従妹に懐かれすぎてる件
五月十九日「従妹と佑真椅子」
家に帰ると、カーペットの上で彩音が正座をしていた。背筋を真っ直ぐ伸ばして行儀よくこちらを見つめている。なんだろう……理由は分からないが多分俺に何かを求めているな。
「……ただいま」
「おかえりなさい、ゆうにぃ」
彩愛は珍しく落ち着いたトーンで返事をした。表情も弾ける笑顔……では無く柔らかな微笑みを浮かべていて凜とした態度をとっている。
決して怒っている訳では無さそうだが、いつもと違った出迎えられ方をされたので俺は少々身構えてしまった。
「何か話でもある……のか?」
「うん。でもその前に手洗いうがいを済ませてね。そしたらここに座ってくれる?」
「……分かった」
一先ず俺は洗面所に赴き、言われた通りの事を終わらせてから彩音の前に戻った。すると彩音は俺の足元をポンポンと掌で叩き、腰を下ろすように促してきたのでそのまま従う。
「その……今日はゆうにぃにお願い、というか相談……があるんだけど」
お互いに向かい合ったところで彩音が話を切り出した。
「なんだ、改まって」
「別に大したことじゃないよ。……っとその前に」
何かを思い出したのか彩音はにこりとはにかむと、ずるずるとこちらに体を寄せてきた。そして満足そうに笑う表情はそのままに、くるっと全身の向きを反転させて胡座をかく俺の足の上にゆっくりと腰を下ろした。
「この方が話しやすいから」
「いや話しにくいだろ」
胸板に背中を預ける彩音が顔を上げると至近距離で視線がぶつかった。俺は「おっ」と情けない声を上げるも彩音は気にする素振りを見せず、やや紅潮させながら一点を見つめ続ける。
間近で感じる彼女の温もりと甘い雰囲気に俺は心臓が飛び跳ねそうになった。
このような少々過度に思えるスキンシップには慣れているはずなのだが、今の俺は動揺を隠せずにいた。最近の彩音はどこか気怠げでやたら接触をしてこなかったため体が驚いているのかもしれない。
「精神衛生上この方が安心するの。やっぱり困った時はゆうにぃ椅子に限るよね」
「やっぱりって……俺の上に座るのは今まで無かっただろ」
「そうだっけ? えへへ」
けらけらと楽しそうに笑う彩音に不満の色は見られなかった。やはり俺は彩音に懐かれているんだな。改めて確信すると同時に俺は安堵した。
急に家に押しかけてきて年甲斐も無くくっ付いてきたけれど、彩音と離れるのは寂しいと思う。数日間スキンシップが無くなっただけで不安になるくらいだから、俺は自分が思っている以上に彩音を可愛がっているのかもしれない。相手は妹では無いが、これではシスコン呼ばわりされても文句は言えないな……。
「それで、俺に話したいことって何だ?」
「うん。私、最近思うところがあってね」
彩音は少しだけ俯いて自分の手を擦りながら続ける。
「もっとゆうにぃと一緒に思い出作りたいなって思って。もちろん毎日――この瞬間も大切な思い出だけど」
自分で言った癖に照れた顔でこちらに振り向く彩音を見て、俺まで恥ずかしくなってしまう。くぅぅ、可愛いやつめ。
「でもゆうにぃに迷惑は掛けたくないから無理は言わないよ。学校も忙しいだろうし、家で一緒に居るだけで私は嬉しいから」
俺に負担をかけまいと遠慮を混ぜる彩音だが、きらきらと輝く瞳には本音が零れていた。ただ二人で暮らすだけじゃなくて、たまには遊びに連れて行ってほしいと目が訴えている。
思えば彩音が俺の家に来てから思いっ切り遊んだことは無かったから丁度良い機会かもしれない。俺は昨日の夜に密かに考えていた計画を口にした。
「今度の日曜日遊びに行くか」
「え!? いやいや、無理はしなくて大丈夫だからね」
「無理はしてない。丁度俺も彩音と遊びたいと思ってたんだ。……もしかして日曜は暇じゃなかったか?」
「ううん、全然平気。でも本当? 私と遊びたいって……」
眉間のしわを寄せて不安そうな表情を浮かべる彩音を前にして、俺は黙って見過ごすなんてできなかった。彼女の艶やかな黒髪を優しく撫でると彩音は一瞬目を大きく見開いて、それから安心したように柔らかい微笑みを浮かべた。
「嘘をついても仕方ないだろ。可愛い従妹と遊びたくない兄はいませんよ」
「そっか、ふふ。……ありがと、お兄ちゃん」
慣れない呼び方で、なおかつ至近距離で笑顔を向けられたお陰で俺の心臓はまたしても暴れ出してしまう。
普段は驚く程に積極的だが、根は純粋な子だから心配になったり不安に陥ることもあるのだろう。そんな彩音の心情を思えば俺の取るべき行動はただ一つ。
「どういたしまして。佑真お兄ちゃんに任せなさい」
彩音の側に居ること。いつでも頼れるような自分でいること。彩音の従兄として恥じぬよう責任を持って彼女を守るのだ。
===============
その後。彩音のメッセージアプリにて……。
彩音「上手くいったよ、ありがと!」
舞緒「押さずに引いてみる作戦……成功( ̄▽ ̄)ニヤリッ」
「……ただいま」
「おかえりなさい、ゆうにぃ」
彩愛は珍しく落ち着いたトーンで返事をした。表情も弾ける笑顔……では無く柔らかな微笑みを浮かべていて凜とした態度をとっている。
決して怒っている訳では無さそうだが、いつもと違った出迎えられ方をされたので俺は少々身構えてしまった。
「何か話でもある……のか?」
「うん。でもその前に手洗いうがいを済ませてね。そしたらここに座ってくれる?」
「……分かった」
一先ず俺は洗面所に赴き、言われた通りの事を終わらせてから彩音の前に戻った。すると彩音は俺の足元をポンポンと掌で叩き、腰を下ろすように促してきたのでそのまま従う。
「その……今日はゆうにぃにお願い、というか相談……があるんだけど」
お互いに向かい合ったところで彩音が話を切り出した。
「なんだ、改まって」
「別に大したことじゃないよ。……っとその前に」
何かを思い出したのか彩音はにこりとはにかむと、ずるずるとこちらに体を寄せてきた。そして満足そうに笑う表情はそのままに、くるっと全身の向きを反転させて胡座をかく俺の足の上にゆっくりと腰を下ろした。
「この方が話しやすいから」
「いや話しにくいだろ」
胸板に背中を預ける彩音が顔を上げると至近距離で視線がぶつかった。俺は「おっ」と情けない声を上げるも彩音は気にする素振りを見せず、やや紅潮させながら一点を見つめ続ける。
間近で感じる彼女の温もりと甘い雰囲気に俺は心臓が飛び跳ねそうになった。
このような少々過度に思えるスキンシップには慣れているはずなのだが、今の俺は動揺を隠せずにいた。最近の彩音はどこか気怠げでやたら接触をしてこなかったため体が驚いているのかもしれない。
「精神衛生上この方が安心するの。やっぱり困った時はゆうにぃ椅子に限るよね」
「やっぱりって……俺の上に座るのは今まで無かっただろ」
「そうだっけ? えへへ」
けらけらと楽しそうに笑う彩音に不満の色は見られなかった。やはり俺は彩音に懐かれているんだな。改めて確信すると同時に俺は安堵した。
急に家に押しかけてきて年甲斐も無くくっ付いてきたけれど、彩音と離れるのは寂しいと思う。数日間スキンシップが無くなっただけで不安になるくらいだから、俺は自分が思っている以上に彩音を可愛がっているのかもしれない。相手は妹では無いが、これではシスコン呼ばわりされても文句は言えないな……。
「それで、俺に話したいことって何だ?」
「うん。私、最近思うところがあってね」
彩音は少しだけ俯いて自分の手を擦りながら続ける。
「もっとゆうにぃと一緒に思い出作りたいなって思って。もちろん毎日――この瞬間も大切な思い出だけど」
自分で言った癖に照れた顔でこちらに振り向く彩音を見て、俺まで恥ずかしくなってしまう。くぅぅ、可愛いやつめ。
「でもゆうにぃに迷惑は掛けたくないから無理は言わないよ。学校も忙しいだろうし、家で一緒に居るだけで私は嬉しいから」
俺に負担をかけまいと遠慮を混ぜる彩音だが、きらきらと輝く瞳には本音が零れていた。ただ二人で暮らすだけじゃなくて、たまには遊びに連れて行ってほしいと目が訴えている。
思えば彩音が俺の家に来てから思いっ切り遊んだことは無かったから丁度良い機会かもしれない。俺は昨日の夜に密かに考えていた計画を口にした。
「今度の日曜日遊びに行くか」
「え!? いやいや、無理はしなくて大丈夫だからね」
「無理はしてない。丁度俺も彩音と遊びたいと思ってたんだ。……もしかして日曜は暇じゃなかったか?」
「ううん、全然平気。でも本当? 私と遊びたいって……」
眉間のしわを寄せて不安そうな表情を浮かべる彩音を前にして、俺は黙って見過ごすなんてできなかった。彼女の艶やかな黒髪を優しく撫でると彩音は一瞬目を大きく見開いて、それから安心したように柔らかい微笑みを浮かべた。
「嘘をついても仕方ないだろ。可愛い従妹と遊びたくない兄はいませんよ」
「そっか、ふふ。……ありがと、お兄ちゃん」
慣れない呼び方で、なおかつ至近距離で笑顔を向けられたお陰で俺の心臓はまたしても暴れ出してしまう。
普段は驚く程に積極的だが、根は純粋な子だから心配になったり不安に陥ることもあるのだろう。そんな彩音の心情を思えば俺の取るべき行動はただ一つ。
「どういたしまして。佑真お兄ちゃんに任せなさい」
彩音の側に居ること。いつでも頼れるような自分でいること。彩音の従兄として恥じぬよう責任を持って彼女を守るのだ。
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