現人神の導べ

リアフィス

45 第4番世界 ギルド

ジェシカやエブリンと違って、駆け回ってまで治して回る気は微塵もない。
両目の視界に入ったら治さなくもないかな……程度だ。能力で感知しているもの全てだったらそれこそ『全て』になってしまう。そんなの面倒だ。
それが信者なら考えなくもないが、そうでもないならどうでもいい。
『神様なんだから助けろ!』と言うのは『金持ってんだから金寄越せ!』と言ってるのと何ら変わらん。誰がそんなのに力を貸すのか。

まあ、それはともかく。
男達は宿探しとボランティアに街に繰り出し、女達は冒険者ギルドへと向かう。

ギルドは同じ組織だけあって、多少違う部分はあれどほぼ同じ構造をしている。単純に扱いやすいのと、テンプレートを作った方が作るのが楽なのだろう。
しかし、中の雰囲気は千差万別。支部長によってそれなりに違いが出る。
冒険者達の雰囲気が支部長に似ると言っても良い程度には支部長の権限が強い。
合わなければ冒険者達は別の街に行くからだ。
支部長に会えるのはそれなりに限られるので、冒険者達の雰囲気で支部長を察するのが基本である。荒れている冒険者が多いと大体碌な奴じゃないと言える。
まあ、そこまで極端な場所は早々ないのだが。

この辺りのギルドは実に冒険者らしい……と言った感じだろうか。
近くに樹海があるため、冒険者達の仕事は多いのだ。
そして何より、腕っ節がないと生きていけない。よって冒険者は腕っ節が重要なのだ。それ以外は割りと二の次であり、平均的な性格なら問題なく上へと行ける。

最後の受け皿……とも言えるのが冒険者ギルドである。

そのギルドにやってくるのは美女5人と少女2人の様々な意味で目立つ集団である。美女は金髪3人で赤と青緑が一人ずつ。少女は白と黒髪だ。
美女4人は人、1人はエルフ、少女は人と狐獣人。
傾国の美女も真っ青な整いすぎた4人。美男美女が多いと噂通りのエルフ。そして回りが回りなだけに霞むが、よく見ると将来に期待の少女2人だ。
ドレスに侍女服、見たこと無いけど騎士っぽい服、ラフだけど高そうな生地の服、更に何だかよく分からない服、そして一般的な魔法使いのローブ。
めちゃくちゃすぎる。

そんな集団が入ってきたら二度見するわけで。
しかしその集団は最早いつもの事なのか、集まった視線に反応すらせず行動する。

実際慣れているのだ。街を歩くだけで視線を集めるのだから、建物に入ったら当然視線が集まるだろう。普段なら入ってきた者をなんとなくちら見して、すぐ逸らすはずが入ってきた者に惹かれる。


入ってきた少女2人……清家と宮武はさっさとレート板を確認し始める。

「この辺りは大差ないね?」
「環境が大体同じだからじゃないかな?」
「樹海絡みだから大体同じ……いや、同じぐらいにしないと偏ってダメとか?」
「ああ、そっか。報酬に釣られて冒険者が偏ると下手したら滅んじゃうのか」
「うん。だからこの辺りはギルド側がわざとそうしてるのかも」
「この街は少し高め……大きいからかな」
「わざわざ移動する程……ではないけど、逆に言えば離れる程でもないぐらい?」
「この値段設定をしてる人はかなり優秀ってことだね」

いくら冒険者と言えど、街から街への移動はそれなりにリスクがある。
『絶対』と言うのはあり得ないのだ。特に新人に遠征などは荷が重い。
旅するのに必要な物を買う資金と、何が必要なのかという知識はどうしても必要になる。旅する資金を稼ぎが上回らないなら当然マイナス。大きい街は物が揃っているという事でもあるし、宿も多ければお財布と相談して選べるということだ。
故に、冒険者達は拠点からあまり動く事はない。移動しながら報酬が貰える護衛依頼と言うのは冒険者からしても実は嬉しい分類になる。

そして、その答えを思いつく2人も十分優秀と言えるのだが、VRMMORPG……所謂フルダイブ型のオンラインゲーム経験から出された答えである。
人間何が役立つか分からないものだ。


2人がレート板に向かった時、シュテル達はと言うと受付へ向かった。

「ようこそ冒険者ギルドへ」
「ここを襲っていた悪魔達の素材を売りたいの。いくらで買い取るかしら?」
「悪魔だったのですか!?」
「ああ、そこからなのね……」

少々思考を巡らし、先に釘を差しておく必要があるものを思いつく。

「なら暴れていた者達を罰するのは止めることね」
「え?」
「中級悪魔のイーヴィルアイ。あれは魔眼持ちよ。空から広範囲に状態異常をばら撒くからかなり厄介な敵で、狂気の魔眼持ちだったのよ。暴れたのはそのせいね」
「イーヴィルアイ……」
「大きな目玉に大きな口。それに翼があって飛んでた球体」
「『ああ! そんなのいたなあ!』」

実際に防衛していた冒険者達がしっかり覚えていたようで、しっかり反応していた。受付嬢は外出てないだろうし。
その他にもデーモンやインプ、グレムリンと出てきたものを教えておく。勿論見た目もだ。そうすればギルド経由で情報共有がされるだろう。
これから悪魔を目にするようになる。そして、悪魔が出たという事は復活も近い。
対悪魔対策をしないとあっという間にやられるだろう。
対空手段がありません! 状態異常で戦闘になりません! では話にならんのだ。

「それで、買い取りはしてくれるのかしら?」
「買い取らないという事は無いと思いますが……」
「受付嬢に値段まで決める権限は無いわね。担当を呼んでちょうだい」
「少々お待ちください」

ここ数百年出てなかった素材となると、それなりに掛かりそうだ。

「清家と宮武」
「「う?」」
「悪魔は《飛行》持ちが多い。光の対空魔法を考えておきなさい」
「対空のイメージは……対空砲?」
「三式弾とか? いや、そもそも空の敵に当たればいいんだから、ミサイル?」
「方法は好きにすればいいけれど、効率がよく見た目がいい物を作りなさい」
「素材の相場は分かったし、魔法考えようか」

素材の担当が来てシュテルと相談している横で、魔法を考えている2人。
シュテルの後ろで控えるヒルデと護衛騎士。
フィーナはと言うと……虚空に向かって話しかけていた。

勿論虚空ではなく、フィーナの契約精霊がいるのだが。魔眼持ちではない、精霊の見えない者には虚空に話しかける電波系……もしくはヤバイ奴認定である。
ちなみにエルフとドワーフ以外の種族は、9割程が精霊は見えないと思っていい。
そして今ギルドにいる連中で精霊が見えるのはシュテル一行だけである。
まあ、勇者達は『精霊と話している』という事は知っているし、精霊も見せて貰ったのでヤバい奴とは思っていない。精霊が姿を見せるかどうかは精霊次第だ。

「お母様、さっきのに似てるのが来てるって言うんだけど倒していい?」
「いいわよ」
「じゃあ行ってきます」

何だかんだで、フィーナが実際に戦うのはこちらに来て初めてと言えなくもない。
弓のレクチャーなどはしていたのだが、自分のは出してない。
ここで初めて得物の長弓を出し、ギルドを出ていった。
自らの得物を手にしたフィーナはいつもと雰囲気が違い、ニコニコした感じから狩人に変わる。獲物はただ狩るのみ。そこに情など不要である。


フィーナの武器は身長ほどもある長弓で、バランスをとるスタビライザーが付いていて割りとゴテゴテしている。その為、普段は指輪として指に待機している。
武器の名前は魔導弓・アルテミスだ。勿論シュテルが作成した物である。
《魔導工学》で作られたこの弓は、弦以外の全てが木製だ。
弦は全属性聖魔糸を捻って1本にした物を使用。本体の木はアトランティスにある御神木……神霊樹の良いところを使っている。その残りでスタビライザーを作成。
弦はカムシステム……滑車が使用されている。
スポーツのための弓ではなく、殺すための弓だ。しかも動物ではなく、魔物を確実に仕留めるための。フィーナの腕なら亜竜程度なら余裕でぶち抜く事が可能だ。

ただこの弓、扱うには弓と魔法両方扱えないと話にならない代物である。
リリーサーが使用された魔法を圧縮し、矢に変え放つ武器。弓が下手くそなら当然当たらない。矢となった魔法がしょぼければ当たってもしょぼいのだ。
両方が十分に使えてこそ、驚異的な武器となるのがアルテミスの特徴だ。


ギルドを出たフィーナは屋根に飛び乗り、ただでさえ視力の高い目に魔力を通し、遥か遠くを見通す。方向は精霊が教えてくれる。
遠くに見える悪魔に合わせ弓を構え、リリーサーに魔法を使用し魔法矢を生成。正面に伸びるスタビライザーが魔導バレルを展開する。このバレルは所謂加速装置となっている。撃ち出す矢を加速させる物。

「穿て、アルテミス!」

フィーナの声と共に放たれた物は光の線を残しながら、魔法法則に従い真っ直ぐ進み、悪魔に触れた瞬間に爆発して胴体を吹き飛ばして終わった。
見つからず、死んだことにすら気づかせない。それこそが狩人。

フィーナは弓を指輪へと戻し、素材と魔導石を回収してギルドへと戻る。

「はいお母様。一緒に売っちゃって」

担当者と話しながら片手でフィーナから受け取る。どう倒したかも何を倒したかも把握しているし、本人がいらないと思っているのも分かっている。
特に褒めるわけでもなく、当然のように受け取る。

この街の住人からしたらかなり厄介な、苦労した敵である。それがこの扱い。
2人の言い分は『あの程度倒したぐらいではね』と『あれ倒したぐらいで褒められても嬉しくない』であった。

「下級悪魔……中級……やはりこのぐらいでどうでしょう?」
「……まあ、いいでしょう」
「では、買い取らせていただきます」
「ええ、よろしく」

勇者達が持ってる残りの素材は、一般的な魔物素材なので交渉する必要はない。
交渉して悪魔素材は売れたので、後は勇者達に任せてもいいだろう。

「どうだ!」
「うわぁダメだね」
「むぅ……でかすぎる」

魔法のイメージが固まったのか、清家が試しに魔法陣を展開してみるがサイズは超級クラス……を超えている。
その一瞬で解析したシュテルが突っ込む。

「それ、必中魔法として組み上がってるわ。月魔法の"撃ち貫く者サジタリウス"と同じような効果になってるからそうなるわね」
「欲張り過ぎか。誘導型ミサイルはダメだね。破棄破棄」
「やっぱ一般的な対空砲でいいんじゃない?」
「小型の連発式"エクスプロージョン"?」
「うん。各属性作っておけば悪魔以外にも使えるでしょ?」
「うーん……設置型魔法? 魔力を込めて設置、魔法陣の保有魔力が無くなるまでポンポンする感じ?」
「打ち出す角度も制限した方が節約できそう」
「90度あれば十分か。それ以外は本体を動かせばいいし」

それから生まれた魔法陣は中級サイズだった。
"エクスプロージョン"自体が中級であり、爆発規模をだいぶ小さくその分数を増やした対空魔法だ。

「お、どうこれ!」
「ふむ……発動最低限の魔力で8発ってところかしらね」
「魔法名何にしようか」
「対空砲でいいんじゃない」
「ポンポン砲」
「「えっ?」」
「流石に知らないか。イギリスのポンポン砲」
「……あれか! え、この魔法大丈夫?」
「弾詰まりという事はあり得ないから大丈夫」
「じゃあポンポン砲で」
「なんか可愛い名前になっちゃった……」

火、水、風、土、光、闇のポンポン砲が完成した。
詠唱後、魔法陣がちゃんと8連装対空砲になり、発射音がポンポン言う拘りっぷりである。ちなみに上空魔力感知機能付き。射程内に入ったら自動的に撃ち始める。
あまり細かくすると燃費が悪くなるので、射撃オプションはそんなに無い。射撃間隔を少し弄れるぐらいである。

「少なくとも、"エクスプロージョン"でそのまま狙うよりは効率的ね」
「なら十分だね!」
「さて、売るもの売ったし合流しましょうか」
「「はーい」」

現状、冒険者達に絡む余裕も無いのだろう。瓦礫などの処理に回っている者もいるのだから。実に平穏に終わった。

しばらくはこの街に滞在する事になりそうだ。少年達がボランティアに精を出しているからな。したいのならさせておこう。

……次元の壁の修復は現在90パーセント程度。
3世界の次元干渉が始まる前に直せそうだ。

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