鳥カゴからのゼロ通知
chapter1-15 「再開の誓騎士」
かつて、様々な猛獣と数百人の剣闘士が命を落としたと言われる円形闘技場。まさかそんな大舞台で自分が戦うことになるなんて思ってもいなかった。
「あ、ハジメさん。あそこでエントリー登録をするみたいですよ」
キルキスが指さした方を見ると、この大会に参加する人だろうか、受付と見られるところに行列が出来ていた。ハジメもそこに並ぶことにした。
「お、何だ坊主。お前もデュエルに出るのか。そんな細っこい体じゃすぐ負けちゃんじゃないのか?」
ハジメに話しかけて来たのは顔がライオンの男だった。背中には体験を背負っている。この獣人みたいな人にハジメはまだ慣れておらず、少しびっくりしてしまった。
「ええ、まあ。僕も初めてなので緊張していますけど、修業の為に出てみようかな~と」
「へへ、そうかそうか。ま、何事も経験だからな。俺が相手になったら速攻でぶっ飛ばしてやるよ」
そんな嬉しそうに笑っているけど、実際この人に当たったら秒で負けそうだ。この人に当たったら、降参するのも一つの手だろう。剣なぞ使わなくても素手でやられそうだ。
「――こんにちは。お名前を教えてください」
列がどんどん前に詰められ、創のエントリーの番になった。
「えと、ハジメです」
「ハジメさんですね。はい。この番号札を受け取ってください」
受付の女性が創に一枚の紙を渡す。創が受け取ったその紙には“12”と書かれていた。
「そちらはエントリー番号になります。こちらでそのエントリー番号をシャッフルして対戦相手を決めます。対戦時にはアナウンスをしますので、その番号を入場口にいる係員に見せてください」
「わ、分かりました」
「それでは、健闘を祈っています」
創はキルキスのとこに向かった。創は自分が受け取った“12”という番号に違和感を覚えていた。
「どうかされました?」
「……このエントリー番号って、僕が“12人目”ってことですよね。そして僕の後ろに並んでいた人はいなかった。つまりこれって、参加者が全員で“12人”ってことになります。これって少なくないですか?」
確かに創の後ろに並んでいる人はいなかった。こんな大きな街で、このようなイベントが開かれている。そんなイベントなのに12人しかいないのはおかしい。各地方から集まるのであればもう少し集まってもいいはず。そんなことを創は思っていた。
「……前はもっと参加者がいたのですが、年々参加者が減っているのです」
「どうしてですか?」
「それが、この戦いでは“相手が死なない程度まで続ける”というルールがあるからです。言い換えれば、“半殺しまでならしてもいい”となります」
そのキルキスの言葉に創は背筋が凍りつく。そして、この大会に参加したことを後悔する。この大会には先程のライオンの男。あんなのがあと十人もいるということ。半殺しまでならOKというルールに、創の額から一滴の冷や汗が流れる。
「勿論棄権や試合途中の降参もありますが、その場合、多額の罰金が科せられます。その為参加者が減っているのです。この大会は裏では『デッド・オブ・デュエル』とも呼ばれています」
「……デッド・オブ……デュエル……」
それは死を連想させるかのような響きだった。そんないかにも怪しい催しに何故、ルキスさんは僕を参加させようとしたのか。素人の僕がこんなのに出たらどうなるか分かるだろうに。
「もう、棄権は出来ないんですか……?」
「残念ながら、一度エントリーした後に棄権をすると罰金が科せられます。エントリーした時点でもう戦いは始まっているのです」
「そ、そんな……」
顔を俯かせて落ち込む創。それもそのはず。いきなり半殺しまでなら可、なんて危ない大会に出ることになったのだ。しかも棄権は出来るが罰金が科せられる。まともな一般人なら落ち込んで当然だ。
表世界で学生をやっている創がまともに戦えるはずもない。もう創の未来は決まったようなものだ。
「大丈夫です! 傷なら私が治してあげますから!」
キルキスが笑顔で励まそうとしているが、今の創のメンタルはそんなものではびくともしない。
***
『――間もなく、デュエルが開催されます。エントリーした選手たちは会場の中に集まってください』
会場の外にも聞こえるようにアナウンスが流れた。
「あ、もうすぐ始まるようですよ。それじゃあ、私は客席の方に行きますので。頑張ってください、ハジメさん!」
そう言ってルキスさんは客席の方に行ってしまった。
 入場口付近では、反対側の入場口とで半々に選手が分けられた。さっきのライオンの男は近くにはいない。つまり、敵として当たるかもしれないということ。係員には僕は二回戦と伝えられた。緊張で体がこわばる。
そうしている間に、試合は幕を開ける――。
『――さあさあ始まって参りました! 最大のイベント、『デュエル』! 今年はどのような熱い闘いが繰り広げられるのでしょうかぁ!』
会場内だと試合の様子が分からない。それでも実況の声と、それに応えるような観客の声が響いてくる。試合の様子は見れなくても実況で何となく状況は分かるのでラジオを聞いているみたいだ。
『それでは第一試合、グレート選手バーサス、アガット選手。この大会の火ぶたは君たちによって切られる! 準備はいいかい? それでは! レディ……ファイッッッ!』
そして、闘いの幕が切って落とされる――。
外から剣と剣が弾き合う音が聞こえてくる。重厚な音が何度も何度も聞こえる。それと同時に、観客の声が会場の空気を揺るがす。
『おおっとグレート選手、今の一撃は防ぎきれなかったかー!?』
グレート選手と呼ばれた男の腹部の鎧が砕け、肉にまで斬り込みが入れられている。苦しい表情になり、その場で膝をつく。
「くっ……!」
足元を血で濡らし、剣を地面に突き立てて何とか立とうとする。
「……ぐぅ……おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びと同時に、アガットに向かって行く。
そして……。
『き、決まったぁー! 第一試合を勝利に収めたのは、アガット選手だぁー!』
「……もう、終わってしまったのか……」
第一試合の終わりの実況が告げられたことで、創の緊張がマックスに達していた。焦りと不安が募る。未だに体の震えは止まらず、吐き気まで催してくる。そしてすぐにアナウンスが流れてしまう。
『――エントリー番号12番のハジメさんは、入場口前までお越しください』
創は入場口からそれほど離れておらず、すぐに向かうことが出来た。
「エントリー番号を見せてください」
「……はい」
創は係員に渋々エントリー番号を見せた。
「はい、確かに。それでは、健闘を祈っています」
創は係員に前に進むよう促された。会場の中心に続く道を抜ける。
創が観客の前に現れると歓声が起こった。
『出て来たのはハジメ選手! 他の出場選手より明らかに体格は劣っているが、果たしてどんな闘いを見せてくれるのでしょうか!』
創が登場したすぐ後に、反対側からも対戦相手が姿を見せる。段々とその人物の影が薄れていき、創の相手が露になる。
「……な……」
その姿に創は驚きの様子を隠せない。その相手はつい先日、創を一足先に半殺しにした人物だった。
『対するは、誓騎士連盟の若き騎士、ダート・ダクトレイジだー!』
ダートは正面にいる創の顔を見据える。
「……ふん」
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