で…」


俺の彼女(仮)が隣でド緊張していることだ。

手が震え、笑みが強ばっている。
俺も多少の緊張により、ぼーっとしたりしてしまうが、新天さんは、いつもが凛々しく美しいため、引きつった笑顔とかは目立っていた。

「新天さん、落ち着いてください」

とりあえず俺は新天さんを落ち着けるべく声をかける。
だが新天さんの耳には俺の声は届いていないようで、


「人…多い……ここで…キス…」


と、さらに訳の分からない事を言っている。
キスなんて予定にないし一体どうしたのだろう。

「おーい新天さーん!おーい!」
「ハッ!ご、ごめんなさい!……何でしょうか?」
肩を叩き声をかけることでやっとこ俺の声が聞こえるようになった新天さん。
「いや、緊張しすぎですよ。もっと肩の力を抜いて」
余裕のなさげな新天さんへ俺は優しく声をかける。

「勇人くんと手を繋いで、“かわいい”って言ってもらえたら緊張がほどける気がします。」
意外と余裕あるじゃねぇか。

「はいはい、冗談は程々にしてくださいよ?」

「うぅ…冗談じゃないのに…」

そんな悲しい顔しないで、

「でも―」

新天さんには笑っていて欲しいから。

「手を繋ぐだけなら……まだ意識して口に出すのには勇気がいるので、手を繋ぐだけで―」

決してデレているわけじゃないぞ!?違うからな!?
俺はつい新天さんから顔を背け、手だけを指し伸ばした。

「…んっ……」

新天さんは小さく吐息を漏らし、俺の手をそっと掴んでくれた。

新天さんの手は尋常なまでに震えており、体温が高く感じられた。

「ちょ―勇人くん顔真っ赤ですよ!!?」

「え…?」

いやいやそんなわけ―

その瞬間、俺の額に“冷たい”何かが触れた。

「―あっつ!勇人くん熱出てますよ!」

どうやら“冷たかった”のは新天さんの手のひらだったようだ。

さっき手を握った時に感じた熱さは俺の手のひらの熱さだったのか……?

「休んでいてください!!私が保健室に連れていくので!」

いや…でもそしたら……。

「大丈夫ですよ、あとは私たちに任せてください」

声に出してない俺の感情を読み取ったのか、優しさに溢れた笑顔で彼女は言った。

俺はそんな彼女に身を任せ、少し眠ることにした。






【新天円香】




どうしましょうどうしましょう!!

勇人くんに熱が…!

「えーっとえーっと……」


タイミングが悪かったのか、保健の先生が在室しておらず、私は焦っていました。

誰かを看病するなんて初めてのことで、まず何をしていいかわからないのです。

私はとりあえず、濡らしたタオルを用意し、それと同時並行でお母さんへと電話をした。今回は正真正銘のお母さんの方だ。

『あら、どうしたの?』
数コール後、お母さんが電話に出てくれた。

『お、お母さん!どうしよう…勇人くんが熱出しちゃって…』

『えーっと、それは学校で?』

『うん』

『保健の先生は?』

『いないの!!だからどうしたらいいのって!!』
私は勇人くんが心配なあまり、口調が少しおかしくなってしまいました。

『じゃあ、汗とかを濡れたタオルで拭いてあげて』

『うん』

『あ、もちろん顔の汗よ?下の方の汗じゃ―』

対処方法を教えてくれたお母さんに感謝しながら電話を切りました。別にくだらないことを言おうとしてたから途中で切ってやったとかそういう訳では無いです。断じて。





―彼のベッドの横に座り、汗を拭いてしばらく経ちました。
そろそろオープンスクールが開始される時間です。

私の不安は募る一方です。

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