鳥カゴからのゼロ通知

ノベルバユーザー202744

chapter1-2 「救世主」


 突如として世界が変わってしまっていた。そこは美孝が話していた異世界なのか。しかし、それを創は否定した。

「いや、そんなはずはない! ここが異世界だなんて、そんな非現実的なことあるはずない!」

 これ以上情報を頭に入れてしまうとおかしくなりそうだ。
 そしてここがまだ異世界と決まった訳じゃない。どういう理由かは知らないが、ここは外国の可能性もある。

「取り敢えずここがどこなのかを調べないと――圏外!?」

 創は携帯を取り出して今自分がいる場所を確認しようとしたのだが、電波が通っていないのか圏外になっていた。

「嘘だろ……とにかく、ここはどこなのか調べないと。まだ外国である可能性は捨てきれないからな」

 冷静を装ってもどんどん不安が募っていく。少なくともここがどこなのか分からないと落ち着けない。だから新は取り敢えず歩いてみることにした。

「――本当に何処なんだ、ここは。まだ外国だったら納得できるけど……」

 暗いから夜のはずなのだが人が多い。お店が多く、街明かりがとても眩しい。この街はそれだけ大きなところなのだろうか。

 創がキョロキョロしながら歩いていると、前から歩いてきた人にぶつかってしまった。

「うあっ! ごめんなさい!」

「気ぃ付けろよ、坊主」

(日本語!? 日本語が通じるのか!)

 何故か日本語が通じたのでそのぶつかった人の顔を見てみると……。

「もうよそ見するなよ」

「……は、はい」

 その人の顔はまるで狼みたいな顔をしていた。その人は去ってしまったが、その後ろ姿は人間のように二足歩行をしているが、顔は獣のようだった。
 これはもう認めるしかないのか。当たり前のように歩いているが、あんなのが地球上にいたら間違いなく大発見だ。ニュースに取り上げられ、あっという間に話題沸騰になっている。そんなのが普通にいるのだとしたら。

「……やっぱり、異世界なのか」

 創はもう何が何だか分からなくなっていた。ここが本当に異世界なのだとしたら、元の世界に帰るにはどうしたらいいのか。もしかしたら、永遠にこの世界にいなければならないのか。そういった不安が創に押し寄せる。

「とにかく、何処かで休もう。多分お金は使えないだろうな。何処か人気のないところに行かないと」

 そうして創はまた歩き出す。街には宿屋らしきものが数軒あったが、恐らく通貨が違う為泊まることは出来ないだろう。だからなるべく人気のないところで今夜は野宿するしかない。

「――あ、ここでいいかな」

 建物の間にある細い路地が見つかった。そこの路地には木箱が二つ積み重なってあるのが置いてあり、休むには十分だった。

「……はぁ。いつになったら元の世界に戻れるんだろうな~」

 創が空を見上げると建物の隙間からいくつもの星が見えた。

「……綺麗だな……すぅ……すぅ……」

 木箱に背中を預け、落ちてくる瞼に逆らえずそのまま寝てしまった。


 ***


「――ん、ふぁあ……ん――うわぁっ!」

 朝、目を覚ますと創の顔を覗き込んでいた女の子がいた。

「あ、起きた」

 その子の髪は綺麗な純白だった。髪の長さはセミロングくらいだ。それに似合うかのように目の色は宝石のように青く輝いていた。

「やっぱり少し似てるけど、人違いだったわね」

「……え?」

「まったく、何であんたはこんなとこで寝てんのよ。何も掛けないで、風邪ひいちゃうでしょ?」

 余程僕はぐっすり寝ていたのだろう。あんなに顔を覗き込まれていたら気付くはずなんだが。それによく見ると、その子は誰かに似ていた。

「いや、ちょっと今何も持ち合わせていなくてね。仕方なくここで寝ていたんだ」

「何も持ってないって……そのバックは何なのよ」

 その子が指さしたのは創のリュックだった。この中に教科書と財布が入っているが、それらは全部この世界には不要な物だろう。だから何も持っていないのとほとんど変わらない。

「な、何でもないよ。……ところで、ちょっと変なこと聞いてもいいかな?」

「何よ?」

「……ここって、どこ?」

「はぁっ!?」

 それは当然の反応だろう。この街にいながらここがどこだか分からないなんて、頭のおかしい人に見える。僕が相手の立場だったら同じ反応をしていると思う。
 でも今は恥ずかしがっている場合ではない。最低でもここが何処なのかくらいは知っておかないと。

「何、あんた旅人なの?」

「ま、まぁ。そんなとこかな。たまたまここに着いたっていうか……」

 それは確実に嘘なのだが、これくらいのことを言わないと変に怪しまれてしまう。

「ふーん、まぁいいわ。教えてあげる。ここは、水の都『ウォーズンエッジ』よ」

「水の都?」

「こっち来てみなよ」

「え、ちょっと!」

 創はその子に手を引っ張られながら路地を抜けた。すると創の目に飛び込んできたのは、目の前を大きな川が流れていた。川が流れていることは昨日も見たが、それどころじゃなかった為ちゃんと見ることが出来なかった。近くには噴水もあり、何よりも想像を絶する程の大きな街が広がっていた。

「……すごい」

「でしょ? この大陸ではウォーズンエッジはトップクラスの街の大きさを誇っているのよ。あなた昨日、夜にここに着いたんでしょ。それで疲れてたからそれどころじゃなかったんじゃない?」

「あ、あははは。そうだね」

 合ってるっていえば合っている。昨日この街……いや、この世界に来たし、疲れてもいた。唯一の救いは、この子が現れたことだ。

「それで、あんたはここへ何しに来たの? あぁ、旅人だから目的も無いか」

「そうだね。何となくふらっと寄ってみただけだから」

「にしても無一文で旅とは、あんたなかなかチャレンジャーね。……ところで、珍しい格好してるわね。どこ出身なの?」

 新の今の格好は学校の制服だった。確かに、周りの人が来ている服に比べれば学校の制服は珍しいのかもしれない。

「えっと……日本?」

「何で疑問形なのよ。それに二ホンなんて街の名前聞いたことないわ。異国の地なのかしら」

(まさに君たちからしたら異国かもね。それはお互い様だけど)

 逆に日本を知っていたらそれはそれで恐怖だ。流石に違う世界から来ました、なんて言えるはずもない。だから大変だけどこちらに合わせるしかない。

「――そうだっ! 私今から仕事なんだ。良かったら一杯飲んでく? これも何かの縁だからね。今回はお金はいらないよ」

「一杯?」

「私、喫茶店をやってるのよ。本当は今から向かうとこだったんだけど、そこであんたを見つけたわけ」

「そうか。何か悪いことをしちゃったな」

「いいよ、別に」

 そんなことで創はその子が営業している喫茶店に二人で向かうことにした。


「――さ、いらっしゃ~い」

「……へぇ」

 先程から五分くらいの距離だった。お店に入ってみるとなかなか良い雰囲気だ。店内にはカウンター席とテーブル席があった。テーブル席と言っても一~二人くらいの小さなテーブル。まさに一人でゆっくりくつつろげる感じだ。そして、申し訳程度にアンティークも置かれている。失礼ながら、本当にちゃんとしたお店だった。

「待ってて。今コーヒーを淹れてくるから」

「……どうも」

 昨日より少しは何とか頭が働いている感覚がある。今はこんなところでゆっくりしているが、果たして元の世界に戻れるのだろうか。そればっかりが、頭から離れないでいた。

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