俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい
鉄槌
脳みそが沸騰しそうだ。
『腸が煮えくり返る』とはよく言ったものだと思う。本当に腸が怒りで煮えたぎっている。
あの下卑た笑いを浮かべるアイツ。
俺は1歩また1歩と歩を進める。爪がくい込んで血が滲んでもなお強く拳を握る。
心愛がお前に何かしたのかもしれない。何があったか俺は知らない。
けど、それは女の子を殴るほどの事だったのか?
『ギリィ…!』
歯を食いしばり過ぎて嫌な音が頭に流れる。このままだと歯が割れてしまいそうだ。
『人を傷付けるのは悪いこと』
人は人生を送る中、いつの間にかこの常識を身に付ける。親や先生、友達に教わったのか、本を読んで得た知識なのか。過程や方法は幾万とあるだろうが、結果として上記の常識を知る。法律で定められているため当たり前のことだ。中には傷付けたり傷付けられたりすることに性的快感を覚える者や、何の感慨もなく平気で傷付ける者もいるが。
しかし大概の人は法に従い人を傷付けることはない。傷付けた者は、暴行罪や傷害罪に当たるとして罰せられることになる。正当防衛が認められた場合事情は変わってくるだろうが、自分以外の誰かを守るため、というのは考慮されない。
中川真二の件に関してはお互いに罪を犯していたので、明るみに出ることはなかった。
だけど、今は?
俺があのクソ野郎をボコボコにすると罪に問われる可能性はかなり高い。愛する妹を殴られようと、俺は殴り返してはいけないということだ。
クソ喰らえ、だ。
俺が犯罪を犯した場合悲しむ人は山ほどいるだろう。ファンクラブもある。
だけどそれは、あのクソ野郎を殴らない理由になるのか?
これから俺が行うことは断じて心愛のためにするわけじゃない。たとえ心愛がやめてくれと泣き叫んだとしても俺は成し遂げる。
ただの俺のわがまま。
いつも笑顔を絶やすことのなかった大好きな妹を殴ったクソ野郎を許すことの出来ない、ただの俺の自己満足。
だからみんな許してくれ。
考え方が幼くて、自分を制御できない哀れな俺を。
「おい」
クソ野郎の背後に立った俺は、肩に手を置きつつ声を掛ける。このまま肩砕いてやろうか。
「あ?なんだ」
頬がこっちを向いた。
行くぞおら。
「歯ぁ食いしばれ」
手が壊れるほど強く握った拳を、肩が壊れるほど振りかぶった。
拳を頬に!
『ボキィ!!』
「……ごぉっ!?」
殴った音というよりかは、何かが折れた音が聞こえた。
クソ野郎は2メートルほど吹っ飛んだ。
「おごごご……!?おぇえええっ!!!」
頬を両手で抑えて地面をのたうち回っている。おいおい、虫かお前は。
「「……」」
心愛達は唖然とした表情で固まっている。残りの男2人組も同様だ。まぁいきなり人が殴り飛ばされればこんなリアクションにもなるか。
……ていうか、殴った右手が動かん。握ることすら出来ず、全く力が入らない。殴った方も痛いってこれの事か?まさかさっきの何かが折れた音って俺の拳か?おいおい、やばいだろ。……まぁいいか。後で考えよう。
「俺の妹に何してんだお前」
未だに『おごごぉ……』と奇声を発しながら蹲っているクソ野郎を睨む。ここがファンタジーな異世界ならお前は死んでいるところだ、運が良かったな。……なんて思ってみる。
「お、お兄ちゃん!?」
いち早く正気に戻ったのは妹の心愛。
「そうだよ。怪我は大丈夫?心愛」
頬を指でトントンと指し、安否を確認する。言われてから気が付いたのか、ハッとした顔になり自分の頬に触れる心愛。
「あ……うん、私は大丈夫だよ。それよりなんで……」
少し赤くなっているがどうやら無事のようだ。
『なんで』か。
なんでここにいるの?なんでこんなことしたの?
色んな解釈がある。兄が目の前で人を殴り飛ばしたのだ。混乱していることだろう。怖がらせてしまったかもしれない。
それでも俺の言うことは決まってる。
「ん?ただアイツがムカついたから殴っただけだよ。怖がらせてごめんね?」
「……ッ!もう……お兄ちゃんは本当に……」
あれ?なんか心愛がまた泣き出してしまった。よっぽど怖かったのだろうか。まぁ女子中学生から見た男子高校のケンカなんて正しく大怪獣バトルみたいなものだろうし、怖くて当たり前か。後でいっぱい謝ろう。
「「お、お兄ちゃんがなんでここに……」」
ののちゃんと愛菜ちゃんが問いかけてくる。うむ、ののちゃんのアホ毛は今日も絶好調だし、愛菜ちゃんの焦げ茶色の髪のウェーブも見事なものだ。
「妹たちのピンチに駆け付けたよ」
うん、なんか1発本気で殴ってかなり落ち着いてきたみたいだ。心愛の無事も確かめた事だしな。
「「なんなんだこいつ……」」
「おぇえ……」
呆然としている男2人と、蹲っているクソ野郎は一旦放っておこう。あと、なんなんだこいつは俺のセリフだ。
というか、殴る直前に顔を見たのが、俺はこいつの顔を知っているぞ。
確か名前は『竜崎郷』。少し前に莉央ちゃんの家へ遊びに行った時、卒業アルバムにこいつは載っていた。つまり莉央ちゃんの中学時代の同級生というわけだ。顔がかなり整っていたので記憶によく残っている。
その後すみれ先輩に竜崎郷のことを聞いたのだが、あまり答えたくなさそうだった。
「おぇ……」
……まぁ、実際に会ってみるとその理由も分かった気がする。
とにかく、落ち着いてきたし何があったのか確認しないと。男共とは話したくないから放置しておく。
「それで、何があったの?心愛が殴られた場面しか見てなくて状況がよく分からないんだ」
へたれこむ妹たちに目線を合わせるように屈む。
「私が説明するね」
心愛が弱々しく挙手をする。
「……大丈夫?怪我してるだろうし、ののちゃんか愛菜ちゃんにお願いしてもいいんだよ?」
「ううん、私が説明したいの」
そうか。本人がそう言うなら仕方ない。
「うん、分かった。じゃあ心愛、説明してくれる?」
「うん。まずね……」
そうして、心愛が口を開き始めた。
『腸が煮えくり返る』とはよく言ったものだと思う。本当に腸が怒りで煮えたぎっている。
あの下卑た笑いを浮かべるアイツ。
俺は1歩また1歩と歩を進める。爪がくい込んで血が滲んでもなお強く拳を握る。
心愛がお前に何かしたのかもしれない。何があったか俺は知らない。
けど、それは女の子を殴るほどの事だったのか?
『ギリィ…!』
歯を食いしばり過ぎて嫌な音が頭に流れる。このままだと歯が割れてしまいそうだ。
『人を傷付けるのは悪いこと』
人は人生を送る中、いつの間にかこの常識を身に付ける。親や先生、友達に教わったのか、本を読んで得た知識なのか。過程や方法は幾万とあるだろうが、結果として上記の常識を知る。法律で定められているため当たり前のことだ。中には傷付けたり傷付けられたりすることに性的快感を覚える者や、何の感慨もなく平気で傷付ける者もいるが。
しかし大概の人は法に従い人を傷付けることはない。傷付けた者は、暴行罪や傷害罪に当たるとして罰せられることになる。正当防衛が認められた場合事情は変わってくるだろうが、自分以外の誰かを守るため、というのは考慮されない。
中川真二の件に関してはお互いに罪を犯していたので、明るみに出ることはなかった。
だけど、今は?
俺があのクソ野郎をボコボコにすると罪に問われる可能性はかなり高い。愛する妹を殴られようと、俺は殴り返してはいけないということだ。
クソ喰らえ、だ。
俺が犯罪を犯した場合悲しむ人は山ほどいるだろう。ファンクラブもある。
だけどそれは、あのクソ野郎を殴らない理由になるのか?
これから俺が行うことは断じて心愛のためにするわけじゃない。たとえ心愛がやめてくれと泣き叫んだとしても俺は成し遂げる。
ただの俺のわがまま。
いつも笑顔を絶やすことのなかった大好きな妹を殴ったクソ野郎を許すことの出来ない、ただの俺の自己満足。
だからみんな許してくれ。
考え方が幼くて、自分を制御できない哀れな俺を。
「おい」
クソ野郎の背後に立った俺は、肩に手を置きつつ声を掛ける。このまま肩砕いてやろうか。
「あ?なんだ」
頬がこっちを向いた。
行くぞおら。
「歯ぁ食いしばれ」
手が壊れるほど強く握った拳を、肩が壊れるほど振りかぶった。
拳を頬に!
『ボキィ!!』
「……ごぉっ!?」
殴った音というよりかは、何かが折れた音が聞こえた。
クソ野郎は2メートルほど吹っ飛んだ。
「おごごご……!?おぇえええっ!!!」
頬を両手で抑えて地面をのたうち回っている。おいおい、虫かお前は。
「「……」」
心愛達は唖然とした表情で固まっている。残りの男2人組も同様だ。まぁいきなり人が殴り飛ばされればこんなリアクションにもなるか。
……ていうか、殴った右手が動かん。握ることすら出来ず、全く力が入らない。殴った方も痛いってこれの事か?まさかさっきの何かが折れた音って俺の拳か?おいおい、やばいだろ。……まぁいいか。後で考えよう。
「俺の妹に何してんだお前」
未だに『おごごぉ……』と奇声を発しながら蹲っているクソ野郎を睨む。ここがファンタジーな異世界ならお前は死んでいるところだ、運が良かったな。……なんて思ってみる。
「お、お兄ちゃん!?」
いち早く正気に戻ったのは妹の心愛。
「そうだよ。怪我は大丈夫?心愛」
頬を指でトントンと指し、安否を確認する。言われてから気が付いたのか、ハッとした顔になり自分の頬に触れる心愛。
「あ……うん、私は大丈夫だよ。それよりなんで……」
少し赤くなっているがどうやら無事のようだ。
『なんで』か。
なんでここにいるの?なんでこんなことしたの?
色んな解釈がある。兄が目の前で人を殴り飛ばしたのだ。混乱していることだろう。怖がらせてしまったかもしれない。
それでも俺の言うことは決まってる。
「ん?ただアイツがムカついたから殴っただけだよ。怖がらせてごめんね?」
「……ッ!もう……お兄ちゃんは本当に……」
あれ?なんか心愛がまた泣き出してしまった。よっぽど怖かったのだろうか。まぁ女子中学生から見た男子高校のケンカなんて正しく大怪獣バトルみたいなものだろうし、怖くて当たり前か。後でいっぱい謝ろう。
「「お、お兄ちゃんがなんでここに……」」
ののちゃんと愛菜ちゃんが問いかけてくる。うむ、ののちゃんのアホ毛は今日も絶好調だし、愛菜ちゃんの焦げ茶色の髪のウェーブも見事なものだ。
「妹たちのピンチに駆け付けたよ」
うん、なんか1発本気で殴ってかなり落ち着いてきたみたいだ。心愛の無事も確かめた事だしな。
「「なんなんだこいつ……」」
「おぇえ……」
呆然としている男2人と、蹲っているクソ野郎は一旦放っておこう。あと、なんなんだこいつは俺のセリフだ。
というか、殴る直前に顔を見たのが、俺はこいつの顔を知っているぞ。
確か名前は『竜崎郷』。少し前に莉央ちゃんの家へ遊びに行った時、卒業アルバムにこいつは載っていた。つまり莉央ちゃんの中学時代の同級生というわけだ。顔がかなり整っていたので記憶によく残っている。
その後すみれ先輩に竜崎郷のことを聞いたのだが、あまり答えたくなさそうだった。
「おぇ……」
……まぁ、実際に会ってみるとその理由も分かった気がする。
とにかく、落ち着いてきたし何があったのか確認しないと。男共とは話したくないから放置しておく。
「それで、何があったの?心愛が殴られた場面しか見てなくて状況がよく分からないんだ」
へたれこむ妹たちに目線を合わせるように屈む。
「私が説明するね」
心愛が弱々しく挙手をする。
「……大丈夫?怪我してるだろうし、ののちゃんか愛菜ちゃんにお願いしてもいいんだよ?」
「ううん、私が説明したいの」
そうか。本人がそう言うなら仕方ない。
「うん、分かった。じゃあ心愛、説明してくれる?」
「うん。まずね……」
そうして、心愛が口を開き始めた。
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コメント
ノベルバユーザー330604
もうこれは書籍化してもいいのでは?
ペンギン
ありがとうございます!
また、楽しみにしています!
頑張ってください!応援しています!
Beast先輩
妄想も大概にねw
獣王メコン川
二本投稿ありがたい
めんたま
竜崎くんのことを全く覚えていない方は、「思い掛けない遭遇×2」をご覧下さい