俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

妹の妹がいて、妹が姉をする。

「あ、こんにちはののちゃん」

「こ、こんにちは!お兄さ...お、お兄ちゃん!」

梅雨の季節も終わりが見えてきた今日、俺はいつもの待ち合わせ場所である駅の時計塔に来ている。俺がベンチに座っていると、アホ毛をピョコピョコ揺らしながら小走りで近づいて来るののちゃんを発見したためとりあえずのこんにちは。

「お待たせしたみたいでごめんなさい...」

「ううん僕が早く来すぎただけだよ。ののちゃんの家に遊びに行くのが楽しみで張り切っちゃった」

「ふへっ?楽しみ...ですか、...そうですか。えへへ」

一瞬間が抜けた顔をするも、直ぐにニマニマと口角を上げるののちゃんは嬉しくてしょうがないって顔をしている。
つくづく思うがこの子は本当に素直だ。嬉しく思ったなら笑顔を見せる、悲しく思ったなら涙を見せる。そこには何も偽ることなんてない、何も我慢なんてしていない。人間とは皆どこか自分を抑制しているものだと俺はずっと思っていた。その場の空気を読み、関係を壊さないように適切な対応を常々心がけている。いや、心がけさせられている。狭い檻の中に閉じ込められているかの様な息苦しさを俺は前世ではずっと感じていたのだ。

眩しいなあ。
ののちゃんはとても眩しい。



「....お兄ちゃん?」

ののちゃんはいつまで経っても反応がない俺に痺れを切らしてしまったようで不思議そうに首を傾けながら声を掛けてくる。

まずい、ののちゃんの事を放ったらかしにしていた。ダメだな、ついふと前世の事が頭によぎると暫し考え込んでしまう癖がある。


「何でもないよごめんね。よしよし」

無性に撫で撫でしたい欲求に駆られた俺は、それに忠実に従う。
おチビちゃん3人衆は撫でやすい位置に頭が来る身長をしてるからついつい手を伸ばしてしまうのだ。

「ふへへ」

ののちゃんも幸せを味わっているようだしwinwinというやつだ。はたまた一石二鳥だ。
それは違うか。

「じゃあののちゃんの家に行こっか?案内よろしくね」

「はい!任せて下さいお兄ちゃん!」

胸をぽすっと叩きながら顎を上げるののちゃん。そういえばこの前自らの事を頼りになるお姉さんであると自称していたけど、どっからどう見てもお姉さんを頼りにする妹側なんだよねえ。まあ本人がそう思ってるなら、其れが1番なんだけどね。




「それでですね、ねねが、ボクがご飯を食べてる時に変顔をしてきまして。思わず盛大に吹き出してしまったんですよ!ヒドイと思いませんかお兄ちゃん!」

「あははっ、それはひどいね。ねねちゃんはよく悪戯をしてくるの?」

「そうですね〜、頻度はそれ程でもないんですけど偶にする悪戯が凶悪なものが多い印象がありますね」

俺とののちゃんは他愛ない会話を楽しみながら住宅街を進む。
ののちゃんは身振り手振りを加えて話をしてくれている。話に聞く限りでは中々楽しい家族をお持ちのようだ。悪戯好きのお茶目な一面を持つ妹のねねちゃんに、娘達に嫉妬心を抱く大人気ないお母さん。会うのが余計に楽しみになってきたな。

「あっ見えてきました!あれです!」

駅から歩いて20分ほど経っただろうか。
住宅街のある一角にある二階建ての一軒家を指差すののちゃん。全体的に少し淡いオレンジ色のような色でまとめられている。新築だろうか?老朽化している兆しはあまり見受けられない。

俺は「行きましょう!」と両拳をグッと握りながら張り切る可愛い妹に笑みを零しながらその後をついていく。


「ただいま〜!」

ののちゃんはドアを勢い良くガチャ!と開け、家の中へ元気な声を飛ばす。

「さっ、入ってください」

「うん、お邪魔します」

ののちゃんが家に入ることを促してくれたので、取り敢えず基本の礼儀として靴はきちんと揃え用意してくれたスリッパを履き玄関に上がる。

人の家の匂いがする...。自分の家の匂いって全然分からないけど、友達の家とか行くと結構強く匂いを感じるんだよね〜。何処も良い匂いではあるんだけど。

鼻をスンスン鳴らして失礼なことにののちゃんの家の匂いを堪能していると、玄関のすぐ前の廊下に位置する扉がカチャ...と静かに開けられた。

そしてドアを陰にそこからヒョコッと顔だけ出す小さな生き物が。
あれ?見た事ある。この子は....

「ののちゃん?」

そうあの小さな生き物は正しくののちゃん。黒髪ショートカットにヒョコッと生えたアホ毛。まん丸とした大きな瞳。うむ間違いない。
...間違いないのだが、ののちゃんは今俺の横に立ってるんだよね〜。
って事はあの小さな生き物は....。

「いや、ねねちゃんかな?こんにちは」

先程の呟きを否定してから挨拶をする。
この子は恐らくだがののちゃんの妹ねねちゃんだろう。本当に良く似てると思う。圧縮機でののちゃんを圧縮したらねねちゃんが出来上がりそうだ。

「......」

できるだけねねちゃんの緊張を解きほぐそうと足を曲げて視線の高さを同じにしたり、柔らかな笑顔を心掛けていたりしたのだが、当の本人はジーッと俺の顔を見ている。人見知りなのかな?それとも怖がらせてしまっただろうか。
...うーん?

「こら!ねね!きちんと挨拶は返さなきゃダメでしょっ」

どうしたものかと考えていたのだが、お姉さんモードのののちゃんが未だにジッと俺を見つめるねねちゃんを叱ってくれた。
とても意外な一面を目にしてしまった気がする。何か得した気分だ。

「....もしかして」

「うん?」

やっと口を開いたと思ったらこの場に似つかわしくない言葉から紡ごうとするねねちゃん。思わず疑問の声を上げてしまった。



「...まえはら....じん...さん?」



...うん?俺の名前を知っていたのか。
事前にののちゃんから聞いていたのかな。
俺はそう考えたのだが、

「えっ!ねね、お兄ちゃんのこと知ってたの?」

ののちゃんが仰天したように疑問を呈した。

....何ですと?
俺の名前を教えたのはののちゃんではないのか?
ならば何故俺の事を....?確かに駅の近隣で俺の存在が噂になっている事は知っているが名前までは特定できていなかったはず。
だとすれば...あれか?いやしかし...。

「ねねちゃん、どうして僕の名前を知っているのかな?」

俺は自分の予想に半信半疑ながら問う。

するとねねちゃんはサッとドアの影から頭を消し、トテテテと可愛らしい足音を響かせて何処かに行った。
数秒後またもやトテテテという足音と共に今度はおずおずとドアの影から全身を晒した。
そんな彼女は両腕で何かを抱き締めている。
それは見覚えのある、俺の家にもある代物であった。

「こ、これで...」

両手でそれを差し出すねねちゃん。
あー...予想が当たった。そうこれは、

「月刊スポーツ男子、か...」

そう、俺が巻頭カラーを飾ったあの月刊誌である。実はこの月刊誌はなんと全国誌であり、かなりの人気を誇るのだ。それも納得できる話ではある。男性が少ないこの世界において、比較的容姿の整ったスポーツ男子が汗水垂らして精を出す姿を記事にしている月刊スポーツ男子は世の女性たちのおかずになっていることだろう。ナニのおかずとは言わないがな。「月刊スポーツ男子を読まずは女子に非ず」という素晴らしいお言葉まで存在しているというからな。

しかしこんな小さな、確か小学校5年生だったかな?そんな年の女の子が月刊誌を読んでいるとは流石に驚いた。

「あ、あの...ほんもの?」

おっとまた考え込んでしまった。悪い癖だ。
こんな幼女を放置など男の風上にもおけない。

「うん、そうだよ。初めまして前原仁といいます。よろしくね?」

手を差し出しながら言う。

「....わぁああ!!凄いっ!凄い凄い!生で見たらもっとカッコいい!サインください!!」

ねねちゃんは両手で俺の手をギュッと握りしめながらピョンピョン飛ぶ。
お、おお。人見知りなのかな?と薄っすら思っていたのだがどうやら勘違いだったみたいだ。とても元気な子みたい。
サインか...。書いたことない.....。

「う、うん。サインまた後で書いてあげるね?」

「分かった!!やくそくだよ!」

ここは戦略的撤退を選ばせてもらおう。それまでにどんなのにするか考えておこう。

「おねえちゃんすごいね!あの高尚で人類の究極的存在のまえはらじんおにいちゃんとお友達だなんて!」

ね、ねねちゃん...?難しい言葉知ってるんだね。幼女が使う単語じゃないのが混ざってるよ?

「そ、そうでしょ?流石ボクでしょ?」

ふふんっと平べったい胸を張るののちゃん。

「うんっ!あ、じんおにいちゃんどうぞ中に入って!お母さんが待ってるんだよ!」

ねねちゃんが俺の手を引いて彼女が出てきた部屋の中へと案内してくれる。どうやらそこがリビングのようだ。そしてそこにののちゃんとねねちゃんのお母さんがいると。

「ふふ、うん。お邪魔しま〜す」

ぐいぐい此方を引っ張ってくる幼女に苦笑を漏らしつつリビングへと俺は入っていった。


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コメント

  • ユーノ

    高尚とか究極的存在とか漢字なのに、名前だけ平仮名なのすごくイイw

    2
  • アマスさん

    ねねちゃん、カワユスw

    3
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