現人神の導べ

リアフィス

51 第4番世界 ランテース

悪魔は魔王の魔力から生まれる。
なら魔王から飛んで来るのかと言えばそうではない。
魔物に影響を与える黒いオーラが魔王の魔力である。つまり、魔物からも悪魔が生まれる。魔物が密集していればより生まれやすくなる。
魔力が多ければ多いほど、上位の悪魔となる。
今回は薄く広くで大量の下級悪魔が生まれたのだろう。


戦闘が終わったので転移して元の位置に戻るシュテル。
そこへ勇者達とフィーナ達が戻ってくる。

「いやぁ、ユニエールさん達いなかったら全滅だわ」
「戦力差が絶望的過ぎてヤバイ」
「1体1なら全然問題無い。と言うか3体ぐらいならなんとかなるけど、それ以上は無理だね」
「そうね。あの人工天使も魔法自体は良いのだけれど、何分術者がポンコツだったから『いないよりマシ』で終わってたわ。ちゃんと戦闘経験ある者に使わせれば十分役に立つでしょう」
「つまり、魔導開発という役目は十分だったと」
「そうね。開発者が戦う必要はない。開発するのが仕事なのだから。普通そこは分けるべきところであり、何故わざわざ出てきたのか理解に苦しむわ」

戦闘経験が無いものが最前線に出てきても邪魔でしか無い。守る対象がその分増えるのだから、当然足を引っ張る事になる。
開発者は引っ込んで開発していればいいのだ。わざわざ出てくる必要はない。むしろ戦闘組からしたら『引っ込んでいてくれ』だろう。
開発した魔法が実際に使われ戦果を残しただけで十分な名誉だ。と言うか、本来それが『開発者』と言うもの。裏方なのだから。

「力と言うのは使いこなしてこそだよ、うん。まあそれはともかく、どっちにしろ弱すぎるから訓練なさい」

魔王のいなかった370年のうちはなんとかなったかもしれないが、魔王が復活する今、確実に現状では滅びる。
今までは棲家的に問題が無かったため放置されていただけと思った方がいい。
だが魔王が復活する今、来なかった魔物達が殺しに来るようになるのだから。

「やっぱ俺達が魔王に向かっている間に滅んでそうなんだけど……?」
「下級悪魔であの状況なのだから、滅ぶでしょうね。下級悪魔なんか雑魚も良いところよ? いくらでも湧くからね。上級悪魔とか出てきたら目も当てられない」
「……まあ、正直できることはないから放置として。この後は?」
「宿とっておやすみじゃね」

お昼頃に到着し、店を見てたら悪魔の襲撃。すっかり空は暗くなり始めている。

「そう言えばお腹すいたなー」
「食べてないもんねー」
「さっさと宿行って飯食おうぜー」
「「おー」」

もう役目は終わったと勇者3人は街に向かって歩きだした。
シュテルとしても用は無いので、勇者達に付いていく。
その背に支部長が声をかける……と言うか、叫ぶ。

「っておぉーい! 説明は無しか!?」
「え、なんの?」
「え?」
「ん?」
「ええ? いやいや、子供の3人はまあ良い。問題はあんたらだ」
「その子供達とは違う世界から召喚された勇者だけれど?」
「強すぎるだろう……」
「あんたらが弱すぎるのよ。元の世界なら下級悪魔ぐらい私達が動くまでもなく勝手に防衛するわ。説明も何も単純に『練度の違い』よ。毎日戦闘なさい」

10番世界アトランティス帝国には、帝都である神都アクロポリスにダンジョンがある。よって、冒険者達は毎日ダンジョンに潜り戦い、素材を持ち帰って来ては売ったり、自分達で消費。パーッと打ち上げして騒いで寝る。
そして起きたらまたダンジョンへ行くのだ。

冒険者ギルド本部という見た目神殿、内部は屋敷でダンジョン入り口がある。
1階はギルド本部として使用されており、ギルド職員達が住む部屋も確保、余りは冒険者達への宿として使用されている。
主にロビーがギルドのメインとして使用され、大食堂や大浴場まで設置され冒険者達が利用する。
掃除や料理などはギルド職員ではなく、雇われた一般の主婦や、ギルド職員の家族達が雇われて働いている。

と言うように、アトランティス帝国は環境が整っており、冒険者達の強さは中々のものである。
しかも冒険者だけでなく、他国の騎士達も合同訓練として交代でアトランティス帝国で模擬戦したり、ダンジョンへ潜ったりしている。
眷属騎士達も訓練場で良く訓練しているため指導を受けられるし、たまに気分転換や暇つぶしとしてシュテルがやってくる事もある。
よって10番世界の……アトランティス帝国含めた周辺、中央と呼ばれる場所にある5大国はかなり強い。

そして、この5大国で中央は完結しているため、他国に喧嘩売る必要もない。
実に平和であると言えるだろう。
まあ、冒険者達は死んだりしているのだが。
ダンジョンはあくまでダンジョン。無理をすれば死ぬし、己の力を過信しても死ぬのだ。シュテルは『場』を整えているだけであり、それを活かすも殺すも人類が選ぶことである。


シュテルや眷属達の身体能力はずば抜けているが、技術は積み重ねる物である事に変わりはない。
言ってしまえば眷属騎士達は真面目だ。言動に多少の違いはあれ、努力を惜しまない者達である。でないと近衛というエリート集団の中には入れない。
そこに死後も変化はない。
どの道こいつらは寿命のない不老な者達である。暇つぶしにも丁度いいのだ、訓練は。よって、シュテル一行は今までもずーっと訓練してきた。
10番世界で400年。4番や6番世界では800年超えを訓練しながらいた者達が弱い存在の訳がない。身体能力を抜いた戦闘技術だけでも相当である。
シュテル達……人ならざる者達の身体能力前提の『なんたら流』とか言う流派が生まれても不思議ではないレベルだ。

説明も何もない。
純粋に戦闘経験、熟練度の違い。眷属騎士の2人はともかく、フィーナは間違いなく努力の賜物でこの強さなのだから。
平和にかまけてサボりすぎなのである。

「特にいう事もないわ。我々を誘拐した時点で既に君達の好感度は低い。挙句に勇者任せで魔王が復活すると知っているのに何もしていないのが悪いのだから」
「『うっ……』」

まあ、次元転移できるから好きなタイミングで帰れるんだけど。わざわざ言ってやる必要もない。
特に言うこともないし、用もないので宿を探しに街へと向かう。どうせ今回の防衛報酬はすぐには用意できんだろう。明日ギルドへ行けば良い。

「やどーやどー」

街を彷徨き見つけた宿で3部屋とる。
長嶺の一人部屋、清家と宮武の2人部屋、シュテル一行の4人部屋だ。布団使うのはフィーナだけだが。

宿の1階で夕食をモグモグし、"ピュリファイ"で綺麗にした後就寝だ。

「お母様一緒に寝よー?」
「んー……? まあ、良いけれど」

服を脱いで、体の一部……神力で寝間着を生成して布団へ入る。そこに着替えたフィーナも潜り込んできて抱きついてくる。それを抱えて頭を撫でてあげる。

「えへへーひさびさー」
「そうね。おやすみ」
「おやすみー」

たまには良いものである。

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