従妹に懐かれすぎてる件

きり抹茶

四月九日「従妹と理屈」

 今日は休日。
 珍しく早起きした彩音は開口一番……。

「ゆうにぃ! 桜見に行こうよ!」

 寝起きとは思えない元気な声で言った。

「面倒だな……。他に用は無いのか?」
「ソメイヨシノを見に行きたいです」
「他には?」
「シダレザクラも見たいです」
「……他に」
「ヤエザクラも捨て難いです」
「全部花見じゃねーか!」

 見たい品種を聞いた訳じゃないんだぞ。
 えへへ、と照れ笑いする彩音に俺は続ける。

「花見をしても無駄な時間を消費するだけだ。それならもっと生産性が高く有意義な事を……」
「アーアー。ムズカシイニホンゴワカラナーイ!」
「急に片言になるなよ」

 しかもそこまで難しい言葉は使ってないぞ。

「ゆうにぃって昔からだけど結果主義だよね。理屈っぽいというかつまらないというか……。そんなんじゃいつまで経ってもモテないよ?」
「ギクッ……!」

 幼少期から常に側にいた彩音だから分かる俺の性格と弱点。
 やっぱり理屈だけ並べても女の子には嫌われてしまうのか……。

「でもただ外に出掛けただけじゃ無意味だろ。それにもっとモテなくなるかも……」
「じゃあゆうにぃに聞くけどさ、今まで女子に告られた事はある?」
「…………一人だけなら」
「えぇぇぇぇ!? あるのぉぉ!?」

 目を見開いて叫ぶ彩音。つかそんな驚くなよ。俺をどんだけモテない男だと思ってるんだ。なんか悲しくなっちゃうぜ。
 だが実際、色恋に縁が無いのも事実。だって俺に告白して来た女子は……。

「勘違いしてないか? 俺は年がら年中、毎日のように告白されてるぞ。…………彩音にな」
「え……? あ、あぁなるほどそっかー! 良かったぁ……」
「なんで安心するんだよ」
「だってもしゆうにぃが他の女の子と付き合ってたら嫌だもん!」

 ムスッと頬を膨らます彩音。可愛い。

「彩音がどう思おうと彼女を選ぶのは俺だけどな」
「…………私以外に候補なんていないくせに」
「うるせ」
「じゃあ仮にめっちゃ可愛い女の子がゆうにぃに告ってきたらどうする? 断るの?」
「そうだな……」

 自分を好きになってくれた気持ちを無下にはできないし、彩音の事も考えると……。

「俺は……」
「あーごめん答えなくていいや! 私ったら変な質問しちゃったね」

 困り顔で笑う彩音が続ける。

「確かにゆうにぃには選ぶ権利がある。なら私は選ばれるように頑張るよ。どんな子が来ようとも私が世界で一番ゆうにぃの事を想ってるんだからっ!」

 彩音は弾けんばかりの笑顔と共に何回目か分からない愛の告白をした。
 まったく、朝からガッツリな子である。というか滅茶苦茶恥ずかしいんだけど……。

「よし、じゃあ今日は二人でのんびりゴロゴロするか。……家で」
「えぇぇ!? 桜見に行こうよ! モテないよ!」

 どうしても花見をしたいそうです。

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