俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

憧れの先輩 中編

「....ついにこの日が来た」

寝癖がすごいことになっている現状を意にも介さず、体を起こしてすぐ私はそう呟く。

おはようございます、蜜柑です。時が経つのはあっという間というもので、今日はなんと春蘭高校の説明会の日だ。期待と少しの緊張から昨日はあまり眠れず寝不足気味ではあるが恐らく大丈夫だろう。

「来ちゃったぁ...来ちゃったよぉ」

ずっとこの日を楽しみにしてきたのにいざ迎えたとなれば緊張してしまう。

今日は祝日のため前原先輩に会える事はないと思っていたけど、よくよく考えてみれば弓道部の練習があればもしかしたら会う可能性もあるんじゃないのかな?
昨日そう考えてしまったのだ。

あの前原先輩を生で見る事が出来るなんて凄すぎる。なんか色々耐えられない。平静を保てるのかどうか危うい。


「うーん....はっ!こんな事してる暇はなかった」

説明会は精一杯のオシャレをして向かうと決めていたんだった。制服を着用する事が義務付けられているから服装を凝ることは出来ないけど、髪型や少しばかりの化粧ならば力を入れる事が可能だ。

私は急いでリビングへと向かった。

「お母さ〜ん!おはよー!さっそくだけど髪お願いします!」

今日はサイドに軽く編み込みを入れる髪型にしたいのでそれはお母さんに丸投げしよう。
さすがに化粧は自分でする事にする。



「...うん、ばっちり!」

姿見の前で一回転してみたり顔を傾けて色んな角度から髪型を確認したりした私はそう言ってキュッと拳を握る。
さあ行こう。前原先輩が通う高校へ!

「行ってきます!!」

今日は少し大きめの声を意識してそう告げる。
そして私は勢いよく家から飛び出した。


「おはよう蜜柑」

すると見慣れた顔と声が。凪が玄関の前で待ってくれていたようだ。毎朝一緒に学校に通ってるけど、普段ならここから少し歩いた場所の公園で待ち合わせをしているので珍しい事だ。

「おはよう凪!待っててくれてるなんて珍しいね?」

「...まあ、気分よ」

「ふ〜ん」

ははーん。さては楽しみにし過ぎて、待ち合わせ場所にいても立ってもいられなくて直接来ちゃった感じかな?本当に凪は可愛いなあ。

「...早く行くわよ」

「あっちょっと待ってよ〜!」

またニヤニヤしながら眺めていると居心地が悪くなったのか凪がササっと移動を開始してしまった。素直じゃないんだから。

その後私達は春蘭高校へと向かう電車へ乗るため駅に向かった。駅への道中、制服を着た他校の生徒の姿をチラホラと見かけたが恐らく説明会に行く人達だろうと思う。会場である体育館のキャパシティギリギリらしいからかなりの人数が集まるだろうし。

「切符買うわよ」

「は〜い」

率先して行動してくれる凪は本当に頼りになる。凪の後を追従するように私は切符を買う。

「遂に春蘭高校の中に入れるね〜」

「そうね。でも今日だけじゃダメなのよ?ちゃんと勉強して来年度から通うのよ」

「うん!頑張るよ!」

電車をホームで待つ間会話を交わす。
凪と会話しながら辺りを少し観察してみると、駅までの道中で見た数より明らかに多くなった制服を着た女子生徒達が所狭しと立っている。...多すぎでしょ。

「はぁあ...仁先輩」「春蘭に受かって私は絶対前原先輩とお近づきになる」「さすがに今日は仁様と会えないかしらね」「弓道部の活動があればチャンスはあるかもしれない」「生前原先輩見たいなぁ」

周りの会話に聞き耳を立ててみると、大方の話題はやはりと言うかなんと言うか前原先輩のようだ。春蘭高校を目指す者達はやはり先輩の事は知っているようだ。まあ世間でも今知名度がグングン上がってるし当たり前なのだけど。ファンクラブもあるらしいし。...私もファンクラブ入ろうかな。

『間も無く一番線に電車が参ります』

スマホでファンクラブについて検索しようとした時、ちょうどアナウンスがなった。
むう。まあ調べるのは説明会が終わってからで大丈夫かな。
よし、春蘭高校へレッツゴー!

私はまだ見ぬ春蘭高校へ希望を抱きながら、凪と共に電車へと乗り込んだ。




『春蘭高校前、春蘭高校前です』

電車に揺られる事しばらく。アナウンスが車内に響いた。

や、やっと着いた!人多すぎるよ!満員電車ってこんなにキツイんだね。女臭くてとてもじゃないけど長時間は耐えられそうにない。何が悲しくて胸なんて押し付けられなければいけないのか。女の胸なんて触っても嬉しくないよ!

ドアが開いた瞬間に私と凪は転がるように車内から脱出し、一旦人が少ない場所へと移動し一息ついた。

「はぁ...早く駅出ましょ」

「...は〜い」

大量の女にプレスされたダメージが色濃く残る私達はお互い疲れたように言葉を交わし行動を開始する。

駅から出ると、綺麗な緑色に色付いた葉がついた桜の並木道が真っ直ぐ続くのが視界に入った。ホームページで見たのだが、この桜並木道は春になると美しいピンク色で一杯となり、入学者を迎えてくれるのだ。
そしてこの道が続いた先に堂々と聳え立つは、春蘭高等学校。真っ白で汚れひとつ見つけられない校舎は高貴な雰囲気を醸し出している。

「うわぁ...綺麗な景色だね凪」

「そうね。思わず見入ってしまいそうになるほどだわ」

私達はしばらく2人でその場に立ち尽くし改めて春蘭高校入学への意志を強くした。

この並木道を前原先輩は毎日歩いているのだ。昨日も歩いたに違いない。
何だろう、胸がザワザワする。憧れの人が近くにいるような錯覚を覚えてしまう。
私だって来年からこの道を毎日歩んでみせる。勉強頑張る!

「...よし、行こっか」

「...そうね」

私と凪は、『春蘭高等学校説明会会場はこちら→』という案内看板に従って行動を再開させる。並木道をまるで水が流れるように移動する学生達を見てみると、親と共に来ている学生も多いみたいだ。

夏休みに入る前にオープンキャンパスも開かれるのでそれに参加するかどうかこの説明会で決める人も多いと聞くし、親子で相談するのかもしれない。
私はもちろん参加するつもりだけど。


私達は人々の流れに身を任せるように移動した。春蘭高校前という名前の駅だけあって、駅から学校まではそう遠くはない距離だった。

「おぉ...着いた」

遂に憧れの春蘭高校を視界いっぱいに納める事ができた。不純な動機で志望した高校だけど、何故か少し感無量だ。

「春蘭高等学校説明会会場はこちらで〜す!」

校門付近でたむろっている説明会参加者達に混ざってシミジミと感慨にふけっていると、そんな声が聞こえてきた。
ふと、そちらに目を向けてみる。
すると、

「うわっ、男だ!男がいるよ凪!」

そう、美少年といっても差し支えない程の男子生徒が両手をめいいっぱい広げて声を張り上げている。あの制服は恐らく春蘭高校のものだと思う。という事は春蘭高校の生徒?

「男がいるわね。春蘭高校は生徒会を中心として説明会を行っているらしいから、恐らく生徒会員でしょう」

なるほど。生徒会は会長を筆頭に美少年揃いとの噂を聞くだけあって確かに中々のイケメン。
....でもダメだ。前の私ならあんな美少年を見たらテンションがブチ上がること間違いなしだったのに、今はそんな気分にはならない。

前原先輩だ。彼を、彼の笑顔を既に見てしまった私はもうダメになってしまったのかもしれない。絶世の美少年で通っている俳優をテレビで見てもダメだった。前原先輩の笑顔が脳裏に焼き付いて離れないのだ。麻薬のような強烈な中毒性を持つ美貌。私はもう前原先輩以外の男の人に興味を持てそうにない。

「わあ...あの人イケメンだ」「確かにイケメンだけど私は前原先輩一択!」「私も!」「仁先輩見た後だとやっぱり感覚狂っちゃうよね」「うんうん。仁様が天使すぎる」

どうやら周りの生徒達も同じ気持ちのようだ。分かる、分かるよ。前原先輩だけ輝きが違いすぎるんだよね。例えるなら夜空に瞬く一番星。どれだけ遠くにいたとしても一目で分かってしまうほどの存在感があるのだ。

「凪はあの人カッコいいと思う?」

興味無さげに生徒会の先輩を眺めている凪にそう問うてみる。

「さあ?私男に興味ないから」

うーん、予想通りの受け答え。幼馴染だから知ってるけど昔っから凪は男に関わろうとしなかったんだよね。この子本当に女の子?って疑いそうになったよ。
...それなのに、まさかその凪が前原先輩のファンになっちゃうなんて正直無茶苦茶ビックリしたよ。今でもちょっと信じられないし。
問い質したい気持ちはあるけど、幼馴染の私に自分から言わないって事は何か事情があるのか、其れともまだ時期じゃないのかもしれない。だからもう少し親友として様子を見守っていきたいと思う。

「春蘭高等学校説明会会場はこちらで〜す!」

じゃあ生徒会の先輩も案内してくれているみたいだし、そろそろ行きますか。

私達は案内に従って説明会の会場である体育館へと向かう。
校内には所々春蘭高校の先輩が立ってくれており迷う事なく進む事ができた。

程なくして体育館に着いた。校門からは正反対に位置しているらしい。

「うわぁ人いっぱい」

1番に目に入ったのは、人、人、人。
入り口にはたくさんの制服を着た女子生徒やスーツを着たその親御さん。所々男子生徒も見受けられる。追加参加者は抽選で数は減ったらしいが、それでもこの人数。前原先輩効果すごい。

次に目に入ったのは受付だ。入り口のすぐ横に長机が設置されておりそこで春蘭高校の資料などを受け取る事が出来るらしい。


「入るわよ」

「う、うん」

少しの間受付の列に並び資料を受け取った私達は、持参した中学校でいつも使用している上履きに履き替え人混みをかき分けて体育館へと入る。

中を見渡してみると床にブルーシートが敷かれ、大量のパイプ椅子が舞台に向き合うように置かれているようだ。舞台上には大きなスクリーンが下されており、席はもう前半分ほど埋まっている。

席は自由とのことなので私達は半分より少し後ろの席へと座った。

人が大勢いる時の独特の喧騒に包まれる。一体何人程いるんだろう。
学校説明会に参加するのは初めてのため緊張してしまう。それに、ここにいる人たち全員春蘭高校を目指している人だという事実に臆してしまいそうだ。これが受験か。

少し弱気になってしまった私は、助けを求めるように隣に座る凪へと視線を向ける。
彼女なら恐らくどんな事態にも動じないと思うのだ。その姿を見て私も奮起させてもらおう。...いつも頼りにしちゃってごめんね。

すると、凪はどうやら春蘭高校の資料に目を通しているようだ。真剣な顔つきで1ページ1ページを熟読している。

....なるほど。学校の資料を読むのはいいかもしれない。モチベーションが上がりそうだし、説明会の予習にもなる。
うん、そうしよう。

私は凪の真似をして、資料を読み始めた。



『間も無く説明会を開始する時間となりました。まだ席に着いておられない方はお急ぎ下さい。繰り返しますーーー』

資料を読み始めてどれくらい経っただろう。アナウンスが館内に響いた。

「あっ、もうそんな時間か」

早めに着いた筈だけど、思ったより集中してしまっていたようだ。
顔を上げて周りを首を巡らせると、既に席は殆ど埋まっている事がわかった。喧騒も先程よりは収まっている。



『では、只今より春蘭高等学校説明会を開始致します』

それから数分後、ついに説明会が始まった。
前原先輩が通う高校だ。隅々まで神経を行き渡らせて一言一句聞き逃さない!私が来年から通う(予定の)高校でもあるしね。

『まず初めに生徒会会長の桐生より参加者の皆様へとお伝えする事がございます』

ふむふむ、イケメンと名高い生徒会長さんか。校外まで噂が届くくらいだから凄そうだ。前原先輩を知る前は、生徒会長さんも私の志望動機に入ってたからね。

舞台にじっと注目していると、脇から制服を着た1人の男性が出てきた。
あれが恐らく春蘭高校の生徒会長だろう。

....おぉ、思ったよりイケメン。人生で見た中で2番目にカッコいいと思う。1番は言うまでもなく前原先輩だ。

ザワザワ...

生徒会長さんの登場で会場が僅かにどよめいたのが分かった。これは仕方ない。寧ろどよめかない方がおかしい。

『こんにちは、春蘭高等学校生徒会会長の桐生隼人です。本日はわざわざ我が校にご足労頂き誠に感謝致します。さて、早速なのですが前述の通り皆様にお伝えする事がございます』

マイクを片手に流暢に話しだす。生徒会長だけあって、こういう公の場は慣れているのかもしれない。
でも、お伝えする事って一体何だろう。

『事前に皆様がご存知の通りであれば、説明会は私、桐生が司会・進行役を務めさせて頂くのですが、誠に勝手ながら本日は私ではなく代役の者が司会・進行役を務める事となりました』

えっ、そうなんだ。でもイケメンの生徒会長が司会をするという事を目当てに来る人もいるって聞くけど大丈夫なのかな?

「えっ...桐生先輩じゃない人がやるの?」「えー...ちょっとショック」「私もそれ楽しみにしてたのに」

後ろの席から小声でそんな不平不満が聞こえてくる。さらに後ろだけではなく全体的に少しざわついているようだ。
ほら、やっぱり代役は悪手だと思う。なんでわざわざ代役なんて用意したんだろう?体調でも悪いのだろうか。

『不満がある方もいらっしゃるかと存じます。しかしそれには及びません』

.....?どういう事だろう?
生徒会長さんより凄い人が代役って事?生徒会にはまだイケメンが残ってるとかかな?

『代役に登場して貰った方が早いかと思いますので、早速壇上に上がって貰いましょう』

うんうん。

『では、出て来てくれ』

うんうん。


『ーーーー前原仁くん』

うんうん。


........。


.............。




ーーーーーーーえっ?



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コメント

  • 作者K

    会長すきだわぁ…

    0
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