俺が転生した世界はどうやら男女比がおかしいらしい

めんたま

初日

 
 よし、上手く自己紹介できたのではないだろうか。初手はばっちり決めることができたはず。人は第一印象が大切とはよく聞く話だからな。

 福岡先生の出欠をとる声を聞きながら俺は自分を評価する。

 朝のホームルームが終わり、先生が教室から出て行った。その瞬間生徒達が各々会話を始め室内が喧騒に包まれる。

「……」

 この世界の女子達は積極的らしい。だから、てっきり前世の転校生ばりに俺の席の周りに集まってくるかと思ったのだが、みんな遠くからチラチラとこちらに視線を送るだけだ。

「……」

 べ、別に悲しくなんてないんだからねっ!

 多分俺が記憶喪失であると先生に伝えられたことから、どう接すればいいか分からないから喋りかけてこないに違いない。うん、絶対そうだ。決して歓迎されていないわけではないはず。そうに決まっている。

 澄ました顔でも内心大荒れだった俺だが、ふと視界の端に1人の女の子がこちらに歩いてくるのが見えた。そちらに顔を向けようとした瞬間、

「よお、前原、だっけか?」

 横合いから、こっちの世界に来てから初めて男に声をかけられた。
 女の子と喋りたかったが、男の子と喋るのは貴重な経験だからな。まずはこの子とお喋りしようかな。

「うん。君は、大垣聖也おおがきせいやくんだったかな?」

 俺はこの男の子の名前を先程の出欠時に記憶していたのだ。別に珍しい男だから覚えていたのではなく、なんとこの体むちゃくちゃ基礎スペックが高く、記憶力がえげつないのだ。覚えようと意識を集中するだけで、刻み込まれるように脳に定着する。出欠だけでクラスメート全員の名前をほとんど覚えてしまったのだ。なんてことだ、リアルチートだよ、前原仁くん。

 大垣くんは、この世界の男子にしてはかなり高い身長だ。175センチ程だろうか。少しぽっちゃりしていて、顔は、まあ、うん。こっちの世界では普通くらいだな。ちなみに、こっちの世界の男子の容姿の平均は前の世界よりも低い。前の世界での中の下の顔はこっちの世界の上の下くらいだ。あと、こっちの世界では、身長は男子と女子それほど違いはない。男子の方が少し高いくらいだろうか。俺は165センチだな。平均より少し上くらい。

 よって大垣くんは、こっちでは高身長のフツメンと言うことになる。前の世界では少し背の高いブサメンだっただろうが、こっちの世界では結構モテるんじゃないか?男少ないし。


「おう、聖也って呼んでくれ。よろしくな」

「わかった。よろしくね、聖也」

 聖也が笑顔で自己紹介してくれたので、俺もとびきりの笑顔で返す。中々良い表情するじゃないかこいつ。……俺は断じてホモではない。

「お前……やっぱすげえ美形だよな。女子達に襲われないよう気をつけろよ?」

 聖也は後半は声を潜め視線を鋭くしながら、アドバイスしてくれた。……もう朝痴姦されたなんて言えない。
 それより、この世界の男達はみんな偉そうでいけ好かない奴らばかりだと思い込んでいたのだが、実際はそうでもないらしい。俺の身を案じてくれている事が顕著に伝わってくる。もしかしたら、女子に対する態度だけ悪いが同じ男には普通に接するのかもしれない。

「あはは、気をつけるよ。ありがとう」

 聖也とはその後も学校のことや同じ男のクラスメートことなどを教えてもらった。
 このクラス最後の男の子、細田直達ほそだなおたつくんは、俺たちには近寄ってこず、ずっと自分の席で本を読んでいたようだ。前髪で目まで隠れている、前世でもクラスに1人はいたタイプだな。


 俺はその日の午前中、久しぶりの高校の授業を受けた。1度はやった内容だったし、この体のスペックも相まって内容の理解に問題は全くなかった。寧ろ楽勝がすぎて、退屈だった程だ。

 昼休みは、聖也がお弁当を持って俺の席にやって来たので、持参した母さんの手作り弁当を出し、お昼ご飯を共にした。
 彼はかなりお節介焼きの良い奴らしく、女子達の危険性を説いてくれた。曰く、奴らは虎視眈々と獲物を狙う猛獣。曰く、奴らは性欲に溺れた亡者。など、もうこいつ一周回って女子の事大好きなんじゃね?ってなるくらい女子の話をしてくれた。

 そして、昼休みが終わりにさしかかってきた。   
 確か午後の1つ目の授業は体育だったはずだ。体操服のズボンはもう制服の下に履いているので、上だけサクッと着替えてしまおう。

 そう思い、俺はその場で制服を脱ぎ、上半身裸になる。そして体操服を着ようと腕を通そうとした時に、違和感に気付いた。音が消えてる。あれだけ騒がしかった教室が、『シン……』と静まり返っている。

 なんだ?それまで騒がしかったのに、なぜか唐突に一瞬だけ静寂が訪れたりする、よくあるあれか?
 そんなことを思うがそんな感じでもない。あれ?と首を傾げていると、

「馬鹿野郎!!」

 『スパァン!』と痛みはないが、音だけは良い感じで聖也が俺の頭をしばいた。

「えっ?」

 おいなんだなんだ?そんな綺麗なツッコミをされるようなボケをかましたつもりは無いぞ。

「えっ?じゃねぇよ!!は、早く服着ろ!服!なにやってんだよ全く!……おい!こっち見てんじゃねえぞ女子共!散れぇ!」

 そこまで言われてようやく思い出した。つい前世のクセで当たり前のように脱いでしまった。前までは教室に女子がいようがいまいがお構い無しに着替えてたからな。男子の上裸などさらけ出した所で誰も文句は言わない。

 しかし、しかしだ。

 俺が今行っている行動はこちらの世界では、クラスの超美少女JKが急に上半身裸になっておっぱいボロンとしたようなものか。おふ。

 クラスの女子達は、聖也に怒鳴られたにも関わらず鼻を抑えながら全身の血が顔面に回っているんじゃないかと言うほどに顔を赤く染め、目を見開き食い入るように俺の裸を凝視している。

 な、なんだこれは。恥ずかしい……。馬鹿な、前世の記憶を持つ俺が上裸をクラスメートに晒した所で恥ずかしい筈がない。俺の感性もこちらの世界に引っ張られているとでもいうのか……?
    いや、今はそんなことよりも、

「ご、ごめんね?つ、つい……」

「ついもなにもねえ!早く着ろ!!」

「は、はいっ!」

 聖也に叱られてしまった俺は、自らの感情に戸惑いながらも着替えを手早く済ませ、教室を飛び出した。

 くっ!俺としたことが同じ過ちを犯してしまうとは。豪に入れば郷に従え。何時までも前世の価値観で行動できないのだ。次からは警戒を怠らないようにしないと。


*           *           *


 そんな事件がありつつ、初日の学校を無事(?)終えた俺は帰り支度を整え、教室を出た。聖也は部活があると言って先に教室を出て行った。

 俺も何か部活に入ってみようかなあ。前世と一緒にするかな……。前の人生では、部活は尋常じゃない力の入れ具合だったからな。今世でも頑張り抜いてみるのも悪くない。

「ふぅ……帰りますか」

 久方振りの放課後という感覚を懐かしく思いながら、玄関を出て校門に差し掛かったあたりで、


「あ、あのっ!!」


 背後から女の子から声を掛けられた。
 ……俺の後ろに立つんじゃねえ。……というのは冗談で。何か用事かな?モテる男は辛いぜ。

「はい?なんでしょうか」

 俺は笑顔で振り返る。愛想は大事だ。死んだおじいちゃんが言ってた。

「すみませんでしたぁああ!!」

 しかし、予想外も予想外。何故かその女の子は突然土下座する勢いで、というか土下座しながら全力で謝ってきた。

 ……はいっ?

「ど、どうしたんですか?あ、あの、周りの目もありますから土下座はやめてください」

「あっ、そうですよね、ごめんなさい……」

 俺が困惑しつつお願いすると女の子は『ぱんぱん』とスカートに着いた砂を払いつつ立ち上がる。
 しかし、一体なぜ俺は謝られたのだろうか。何かされた?人違いか?いや、男の俺を間違うっていうのもあまりないと思う。あとむっちゃイケメンだし。

 答えが見つからないまま、とりあえず女の子に視線を移す。先程は瞬時に土下座されたので顔も満足に見られなかった。……女の子は落ち着きがなく指をモジモジと絡ませており、視線が合うとサッと目を逸らされてしまう。

 ん?見たことあるな。前世では滅多にお目にかかれない程の可愛いらしい顔立ち。クラスメート……にいた気がする。名前は、確か神崎さん。はて、なぜこの子は俺に土下座したのだろうか。

「わ、わたしっ!今朝電車で、そ、その、ち、痴姦をあなたにしてしまいました……」

 後半になるに連れ、声が萎んでいく。

 ……ほむ?痴姦?

 ……あぁ!痴姦!今朝俺に痴姦をしてきた女子高生だ!ま、まさか同じクラスだったとは……。末恐ろしいな。気づかなかった俺も俺だけど。あの時は顔覚えている余裕なかったからなぁ。
 しかし、なんでまた告白してきたのだろうか。

「私、前原くんと同じ1組の神崎莉央と申します!前原くんの自己紹介を聞いて、私こんな良い子になんてことをしてしまったんでしょう、と思いまして、今更ではありますが、謝罪をさせて下さい。言い訳をするつもりはありません、本当にすみませんでした」

 神崎さんは一言一句俺の目を見て丁寧に紡ぎ、深々と頭を下げる。

「……」
   
 ……良い子だな。確かにこの子は罪を犯した。でもその自分の罪を認めて、告白し、その相手に謝罪するなんて、誰にでもできるわけじゃない。真摯で、優しい子だ。つい感心してしまう。

 でも下校時間だから、周りに人がいるし結構目立っているんだよな。俺の外見も相乗効果で。

「僕はそんなこと全然気にしてないから、神崎さんも気にしないでいてくれると嬉しいな。でも謝罪に来てくれてうれしいよ、ありがとう」

「えっ!?いや、でも、え?」

「ここは目立つし、場所を替えよう?」

 そう言って俺は神崎さんの手を取り、場所を移動する。彼女はあうあうと言葉にならない混乱状態に陥りながらも大人しく付いてきてくれる。
 場所は、そうだな、テンプレである体育館裏に向かおう。秘密の話はあそこって決まってるからな!アニメの見すぎか?

   
 さて、どうしようか。

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コメント

  • ばけねこ

    考えずに連れ込むなw

    0
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