俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

真相とおわり

「こ、これが、私が美琴ちゃんから聞いた全てだよ」

 こうして桜咲さんが黒瀬くんの妹……美琴ちゃんの過去についての話を締め括った。どれくらい経ったかは分からない。それでも俺達は真剣に一言一句聞き逃さずに聞き入っていた。

 そうか……。

 ん〜?なんか話に聞いていた前原仁の人物像と随分違うな?
 この世の女の子を全て目の敵にし、外道で独善的な最低な男。それが俺が抱いていたイメージだった。まさか態とそんな振る舞いをしていた?

 色々思考を巡らせたいところなんだけど。

「……ッ」

 ここにきて目眩がすごい。
 視界がグワングワン回りに回って平衡感覚が失われてる。この踏み止まる足の力を抜いた瞬間にあっさりと倒れてしまいそうなほどに。
 これは明らかに血を流しすぎた。貧血状態だ。

 ソフィは……まだ物陰に待機してくれているみたいだ。有難い。
 さっき黒瀬くんに殴られそうになった時、ソフィは凄い目で彼を睨みつけながら今にも飛び出してきそうだったからな。危うく制止の声を出してしまうところだった。

「お、おい。前原のあの態度は演技だったのか?」

 星宮真紀……マキさんがそのツインテールを不安げに揺らしながら桜咲さんに恐る恐る尋ねる。

「……そうだよ。演技とまではいかないかもしれないけど、意識してあの態度にしてたみたい」

「……い、いやだとしてもだからヒナにしたあの仕打ちが許されるわけじゃないだろ!?わざとなら尚更!」

「……そうだね」

 激昴するマキさんに対して、桜咲さんはただ悲しそうに静かに同意した。

 あの仕打ち……。
 端的に言うと、ちょうど1年ほど前、桜咲さんが前原仁に告白した際に、『お前に優しくしたのは、俺が一日で女を告らせることが出来るかっていう賭けがあったからだよ』と面と向かって言い放たれたあの事件のことだ。マキさんから話だけ聞いた。

「なぁ黒瀬。その意味ではお前も同罪なんだぞ」

 ここに来てマキさんが黒瀬くんに話を振る。1年前の前原仁の賭けは、この黒瀬龍彦くんとの勝負だったのだ。

「そんな美琴が……洗脳のはず……いやしかし」

 まぁ一方の黒瀬くんはこんな感じで、先程の桜咲さんの話を反芻しながら混乱しているみたいなんだけど。

「……おい、黒瀬!」

「あ?あぁ、なんだよ」

「1年前の前原仁のヒナへの仕打ちに関してはお前も同罪だって言ってんだよ」

「……1年前?仕打ち?何の話だ」

「惚けんなよ。一日で告らせることが出来るか賭けてたんだろ?外道が」

「……はぁ?何言ってんのお前さっきから」

「……は?」

「え?」

 んん???
 何かさっきから致命的に話が噛み合っていないような。この状況は一体……?
 桜咲さんも困惑しているみたいでソワソワと落ち着かずに成り行きを見守っている。

「い、いやだから、1年前、前原と『一日で女を告らせることが出来るか』っていう賭けをしたんだろ?それでヒナが凄く傷ついたって言ってんだよ」

 戸惑いつつもマキさんがさっきよりも少し丁寧に説明する。

「……なんだそれ?そんな賭けしてないぞ?なぁ仁……って今のお前に聞いても無駄か」

 申し訳ない。

「は?してないって、今更嘘つくなよ。前原自身が1年前に言ってたことだぞ?」

「どうせ女を遠ざけるためにまた仁がついたウソだろ?そもそもアイツは性格悪いし最低なヤツだが、そんな趣味悪ぃ賭けなんかしねぇよ」

 ……お?なんだこれは。
 流れ変わったな。前原仁に抱いていたイメージが今覆ろうとしてるんだけど。

「……は?……え」

「……」

 マキさんは冷や汗を垂らしながら、頭で情報を処理しきれないといった様子だ。桜咲さんは開いた口が塞がらず、凄く間抜けに見える。

 ……空気と化していた周りの元クラスメイト達は、

『前原くんって性格も悪くなかったのかな?』『そうみたい』『素晴らしい』『ちょっと帰ったら久しぶりに卒アル自慰するわ』『おまえ……!……天才か?』

などと、小声で話し込んでいるみたいだ。あー、卒アルね。やってるとか聞いたことないけど、学年で1人はやってそうだよね。俺はしないよ?俺はしないどね。

「じゃああれは……前原君のウソ?」

「だと思うぞ?まあそんなクソみたいな嘘つく時点でアイツの性格の悪さは折り紙付きだな」

 こっちを見ながら言うな。俺がついたわけじゃねぇんだよ。

 ……というか、そろそろ限界だ。出血に加えて、アドレナリンで治まっていた痛みもぶり返してきた。頭はガンガンするし、太もも痛くて今すぐ寝転びたいし、目眩はするし、散々だ。凛海、覚えとけよあいつ。可愛いからって許すと思うな。

「いやいやそんなわけが……」

 マキさんはまだ自問自答している。1年間自分の中に溜まっていた嫌な思い出を払拭しようとしたら、実はそれは虚偽でした、なんて言われたらまぁこうなってしまうだろう。

「ま、前原君」

 そんなマキさんを置いて、桜咲さんが俺に向き直る。

「……ど、どうしたの?」

 返答が上手くできない。目眩がする。
 しかし彼女は恐らく今勇気を出して1歩踏み出そうとしている。ここでどうして俺がリタイアできようか。いや、出来ない。

「前原君は……君は、『どっち』なの?」

「……」

 『どっち』かぁ。

 良い人ですか?悪い人ですか?
 嘘をついたんですか?ついてないんですか?
 美琴ちゃんへの言葉は本心ですか?そうじゃないんですか?

 考えれば考える程意味を孕んだ単語だ。この問いに対する返答で、桜咲さんの俺への印象は固まってしまうだろう。今彼女は揺れ動いているのだ。俺という人間の本質を判断しかねているのだ。それをこの問いでハッキリさせようとしている。

 マキさんや黒瀬くん、存在感のないクラスメイト達もこの問いには注目している。

 ……目眩がする。

 どうやって答えたものか。正直血が流れすぎてて思考が厳しい。現状で考え込んでしまうと変な答えに行き着きそうで怖い。
 もう脊髄反射で答えてしまっていいんじゃないか?

 あー……目眩がする。
 取り敢えず発言しよう。

「それは、分からない。俺には当時の記憶はないし、その時前原仁が何を考えていたかなんて知らない」

「……そう、だよね」
 
 これはある意味では最低な返答。判断することを放棄し、ただただ自己保身に走った結果の中途半端な、何も解決しないクソみたいな答え。これには流石にマキさんも黒瀬くんも頬を引き攣らせている。

 目眩がする。

 いや、ちょっとまって。
 まだつづきがあるから。

「だけど、これからの俺は『本当』だ。発言も、笑顔も、桜咲さんに見せる全て嘘偽りないと誓う」

 めまいがする。

 思考がまとまらない。
 じぶんがなにをいっているのか判断がつかない。

 おれは桜咲さんにおぼつかない足取りで近づく。

「君は1年前からあまり笑わなくなったと聞いた」

 桜咲さんのめのまえに立つ。
 こういう時はどうすれば?
 とにかく、こうしよう。

「ふぁえっ!!??」

「「はぁ!?」」

 力いっぱいかのじょをだきしめる。落ち込んだおんなのこを慰めるのはいつだって男の包容力だ。とおもう。

「1年前のあの出来事なんて、いつか笑い話に出来るくらい、笑い飛ばせて冗談吐けるくらい、これから俺がお前を幸せにしてやる」

「……!?」

「前原、おまえそれ……」

 めまいがする。
 頭くそいたい。
 ねたい。

 もうじぶんが何言ってるか、なにしてるかわからん。だけど、今ことばを止めてはいけないと思った。

「……だから、笑え雛菊ひなぎく。お前は、笑顔が1番輝いていて、1番素敵だ」

「……」

「雛菊は可愛い。笑顔が可愛い。それを脅かす奴がいたら俺がぶっ飛ばしてやる。……俺自身をぶっ飛ばす」
 
「……ま、前原君?」

 めまいがする。

 とにかく強く桜咲さんをだきしめる。

「ひゃう!?」

「大丈夫だ。お前は俺が守るから」

「ひゃい……」

 めまいがする。
 せかいがまわる。

 今日はなにしにここへきたんだっけ?
 わからない。わからない。

 でも、このだきしめるおんなのこを慰めて大切にしなければいけないことだけは理解できる。それがケジメで、先程までの俺が強くねがっていたことなんだと、はっきりと認識できる。

 おんなのこは……。

 良かった、さっきまでのくらい表情はきえうせ、赤く染めすごくうれしそうなかおをうかべている。おれはこのこを慰めることができたのだろうか。

 だとしたらもくてきはたっせい。
 やったね。

 もう、げんかいだ。
 めまいが、する。


 今にも暗転しそうな意識の中、最後に見えたのは倒れる俺を優しく抱き抱える白銀の女の子だった。

 ソフィ、無茶をする俺を支えてくれて本当にありがとう。母さん、姉さん、心愛、いつも無茶してごめんなさい。

 でもこれで過去のケジメは付けられた、のか?分からないけど、兎に角スッキリした。


 あー。


 つかれた。
 最近気失う事多すぎだろ。

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