鳥カゴからのゼロ通知

ノベルバユーザー202744

プロローグ


「――本当に、よろしいのですか?」

「―――――」

 とある教会でシスターらしき女性と少年が話をしていた。

「でもそれは、あたなが死ぬことと同義なのですよ?」

 少年の体は全身血まみれになっていた。それでも少年はシスターの問いかけに笑顔で答える。

「彼は自分の力に自覚することが出来ず、混乱してしまうかもしれません。それに、彼にはそれ以外の力がありません。それではとても危険です!」

 そのシスターは必死に彼を説得する。それでもその少年は自分の意思を一切曲げなかった。

「……いけません! それではあなたの理性が失われてしまいます! それに彼だって、辛い思いをするはずです!」

「―――――」

「徐々になじませるって、その後貴方はどうなるのです?」

「―――――」

「……ッ! ……貴方の、大切な人はどうするのですか?」

 シスターの目から涙が零れる。どんなに説得しても変えられることが出来ない未来に。

「……分かりました。貴方が言うもう一つの可能性に、私も賭けてみます」

 少年はシスターにお礼を言った。全身の怪我は激しく、今にも倒れてもおかしくない状態だった。

「……また、貴方に会えることを信じています」

 シスターが少年に手をかざす。すると、たちまち少年の体が白く光り始める。

「――待って!」

 協会の扉が勢いよく開いた。扉を開けたのは、服がボロボロになった少女だった。その少女が少年に駆けて行く。

「……何で……何でいつも私に黙って行っちゃうのよ! どうでもいいことは言って、大事なことは絶対私に言わない! いっつも私に何かを隠そうとする! ……ねぇ……何で……何でなのよ……」

 その少女もポロポロと涙を流す。地面に涙が落ちるその刹那、少年を包む光によってその涙がキラキラと光る。

「―――――」

「……ッ! ……あ、ああ……ああ……」

 その少年の言葉に少女の涙が止まらない。少年を包む光が一層輝きを増し、少年が見えなくなっていく。それを感じて少女は震えながら少年に手を伸ばす。

 少年が完全に光に包まれる瞬間、少年の最後の言葉が少女の耳に届く。

「……ありがとう」

 少年を包んでいた光が弾け、教会が白い光に包まれた。
 余りの眩しさに目を瞑っていた少女だが、光が落ち着き目を開けてみると、そこには少年の姿は無くなっていた。

  少女が伸ばしたその手は、少年に届くことはなかった――。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品