現人神の導べ

リアフィス

56 第4番世界 人外魔境

「じゃあ、今からやりましょうか。下級悪魔程度じゃテンション上がらないのよね」

下級悪魔は知能が微妙だ。
つまり、何の面白みも無い千切っては投げ千切っては投げの作業である。
多少なりとも知能があればフェイントなどの戦術も混ぜ始め面白くなるのだが。

ケーキスタンドを片付け、今食べている物と飲んでいる物が片付いたら移動だ。
フィーナもモグモグしているから、もうちょっと先になるだろう。

「美味しいこれ」
「あり?」
「あり」
「そう。言っておきましょう」

シュテルの元へは『試作品』もやってくる。
普通王家には『完成品』だけがやってくるが、シュテル達の場合満腹という物が無い。つまり食べまくれるわけであり、更にお腹の減り具合による気分的な差も排除した感想が得られる。料理人達からしたら実に都合の良いテスターなのだ。
大神殿へとやって来た新人料理人は『女神様に試作品を食べさせるなんて!』と難色を示すが、ベテラン料理人達が容赦なく持っていくという一種の恒例が出来ている。
大神殿の料理人達はとにかく自分達の赴くまま、好きな料理を作りまくれるのだ。作ったものは糞不味くない限り、シュテル達が食べる。
その為大体何かしらの新作が混じっている事が多い。その中でも美味しかった物は伝える。特に言わないのはまあ普通という評価であり、不味かった物も伝える。

大神殿の料理人なので、当然お金は国から出ている。好き勝手赴くままに料理を作って良い。ただし、食材を無駄にはするな。作った物は食え。問題なく美味しく食べれる所謂普通の料理ならシュテルの所へ持っていけば精霊達も食べるから消費は早い。
ただ、不味いのを持ってくと食べた精霊達が蹴りに行く場合がある。
とは言え不味いものは早々無いのだが。料理人だって一口ぐらい味見するし、材料も良いのを使っているので、大神殿に雇われている時点で早々不味い物は出来上がらない。
万が一不味かったら後で作った者が責任を持って泣きながら食うのがルールだ。
自然神のお膝元で食材無駄にしてたら神罰来るぞと。それに料理人としてどうかと思うし。


「魔導開発の責任者の1人に危害を加えた女達と言うのは……ああ、なるほど。確かに分かりやすい」

ギルドへ招かれざる客がやって来た。
ニヤつきながら真っ直ぐとシュテル達の方へと向かう6人の男達。

「付いてきたまえ。来ないと言うなら力尽くで連れて行くことになるが?」
「見ての通り食事中なの、動くつもり無いから力尽くで頑張ってみなさい」
「……良いだろう」

一見まさにお嬢様なシュテル。普通騎士と分かる格好の男達が来たら、竦み上がったりするのが一般的なお嬢様の反応と言えるだろう。
だがシュテルである。顔すら向けずにサラッと返す。シュテル達を見てニヤつきながら来る時点でもう騎士(笑)確定である。

シュテルは能力的に顔を向ける必要がない。
しかしそんな事を知っているのは眷属達や勇者達ぐらいだ。
相手からしたら非常に嘗めた態度であり、見るに値しないと取られるだろう。
ニヤニヤ顔から一瞬で眉間に皺が寄る男達であった。

捕らえる為に近づいた男達は全員『何か』にぶつかり動きを止める。

「な、なんだ!」
「結界!?」

シュテルの張った結界に止められ、男達は力尽くで破ろうとガンガン殴るが当然びくともせず、結界はそこに在り続ける。
そこで力尽くから解除へと変えるが……。

「チッ、さっさと破れ」
「な……なんだこれは……」
「あ? …………は? なんだ……この防壁は……」

シュテルの結界は全てにおいてオリジナル構成であり、超精密に組まれている。
この騎士(笑)達ではなく、魔導開発組だとしてもシュテルのレベルは不可能だ。
まあ、女神が組んだ物なので当然だが。

解析を頑張ろうとしている者と、ガンガン殴っている者がいるが成果無しである。

「圧倒的な格上をどう力尽くで連れて行くのか、見ものねぇ」

ふふふ、と笑うが完全に煽りである。
余計躍起になるがびくともせず、肩で息をし始める騎士(笑)達。
ちなみにエルザとイザベルは先程から全く動いていない。最初は動こうとしたが、結界が張られた時点で動くのを止めた。
実に余裕の態度のシュテル一行。表情1つ変えずにおやつを食べ終え、飲み物も飲み片付ける。

「さて、北西の平原でやるわよ」
「はい! 見学したいです」
「別に良いわよ。最初から結界張る予定だし」
「よっしゃ。ユニエールさん達の模擬戦見るの楽しいんだよねー」
「次元が違うからねぇ……」
「あなた達も見たかったら好きになさい」
「む……良い……のですか? 手の内とか……いや、おこがましいか」
「我々の戦い方を知ったところでねぇ? この世界のSランクは我々の世界ではAランク程度。我々の世界でSSランクであるフィーナの戦いを見たければ来ることね」
「ふむ……じゃあ俺見てくるから、しばらくよろしく!」
「『ちょ、支部長!』」
「気になるだろうが! 俺だって元Aランクの冒険者だ」

シュテルが立ち上がり、指をパチンっと鳴らすと壁側に"ゲート"が開く。
"ゲート"の向こうには草原が見え、シュテルを先頭にぞろぞろ入って行き、清家達勇者もそれに続く。

「"ゲート"か……いとも簡単に使うな……じゃあ後よろしく。てめぇらも行くぞ。強者の戦いを見といて損はねぇ」

支部長に続きぞろぞろ冒険者達も移動し、騎士(笑)達もどこへ行くつもりだと慌てて付いていく。
"ゲート"はランテース北西にある草原へと繋がっており、"ゲート"を抜けたすぐ正面には結界が結構な範囲で張られている。ちなみに今回のは結界は結界でも次元結界である。
結界内部にはシュテル達5人がおり、勇者達3人は勿論外である。

「おや、お前さん達も外なのか」
「そりゃあ……死にたくないし……」
「うんうん……」
「中入ったら塵になる」
「そこまでか……お前さん達もかなり強いだろ?」
「「「えー? どーだろ」」」
「何だ、その反応は……」

清家達はこの世界だとAあるかどうか。つまり強さで言えば結構な上位にはなる。
が、この結界の中に入って無事でいられるか……と言うと『無理!』である
この世界ではAだとしても、シュテル達の世界では精々Bである。AからSは相当な壁があり、SSとSSSも相当である。B程度が同じ戦場で無事でいられるはずがない。

更に清家達勇者一行はシュテル達の模擬戦をそれなりに見ているため、天狗にもなり辛い。なぜかって、シュテル達の模擬戦が頭にちらつくから。
『俺ら、あそこに混じって何分……いや、秒持つ?』『無理、余波で死ねる』
とてもじゃないが天狗にはなれない勇者達であった。


だいぶ距離を置いて1対4で向かい合う、シュテル達。

「では始めましょう」

シュテルは右掌に神器を転移させ杖にして握る。翼も出し、神眼もバッチリ。
エルザは剣と盾を。イザベルは双剣を。ヒルデは両手にナックルを。フィーナは弓を持つ。
そして武器を持った瞬間に雰囲気が一変し、体感温度が急激に下る。

「楓、毛が逆だってんぞ……」
「お前だって鳥肌になってるぞ……」
「今までに無いぐらいガチじゃない?」
「そもそも1対4を初めて見るからね……」

結界の外でそんな事を話している勇者達を尻目に、戦闘が始まる。

ヒルデとイザベルが消えるように駆け出し、フィーナが即座に魔法を番える。エルザはフィーナの盾として護るように立つ。
シュテルは左手でちょいちょいっと召喚騎士をヒルデとイザベルの前に1体ずつ召喚。後衛に向かって右に持つ杖から"ファイアーボム"を飛ばす。
でかい炎の球体が山なりに飛んでいく。
フィーナはシュテルに向かって打つ予定だったものを急遽その球体へと変える。弓から放たれた魔法はシュテルの魔法に当たり、空中で大爆発を起こす。

"ファイアーボム"とは山なりに球体を飛ばし、『何か』に当たるとその場で大爆発する魔法である。山なりなので弾速自体は速くないが、爆発の規模が広いため逃げづらい。

爆発をガン無視してヒルデとイザベルはSランク級の召喚騎士とかち合う。
ヒルデは攻撃に特化したカオスロード。イザベルは防御に特化したホーリーロードだ。
両の拳と2本の剣がぶつかり合い、2本の剣と大盾がぶつかり合う。

エルザはシュテルから飛んでくる初級や中級の雨を斬って防いで逸してと忙しい。
エルザに守られたフィーナはひたすらシュテルへと向かって撃ち続ける。現状シュテルがマシンガンだとしたらフィーナはスナイパーである。

ヒルデとイザベルが同時に召喚騎士を吹っ飛ばす。最早倒すということを考えていない。
召喚騎士は召喚時に渡された保有魔力が切れるまで自動修復だ。そして、こいつらは初級に該当するので数は魔力が許す限り呼び放題だったりする。倒すだけ無駄なのだ。
当然模擬戦なので、同時召喚数に制限をかけている。
この召喚騎士達は使えば使うほど、ちゃんと経験を積み強くなる。付き合いとしては眷属騎士達よりも長いといえる。よく模擬戦に駆り出されるのでぶっちゃけかなり強い。

吹っ飛ばすと同時に踏み込み、2人してシュテルへと突っ込むが右に持つ杖で防がれ、素手だった左手に赤く輝く片手剣が握られ防がれる。
2人を吹き飛ばしたシュテルは杖の先からイザベルへ追撃の魔法を放ち、左に持っていた剣をヒルデに投げる。そしてフィーナから飛んできた魔法を結界で防ぐ。

イザベルはふっ飛ばされ地面を滑りつつ、飛んできた魔法を両方の剣で叩き斬る。
ヒルデは着地と同時に飛んできた剣を裏拳でぶん殴り逸らす。逸らされた剣は斜め後ろで大爆発し、地面を液状化させる。

扱い的にはシュテルのユニークスキル《魔導武装》によって作られた剣だ。
理屈は簡単。魔法をぶっ放さず武器の形にし、戦う物である。魔法その物でぶん殴るので威力は抜群。投げるなり飛ばすなりすれば魔法として発動する。
同じことをするには相応の《魔力操作》が必要になる。ちなみにミスって暴走したら手元で魔法が発動したりする。

その直後にふっ飛ばされた召喚騎士が戻ってきて、ヒルデとイザベルは再び召喚騎士達と向き合う事になる。


「ハハハ……何だこりゃ……」
「これ捕らえるのは無理だろ……」

魔法が地面を抉る音や爆発音、金属同士がぶつかり合う音を響かせながら戦闘は続く。

「そもそもユニエールさんって、女神様なのを抜いても一国の女帝だから……侯爵程度じゃどうにもならないよね?」
「不敬罪とかで殺されても文句言えないらしいね。ユニエールさんはしたこと無いらしいけど……」
「言われて動いた者も処分されるらしいなー……」

勇者3人は騎士(笑)達をチラチラ見ながら言っている。騎士(笑)達のライフは既に0である……。顔面蒼白でプルプルしていた。立場を抜いても、目の前で絶賛ドンパチ中の連中に喧嘩売っているのである。自分達が死ぬ未来しか見えない。

「あの弓の子がSSとか言ってたな?」
「セラフィーナさんだねー。あのメンバーじゃ一番弱いらしいよ? 人類だと最強クラスって言うけど、他のメンバーがね……」

生物最強は純正竜。ドラゴンである。フィーナ1人ではまだまだ勝てない。
そしてその他は純正竜を1人で狩る奴らである。
ゲームのように倒された魔物がポップするダンジョン……創造のダンジョン上層にいる純正竜を、『生態系気にしなくていいからな!』と肉目当てに狩りに行くのがシュテルである。

「この結界……いつもの結界じゃない。なんだろうこれ……」
「これ、魔法じゃないんじゃない?」
「となるとユニエールさんの能力によるものか。空間系?」
「どう見ても植物じゃないし、空間系だろうねー」

冒険者達がビビりまくってる中、勇者達はいつも通りだった。
1対1は割りとよく見ているので1対4になっても対して感想は変わらない。1対1の時点で既にぶっ飛んでいるのだ。『ヤバイ、かっこいい』で終わる。


「ふっ……あっ…………ああああああああ」
「「「おおう……」」」

シュテルの攻撃がイザベルにクリーンヒットしたと思ったら、勇者3人の横にイザベルが転移されて頭を抱えていた。

「複数の場合、当たるとこうして追い出されるのですよ。所謂死亡判定ですね……」
「むぅ……」

そしてヒルデも追い出されてきた。

「いやぁ、申し訳ありません。完全に判断ミスしました」
「いえ、こちらもギリギリでしたからね」
「あふん……」
「むー……」

一度均衡が崩れると後は早かった。エルザに続きフィーナも追い出される。
結界が消え、抉れたりした地面がもこもこ戻る。
勇者達のところへシュテルが転移してきて、ゆっくり地面に降り同時に翼も畳む。

「うむ、実にいい運動だったわ」
「あのレベル4人相手がいい運動で済むのか……」
「ダンジョンで純正竜とやるよりは遥かに面白いわね。ダンジョンだと個が無くてねぇ……。さて戻りましょうか」

翼を消し、瞳も両方銀に偽装してギルド行きの"ゲート"を開き、全員ギルドに戻る。

「もうギルドに用は無いし、私達は行くわよ」
「街を軽く見て、休んだら王都?」
「そうね。まあ3日後ぐらいでいいでしょう」
「……こいつら、どうするんだ……?」
「少なくとも私は興味ないからどうでもいいわ」

シュテルからすれば騎士(笑)達は死のうが何しようがどうでもいい存在である。
だからいちいち何かを言うことも無いし、視線すら向ける事もない。
わざわざ道端の石ころを気にする事もないのだ。人混みの中で1人1人わざわざ顔覚えたりなんてすまい。無関心である。

そう言ってギルドに放置される騎士(笑)達であった。

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