銃剣使いとアストラガルス ~女の子たちに囲まれる、最強と呼ばれた冒険者の物語~

夕月かなで

第17話 剣はその身を焦がし、ただその手で舞い踊るだけ

 アストが丹精込めて造り上げた滑らかなフォルムと、敢えてガンの魔法が組み込まれた構造を剥き出しにする形で造られた鋼の一振りは、アストによって『銃剣イガルブ』と名付けられている。

 俺はこの銃剣イガルブをテーブルに置いて隅々までチェックしていく。毎日夜には手入れをしているが、久しぶりの討伐だ。何かあったら大変だからな。

 通常の剣は刃があって柄があって、その間に鍔がある。刃には両刃と片刃と二種類あり、例外は刺すことに特化したレイピア等だろうか。柄には滑り止めの紐を巻き付けており、これは鍛冶師によって巻き方が違ったりするらしい。鍔は大体似たようなものだが、鍔に小さな盾が付いていたり指を入れて力を入れやすくするものもある。

 そういった剣にガン魔法を行使する構造を付け加えた物が銃剣、ガンブレードというものである。ガン魔法をより簡易的に、且つ威力を上げる為の工夫がされており、その為の構造は数十年前に開発されたものだ。しかし今も改良されながら発達している為、常日頃から進化している武器である。

 ガン魔法は物を意識した方向へ飛ばすだけの魔法で、魔法によって属性は変わる。それを武器として確立する為に、バウレルという弾を飛ばす方向を定める筒のようなもの、一般的に弾と呼ばれる先を尖らせた三角錐型のバレント、その弾を纏めて銃剣内に補充するマガジアという箱である。ガン魔法を使えない人であれば更に追加して、スイッチを押すだけで簡単なガン魔法を起動できる魔法道具を組み込むこともできる。まぁ、俺の場合は問題なく魔法を使えるから搭載してないが。

「――魔法は体内にある魔力という力を持って行使される。故に個人差が生まれ、血筋や生まれ持った才能で左右される。王国に従事している研究者の中には、その定義に対して違った理論を提示している人もいるが、現状証明はされていない。か」

 王国の研究者が書いた、魔法概念のススメという本に載っている文章を暗唱する。俺達兄弟は全員魔力を持っているが、その最大の理由は両親共に魔力が高かったことにあるのだろう。アリルは少なめだが、俺とミルねぇは魔法で戦闘を行えるくらいに魔力を保有している。ミルねぇは医院で働いていた母によく魔法を教えてもらっていたから、治癒魔法には深く精通している。まぁ父が俺達全員を鍛えようとしていたので、多少の攻撃魔法も覚えているようだが。

「ユーしゃん、おまたー!」
「ちゃんとお待たせしましたって言うです!」

 俺が銃剣イガルブを見ていると、着付けが終わったようで皆が帰ってきた。ミルねぇと姫さんは二人とも同じ型の胸部を守るチェスタ、脚を守るレギント、腕を守るガントという基本的な構成の装備を着けている。俺の装備しているものより防御する範囲が広く、関節の部分も守られるようにできている。だが鍛冶師のプライドか分からないがミルねぇは黒色に、姫さんは銀色にと装備する人の髪の色に合わせたカラーリングが所々にされている。

「ど、どうかな? ユーくん」
「どう? 似合うでしょ?」
「おう、良いじゃねぇか。アストの防具は一流だ、それなら少しくらいはモンスターの攻撃も耐えれる。……って訳でもねぇからよ。避けれる攻撃は避けろ」

 俺の言葉に二人は不服そうな表情を浮かべるが、俺の顔を見て溜め息を吐いた後頷いた。

「うん!」
「なるほどね、肝に銘じておくわ」
「それにしてもユーしゃん、もっと姿形を褒めてあげんといかんでー」
「そうだよ! 私の冒険者姿もいいでしょ! なんで気付かないかなー?」

 ああ、不服そうな顔をしたのはそういうこと。

「あー凄い凄い。似合ってるよ」
「適当!」

 いや、さっきまで着てた私服に軽装備が勝ったら駄目だろ。圧倒的に私服の方が可愛いし。さて、防具は決まったし次は武器だな。特に武術を持っている訳でもないし、訓練をしてる訳でもないから軽くて扱いやすい武器がいいだろう。

「二人共、武器は何がいい?」
「銃剣!」
「わ、私は何がいいかなー?」
「フィー、一旦待とうか。剣を触ったことは?」
「無いわ!」

 元気よく答える姫さん。しかし、全くの素人がいきなり銃剣は難しいだろう。唯でさえ剣を触ったことがないのに、ガン魔法との併用なんてできるはずがない。

「じゃあ止めておこうな? 銃剣はガン魔法の技術と剣の技術を使い熟せないと駄目だから」
「そっか……それじゃあ、この大きな剣とかカッコイイかも!」

 姫さん、お前さん夢を持ちすぎだよ……。いくらなんでも両手剣は姫さんの細腕じゃ持てないぞ。

「一回持ってみろ、絶対無理だから」
「よーし! んっ、むむむっ! うー!……はぁ、はぁ、駄目、こんなの持てないわ」

 店に置いてある両手剣を持ち上げようとした姫さんだったが、数秒力んでも持ち上がることはなかった。そりゃまぁ、厳しいよな。

「二人共力は無いんだし、軽い短剣か短めの剣にしておけ」
「それやったら、うちらがオススメを何本か用意するわー。ルーテ、任せた!」
「それってうちら、じゃないです。ルーテだけです。少しお待ちくださいです。」

 店内をチョコチョコと駆け回るルーテだが、身長も相まって子供がはしゃいでいるようにしか見えない。いや、実際に口に出せば怒るから絶対言わないけど。二十二歳には見えないよ……。

「この三本がオススメです! 扱い易くて軽いものです」
「おお! 持ってもいいの?」
「大丈夫です。ただ振り回さないようにだけ注意するです」

 意気揚々に一本の短剣を手に取って、握ってみる姫さん。その目はまるで冒険者を夢見る少年少女のようにキラキラとした、小さい見た目的にはピッタリな姿だった。どの剣もアスト特製で造形が綺麗だから、絵になるもんだ。

「外に行く前にある程度動きを教えないとな」
「……協力する」
「ありがとな、アリル。リィナも学院生なんだし、人に教えるくらいできるだろう。多分」
「……大丈夫だと思う。多分」

 リィナはそこまで詳しくないが、見習い騎士である学院生は授業やらで知識や戦い方を教えてもらっているはずだ。偶には教えることも、自らを顧みることになっていいだろう。アリルについては爺さんも言ってたが、父の剣を追いすぎるきらいがあるからな。一度自分の剣を見直す為にもいいかもしれない。

「わたくしはこれにするわ!」
「じゃあ私はこの子で」

 姫さんが持っているのは俺の銃剣や通常の長剣よりは短く、しかし短剣よりは長い中間の剣。長剣より取り回しが良いことと程よいリーチが特徴か。銀色に光る刀身は両刃で、柄には黒い紐が巻かれている。

 ミルねぇが持ち上げたのは短い短刀。リーチが短い分、取り回しに優れておりモンスターに接近された場合等には充分効果的だろう。魔法をメインに展開するミルねぇにはピッタリな武器だ。白い両刃の刀身、柄は紫色の紐が巻かれている。

「フィーの方は短長剣ウィレル、ミルルは短剣シガレアやね。どっちの子も癖の少ない扱いやすい子や、大切に使ったってな」
「ええ!」
「うん!」

 それぞれ剣を鞘に入れて抱きしめる二人、やっぱり自分専用の物を手に入れるのは嬉しいよな。俺もこの銃剣を父に買ってもらった時は、一日離さなかったもんだ。俺はこれまでの買ってきた勘で大体の値段を予測し、金貨二枚をアストの前に置く。

「よし、そろそろ酒場に行くか。金はこれで足りるか?」
「足りる所か余るわユーしゃん。お釣用意するから待っといてな」
「いや、いいよ。これからもよろしくってことで取っておけ」
「なんやユーしゃん、随分と金払いええやないの。さては護衛依頼の報酬が弾んでるんやなぁ? そこまで言うんやったらありがたくもろとくで!」
「おう、その代わりまたメンテナンスよろしくな」
「任せとき!」
「またのお越しをです!」

 そうして俺達はアストとルーテに別れを告げ、紅のアストルテを出てリィナと合流する為と、昼食をとる為に酒場を目指す。まずはこの、蒸し暑い工房街から抜け出そう。



「さて。飯も食ったし、外に出る前にある程度動けるように指南しておこうか」

 酒場で昼食を食べた後、俺達はギルド裏にある建物の一室、修練場にて集まっていた。この修練場がある建物はギルド所有のもので、冒険者であれば誰でも予約を入れて使用できる。朝の内に爺さんに手続きしておいてもらったので、面倒もなく使用できる。それにここなら人に見られることなく、二人に手解きできるからな。

「わ、私も役に立つと思うぞ、ユードくん。学院でも後輩に教えることがあるからな」
「おっ、そうだったのか。なら教えるのは慣れてそうだな。じゃあアリルはミルねぇを、俺とリィナでフィーを教えよう」

 以前父の訓練を受けたことがあるミルねぇは、少しくらいなら動きが分かるはずだからな。姫さんは箱入り娘なんだし、俺一人では少々手が足りないだろう。そういった考えがあったのだが、ミルねぇは頬を膨らましてこちらへ抗議してきた。

「ユーくんは教えてくれないの?」
「俺はフィーを教えるよ。ミルねぇはどちらかと言うと付き添いなんだから。アリル、一通り教えてあげてくれ」
「……分かった。ミル、向こうでやろう」

 アリルはブーブー言ってるミルねぇの首根っこを掴んで、俺達から距離を離す為に遠ざかっていった。ミルねぇは途中から観念したのか、それとも引きづられるのが嫌だったのか、渋々向こうへ歩いて行った。それを見送った俺は、姫さんへと向き直る。

「よし、じゃあやろうか。フィー」
「ええ、よろしくね」
「リィナは俺が教えることで変な所があったり、追加することがあったら遠慮なく言ってくれ」
「分かった。ユードくん」

 そうして姫さんとミルねぇの、簡単な訓練が始まった。とは言っても討伐依頼を受けているので余り時間は無い、今日は簡単なことをしてから外へ向いたいと思う。

「まず姫さん、モンスターとの戦闘で一番大事なことはなんだと思う?」
「そうね、攻撃力かしら?」
「脳筋じゃねぇか」

 本当にこいつ王女様か? 物語の読み過ぎでこんなことになってしまったのか……。一度王城の書庫を検めた方がいいんじゃないか?

「ったく。じゃあリィナ、模範解答どうぞ」
「そうだな、周囲警戒だろうか?」
「そうだ。基本的な冒険者対モンスターの場合、一体のモンスターに対して複数の冒険者で掛かることになる。人間より強いモンスターばかりだからな、まずは数の利で押すことが大事だ。しかしそういった場合でも、周囲の確認を怠れば死の危険は生まれる」
「でも、モンスターを囲むようにして戦うんでしょ? そのモンスターとの戦いに集中しなくちゃいけないんじゃないの?」

 意外と分かってるな。これも物語で培った知識なんだろうが、本は本、現実は現実だ。

「勿論、相対するモンスターとの戦闘が一番大事だ。だが戦うフィールドは街中ではない。街の外ではいつ、何処で、何が襲ってくるか分からない」

 俺の言葉を受けて、リィナが簡単な補足をしてくれる。

「モンスターにも分布があって、ある程度行動範囲は研究されている。しかし相手も知能を持つ生物であることが大半、いつ私達の理解から外れてくるかは分からんのだ」
「なるほど、動物も私達と同じで言語があって意思がある。それはモンスターも同じってことね?」
「言語はあるかは分かっていないが、概ねその通りだ」

 この辺は姫さんにとっては分かりやすいものだろう。なんたって自分が動物と話せるんだからな。もしかすると姫さんの能力はモンスターに使えるのかもしれない、だが詠唱もあるからそれを試すのはリスキー過ぎるな。

「実際にやってみると難しいと思うが、視界を狭めないようにする。それだけは心しておいてくれ」
「分かったわ」
「それじゃ次は……」

 ミルねぇは護身術程度を教えていたそうだが、運動が苦手な為そこまで芳しくないようだ。しかし姫さんは意外にも順応性が高い。ある程度の動きはできるようになったから、弱いモンスター相手なら戦えるだろう。こうして剣の使い方と、立ち回りを軽く教えた後、俺達は街の外へと向かうのだった。

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