現人神の導べ
05 裸の付き合い
「さて、風呂でも行くか」
「畏まりました」
道のど真ん中を堂々と歩き、大浴場へとやってくる。
ヒルデにささっと脱がされ、シロニャンはそもそもハリネズミ形態だと着てない。
脱いだものは全て空間収納である"ストレージ"に放り込む。
そして突撃、お城の大浴場!
「ちょ! 隠して! 隠して!」
「……何してんだ、そんな隅っこで」
「ああ、ユニエールさん。髪の手入れとか色々教えようと思って来たんだけど、まだ他の子もいてさ。端っこ行っちゃった」
「ふぅん……」
とことことこ……むんず。
「ほあああああああ」
「……もっと可愛い声出せんのかお前は」
「尻尾離してえええええ」
獣人の耳と尻尾はそれなりに敏感である。
という事で、離してあげた。
「とりあえず、尻尾を他人に触られると気持ち悪いというのが分かった……」
「なお、獣人の尻尾に勝手に触ると殴られても文句言えないから、気をつけるように」
「えっ……」
狐っ娘にじとーっと見られるが華麗にスルー。
スタスタ浴槽に歩いて行き、途中で湯の塊を引き寄せ体を包みかけ湯を済ます。
ダイナミックである。
「とうっ」
『どぽん』でも『びたん』でも無く、『ちゃぽん』である。
浴槽に飛び込むが水が飛び散ることが無い、普通に魔法でやろうとしたら無駄に高度な行動である。
ぷかーっと仰向けで湯に浮かぶ姿は見た目相応であった。シロニャンは浮いてるシュテルのお腹に乗っている。
狐っ娘の尻尾を鷲掴みにしている間に、スタスタと湯に浸かったヒルデもこれはスルーだ。
なぜなら―――
「……ユニエールさんって、実は結構やんちゃですか?」
「この程度ならだいぶマシな方です。一応自重しているようですね」
「流石に自宅じゃないのに遊ぶわけには行くまい」
「そう思うなら浮かぶのも止めましょう?」
「…………」
ぐうの音も出ない……から聞かなかった事にしよう。
「……で、あの狐っ娘はいつまで隅で丸くなってるんだ?」
「露骨に逸してきましたね……」
「もう少し人へっくちっ」
「勇者、召喚初日で風呂場にて風邪を引く」
「うぐっ……」
「間抜けですね」
「ぐふっ……」
ぐさぐさと二本の矢が楓に突き刺さる。
「どうせ今後はその体と長い付き合いになるんだ、さっさと諦めろ」
「戻れるという可能性は……」
「ぶっちゃけ無い」
「まじですか……」
「既に元の体は無いしな」
「…………入るか。ああ、息子よ。使わずに亡くなってしまうとは情けない」
「……まあ、どんまいだな」
体が冷えたからか、多少熱がりながらかけ湯をし、「ふい~」とお湯に浸かった。
「そう言えばユニ様、あの召喚魔法ですが色々マズイのでは?」
「まあそうだな。いずれ破棄させたいところだ」
「……異世界から誘拐してくる他に何かあるの?」
ふむ、ぷかぷか浮きながらというのもあれか。仕方ない、少し真面目な話だ。
ヒルデの隣に陣取る。
次元の壁については触れないとして……。
「いやいや、宮武。俺という大問題が起きているだろうに」
「……ははは、確かにそうだったね」
いやいや狐っ娘、お前はかなり特殊パターンだ。
所謂事故だ。早々おきるもんじゃない。まあ、今は置いとくか。
興味はあるようで、他の学生達も喋るのを待っていた。
「あの召喚魔法『素質ある者を呼び出すだけ』だ」
「素質って……例えば?」
「大前提として異世界転移をできるだけの器を持っている事。その中で強くなるとか既に強いとか、可能性がある者だな。制限は人の形をしている事。喋れること。年齢が若いこと。とかそんなもんしか無いんだよ」
「待って、人格とかは?」
「当然ガン無視だ。しかも強さの上限も無い」
「つまり、極悪人の召喚国ですら手に負えない者が来る可能性がある……ということです」
「え、馬鹿なの?」
「だからあの召喚装置を作った者を天災だと言ったのだ。ヒルデにしか言ってないけど」
「少々お粗末すぎます。召喚頻度の関係上、それに気づいていないのでしょう」
「恐らくだが……無意識に『強さは対して変わらず、異世界転移によって力を持って現れる』とでも思っていたのだろう」
「なるほど……だから、『強さの上限を決める』と言う発想がそもそも無かったわけですか」
「異世界転移をできるだけの器を持ち、力を持つものなら……あの世界じゃ当然妾が釣れるだろうよ」
「我々のいた世界では最強ですから、当然ですね」
「せめて制限を人の形じゃなくて人類にしろよ……。精霊は……枠外だが、妖精は釣れるぞ?」
「妖精種の勇者ですか、可愛らしいですね」
「と言うかあいつら性格的に勇者なんかしないぞ」
「絶対しないでしょうね」
「まあつまり、あの召喚魔法はガバガバだということだ。なんとかなってる今が奇跡に近い。まあ、あれについてはお前達は気にしないで良いぞ。こちらで何かしらする予定だからな」
学生の女勇者達はポカーンとしていた。呆れて言葉が出ないとはこの事である。
中2に呆れられるガバガバ召喚魔法であった。
挙句に無理やりだから次元の壁がぼろぼろになるしで、良いことが無い。
とは言え、世界の仕組み何か知り得ないのだから、次元の壁についても配慮しとけとは無理な話で。召喚魔法もどの世界かはランダムだからな。
「ユニエールさん、俺は何でこんな事に?」
「んー……恐らくだが、才能があったのだろう。元の体じゃ受け止められない程度には。そのままでは死んでしまうから体が再構築された」
「喜ぶべきか、嘆くべきか……」
「まあ、喜ぶべきだろう。前の世界ほど優しくないからな。力があるに越したことはない。ただ、使い方は選べよ」
「……分かった。とりあえずこの体に慣れないとか……」
そして、宮武に捕まり洗い場に引きずられていく楓を見送る。
どうせ体は戻らない。無駄な抵抗を諦めたようだ。
少々私を信用しすぎているのが気になる所だな。まだまだ警戒心が薄い。
まだ初日だし、仕方ないと言えば仕方ないか。
『ユニ様、それだけではないですよね? あの子から感じる妙な気配は……』
『まあ、今は言わんでも良かろう。とりあえず受け止められる下地を作らんとな』
『という事は危険なものでは無いのですね?』
『そうだな。気に入られたと言うか、護られていると言うか、憑かれたと言うか……気に入られて憑かれ、護られているだな』
『ふむ……、気にかけてはおきましょう』
『そうしてくれ』
シロニャンとヒルデの3人で内緒話。苦労しそうだな、狐っ娘よ。
努力するなら手を貸すがね。上手くいけば……不老にはなるか。不死は無理だな。
「ユニエールさん達は洗わないの?」
「我々は見ての通り人ではないからな。汚れないから洗う必要がないのだ」
「『ええっ?』」
「……なんだお前達。気づいてなかったのか? 今は服着てないんだから見れば分かるだろうに」
「『あ、無い……』」
我々は人どころか生物ですら無い。
故に性器なども無い。裸になればすぐに分かる。
体は神力で構成されているため、汚れなども付かないし、垢なども当然出ない。
シロニャンやヒルデは神力とマナ、半々で構成される半神だ。
「所謂精神生命体と言われる存在だと思えばいい。垢など出ないし、汚れも付かん。だからこうして問答無用で髪を浸けてるわけだ」
「精神生命体……幽霊とか?」
「んんー……ややこしいがあれはアンデッドだからまた別だな。魔法生物と言われる奴らだ。似てるけど違う者。精神生命体の方が上位だ」
正確には精神生命体より更に上位だが、神というつもりは無い。
人類は色々分けたがるから、おいおい覚えればいいだろう。恐らく座学で学ぶし。
ゴーレムとかガーゴイルとかも魔法生物だが、アンデッドではない。
レイスやゴーストは魔法生物で、アンデッド。
「体を構成している物や、習性で分けられるな。まあ、この辺りは常識と言えるから座学でやるだろう」
「『はーい』」
飽きたのか、シロニャンが頭を出して滑るようにスイスイ泳いでいく。
私は縁に頭を乗せ、ぷかりとくつろぎモード。
ガタガタガタガタ。
「また地震? この国も多いのかな」
「でも前震だっけ? わからなかったなー」
「お風呂入ってるからじゃない?」
「かなー?」
学生達が話す中、シロニャンはガン無視して泳ぎ続け、ヒルデはばっちりこっちを見ていた。
その通り、犯人は私。
でも私は直してるだけだから悪くねぇぞ。
『そう言えば、分身体はまだですよね?』
『分身体送ったところで無意味だからな』
『そうなのですか?』
『分身体送れば確かに早くはなるが、その分空間振動が酷いことになる。地上に影響を与えないギリギリが今の速度だ。それがわかってるから8割回してって言われたんだろう』
『なるほど、さすが創造神様ですね』
『一気に直すことは可能だが、やったら建物とか以前に地形が変わるだろうな』
『早すぎてもダメですか』
『まあ、対消滅の危機がどうなるか次第か。場合によっては一気にやることになるだろう。その場合この世界には犠牲になってもらうさ。元凶だしな』
『彼らはどうするのですか?』
『学生達ぐらいは避難させる。この世界の住民には大災害として受けて貰うさ。知らなかったとは言え、この世界でおきたことだしな』
学生達に言うことでもない、シリアスな事は念話を使用する。
言ったところで彼らは何もできんし、正体明かすつもりもないから不安になるだけだろう。
「そろそろ出よっか」
「おー」
ぞろぞろ出ていく学生達。我々は少々遅かったのでもう少しのんびりしていく。
「うちの大浴場の方がでかいな」
「そもそも土地自体がうちの方が大きいですからね」
「それもそうか」
土地が広ければその分使えるスペースが増える。すると当然一つ一つが大きくなるわけで、お風呂も大きい。
「ユニエールさんの家どんだけ……」
「ぶるじょあじー。うらやま」
「バカを言うな。その分忙しいんだぞ。何かの対価として金を貰うのだからな。多ければ多いだけそれだけのことをしているという事だ」
「ユニエールさん何してるの?」
「それは秘密」
「えー」
「機会があればそのうちな。さ、出るぞシロニャン」
「ちゅいー」
文字通り湯の上を走ってやってくるシロニャンである。
ジャンプして飛び込んでくるのを受け止め、脱衣所へ。
「ほら、ちゃんと髪拭いて! ……尻尾は?」
「自分でやる」
「姉妹かなんかか……」
「妹欲しかったんだー」
「えー……」
わちゃわちゃ拭いている2人を横目に、こちらは既に服を着ている。
それを見てびっくりしていた。『ちゃんと拭いたの!?』的な目である。と言うかもう、思考がそう言っている。
「乾かすのなんか魔法で一瞬だからな」
「「なにそれずるい」」
「ほら」
軽く腕を振り、2人の体と毛から余計な水分を取ってやる。
別に腕を振る必要もないが、分かりやすいからな。
「「おぉー! すごい!」」
「まあ、同じことやるのはそれなりに大変ですけどね……」
「「えぇー」」
「表面にある水に魔力を纏わせ、体から離して捨てるか蒸発でもさせるかだな」
「「簡単そうに聞こえる」」
「表面にある水に魔力を纏わせるというのが難しいのだよ。かなり繊細な魔力操作が必要になるからな。やり方は他にも色々あるが……まあ、数日中に魔法を学ぶだろう。楽しみにしとけ」
「「はーい」」
部屋も同じ方向と言うか、我々が一番端で狐っ娘が隣、狐っ娘の隣に宮武が来て、宮武の隣が長嶺となっている。
その為一緒に戻り、部屋の前で解散する。
「おやすみなさーい」
「うむ、しっかり寝るように。睡眠不足は生物の天敵だぞ」
「「はーい」」
2人と分かれて自分の部屋へ入り、ヒルデがいれた紅茶を飲む。
そして私を含めた学生達がいる部屋の通路などの監視をしておく。
現状でまだ動きそうなのはいないが、念のためだ。
明日は座学と、実技テスト。
「畏まりました」
道のど真ん中を堂々と歩き、大浴場へとやってくる。
ヒルデにささっと脱がされ、シロニャンはそもそもハリネズミ形態だと着てない。
脱いだものは全て空間収納である"ストレージ"に放り込む。
そして突撃、お城の大浴場!
「ちょ! 隠して! 隠して!」
「……何してんだ、そんな隅っこで」
「ああ、ユニエールさん。髪の手入れとか色々教えようと思って来たんだけど、まだ他の子もいてさ。端っこ行っちゃった」
「ふぅん……」
とことことこ……むんず。
「ほあああああああ」
「……もっと可愛い声出せんのかお前は」
「尻尾離してえええええ」
獣人の耳と尻尾はそれなりに敏感である。
という事で、離してあげた。
「とりあえず、尻尾を他人に触られると気持ち悪いというのが分かった……」
「なお、獣人の尻尾に勝手に触ると殴られても文句言えないから、気をつけるように」
「えっ……」
狐っ娘にじとーっと見られるが華麗にスルー。
スタスタ浴槽に歩いて行き、途中で湯の塊を引き寄せ体を包みかけ湯を済ます。
ダイナミックである。
「とうっ」
『どぽん』でも『びたん』でも無く、『ちゃぽん』である。
浴槽に飛び込むが水が飛び散ることが無い、普通に魔法でやろうとしたら無駄に高度な行動である。
ぷかーっと仰向けで湯に浮かぶ姿は見た目相応であった。シロニャンは浮いてるシュテルのお腹に乗っている。
狐っ娘の尻尾を鷲掴みにしている間に、スタスタと湯に浸かったヒルデもこれはスルーだ。
なぜなら―――
「……ユニエールさんって、実は結構やんちゃですか?」
「この程度ならだいぶマシな方です。一応自重しているようですね」
「流石に自宅じゃないのに遊ぶわけには行くまい」
「そう思うなら浮かぶのも止めましょう?」
「…………」
ぐうの音も出ない……から聞かなかった事にしよう。
「……で、あの狐っ娘はいつまで隅で丸くなってるんだ?」
「露骨に逸してきましたね……」
「もう少し人へっくちっ」
「勇者、召喚初日で風呂場にて風邪を引く」
「うぐっ……」
「間抜けですね」
「ぐふっ……」
ぐさぐさと二本の矢が楓に突き刺さる。
「どうせ今後はその体と長い付き合いになるんだ、さっさと諦めろ」
「戻れるという可能性は……」
「ぶっちゃけ無い」
「まじですか……」
「既に元の体は無いしな」
「…………入るか。ああ、息子よ。使わずに亡くなってしまうとは情けない」
「……まあ、どんまいだな」
体が冷えたからか、多少熱がりながらかけ湯をし、「ふい~」とお湯に浸かった。
「そう言えばユニ様、あの召喚魔法ですが色々マズイのでは?」
「まあそうだな。いずれ破棄させたいところだ」
「……異世界から誘拐してくる他に何かあるの?」
ふむ、ぷかぷか浮きながらというのもあれか。仕方ない、少し真面目な話だ。
ヒルデの隣に陣取る。
次元の壁については触れないとして……。
「いやいや、宮武。俺という大問題が起きているだろうに」
「……ははは、確かにそうだったね」
いやいや狐っ娘、お前はかなり特殊パターンだ。
所謂事故だ。早々おきるもんじゃない。まあ、今は置いとくか。
興味はあるようで、他の学生達も喋るのを待っていた。
「あの召喚魔法『素質ある者を呼び出すだけ』だ」
「素質って……例えば?」
「大前提として異世界転移をできるだけの器を持っている事。その中で強くなるとか既に強いとか、可能性がある者だな。制限は人の形をしている事。喋れること。年齢が若いこと。とかそんなもんしか無いんだよ」
「待って、人格とかは?」
「当然ガン無視だ。しかも強さの上限も無い」
「つまり、極悪人の召喚国ですら手に負えない者が来る可能性がある……ということです」
「え、馬鹿なの?」
「だからあの召喚装置を作った者を天災だと言ったのだ。ヒルデにしか言ってないけど」
「少々お粗末すぎます。召喚頻度の関係上、それに気づいていないのでしょう」
「恐らくだが……無意識に『強さは対して変わらず、異世界転移によって力を持って現れる』とでも思っていたのだろう」
「なるほど……だから、『強さの上限を決める』と言う発想がそもそも無かったわけですか」
「異世界転移をできるだけの器を持ち、力を持つものなら……あの世界じゃ当然妾が釣れるだろうよ」
「我々のいた世界では最強ですから、当然ですね」
「せめて制限を人の形じゃなくて人類にしろよ……。精霊は……枠外だが、妖精は釣れるぞ?」
「妖精種の勇者ですか、可愛らしいですね」
「と言うかあいつら性格的に勇者なんかしないぞ」
「絶対しないでしょうね」
「まあつまり、あの召喚魔法はガバガバだということだ。なんとかなってる今が奇跡に近い。まあ、あれについてはお前達は気にしないで良いぞ。こちらで何かしらする予定だからな」
学生の女勇者達はポカーンとしていた。呆れて言葉が出ないとはこの事である。
中2に呆れられるガバガバ召喚魔法であった。
挙句に無理やりだから次元の壁がぼろぼろになるしで、良いことが無い。
とは言え、世界の仕組み何か知り得ないのだから、次元の壁についても配慮しとけとは無理な話で。召喚魔法もどの世界かはランダムだからな。
「ユニエールさん、俺は何でこんな事に?」
「んー……恐らくだが、才能があったのだろう。元の体じゃ受け止められない程度には。そのままでは死んでしまうから体が再構築された」
「喜ぶべきか、嘆くべきか……」
「まあ、喜ぶべきだろう。前の世界ほど優しくないからな。力があるに越したことはない。ただ、使い方は選べよ」
「……分かった。とりあえずこの体に慣れないとか……」
そして、宮武に捕まり洗い場に引きずられていく楓を見送る。
どうせ体は戻らない。無駄な抵抗を諦めたようだ。
少々私を信用しすぎているのが気になる所だな。まだまだ警戒心が薄い。
まだ初日だし、仕方ないと言えば仕方ないか。
『ユニ様、それだけではないですよね? あの子から感じる妙な気配は……』
『まあ、今は言わんでも良かろう。とりあえず受け止められる下地を作らんとな』
『という事は危険なものでは無いのですね?』
『そうだな。気に入られたと言うか、護られていると言うか、憑かれたと言うか……気に入られて憑かれ、護られているだな』
『ふむ……、気にかけてはおきましょう』
『そうしてくれ』
シロニャンとヒルデの3人で内緒話。苦労しそうだな、狐っ娘よ。
努力するなら手を貸すがね。上手くいけば……不老にはなるか。不死は無理だな。
「ユニエールさん達は洗わないの?」
「我々は見ての通り人ではないからな。汚れないから洗う必要がないのだ」
「『ええっ?』」
「……なんだお前達。気づいてなかったのか? 今は服着てないんだから見れば分かるだろうに」
「『あ、無い……』」
我々は人どころか生物ですら無い。
故に性器なども無い。裸になればすぐに分かる。
体は神力で構成されているため、汚れなども付かないし、垢なども当然出ない。
シロニャンやヒルデは神力とマナ、半々で構成される半神だ。
「所謂精神生命体と言われる存在だと思えばいい。垢など出ないし、汚れも付かん。だからこうして問答無用で髪を浸けてるわけだ」
「精神生命体……幽霊とか?」
「んんー……ややこしいがあれはアンデッドだからまた別だな。魔法生物と言われる奴らだ。似てるけど違う者。精神生命体の方が上位だ」
正確には精神生命体より更に上位だが、神というつもりは無い。
人類は色々分けたがるから、おいおい覚えればいいだろう。恐らく座学で学ぶし。
ゴーレムとかガーゴイルとかも魔法生物だが、アンデッドではない。
レイスやゴーストは魔法生物で、アンデッド。
「体を構成している物や、習性で分けられるな。まあ、この辺りは常識と言えるから座学でやるだろう」
「『はーい』」
飽きたのか、シロニャンが頭を出して滑るようにスイスイ泳いでいく。
私は縁に頭を乗せ、ぷかりとくつろぎモード。
ガタガタガタガタ。
「また地震? この国も多いのかな」
「でも前震だっけ? わからなかったなー」
「お風呂入ってるからじゃない?」
「かなー?」
学生達が話す中、シロニャンはガン無視して泳ぎ続け、ヒルデはばっちりこっちを見ていた。
その通り、犯人は私。
でも私は直してるだけだから悪くねぇぞ。
『そう言えば、分身体はまだですよね?』
『分身体送ったところで無意味だからな』
『そうなのですか?』
『分身体送れば確かに早くはなるが、その分空間振動が酷いことになる。地上に影響を与えないギリギリが今の速度だ。それがわかってるから8割回してって言われたんだろう』
『なるほど、さすが創造神様ですね』
『一気に直すことは可能だが、やったら建物とか以前に地形が変わるだろうな』
『早すぎてもダメですか』
『まあ、対消滅の危機がどうなるか次第か。場合によっては一気にやることになるだろう。その場合この世界には犠牲になってもらうさ。元凶だしな』
『彼らはどうするのですか?』
『学生達ぐらいは避難させる。この世界の住民には大災害として受けて貰うさ。知らなかったとは言え、この世界でおきたことだしな』
学生達に言うことでもない、シリアスな事は念話を使用する。
言ったところで彼らは何もできんし、正体明かすつもりもないから不安になるだけだろう。
「そろそろ出よっか」
「おー」
ぞろぞろ出ていく学生達。我々は少々遅かったのでもう少しのんびりしていく。
「うちの大浴場の方がでかいな」
「そもそも土地自体がうちの方が大きいですからね」
「それもそうか」
土地が広ければその分使えるスペースが増える。すると当然一つ一つが大きくなるわけで、お風呂も大きい。
「ユニエールさんの家どんだけ……」
「ぶるじょあじー。うらやま」
「バカを言うな。その分忙しいんだぞ。何かの対価として金を貰うのだからな。多ければ多いだけそれだけのことをしているという事だ」
「ユニエールさん何してるの?」
「それは秘密」
「えー」
「機会があればそのうちな。さ、出るぞシロニャン」
「ちゅいー」
文字通り湯の上を走ってやってくるシロニャンである。
ジャンプして飛び込んでくるのを受け止め、脱衣所へ。
「ほら、ちゃんと髪拭いて! ……尻尾は?」
「自分でやる」
「姉妹かなんかか……」
「妹欲しかったんだー」
「えー……」
わちゃわちゃ拭いている2人を横目に、こちらは既に服を着ている。
それを見てびっくりしていた。『ちゃんと拭いたの!?』的な目である。と言うかもう、思考がそう言っている。
「乾かすのなんか魔法で一瞬だからな」
「「なにそれずるい」」
「ほら」
軽く腕を振り、2人の体と毛から余計な水分を取ってやる。
別に腕を振る必要もないが、分かりやすいからな。
「「おぉー! すごい!」」
「まあ、同じことやるのはそれなりに大変ですけどね……」
「「えぇー」」
「表面にある水に魔力を纏わせ、体から離して捨てるか蒸発でもさせるかだな」
「「簡単そうに聞こえる」」
「表面にある水に魔力を纏わせるというのが難しいのだよ。かなり繊細な魔力操作が必要になるからな。やり方は他にも色々あるが……まあ、数日中に魔法を学ぶだろう。楽しみにしとけ」
「「はーい」」
部屋も同じ方向と言うか、我々が一番端で狐っ娘が隣、狐っ娘の隣に宮武が来て、宮武の隣が長嶺となっている。
その為一緒に戻り、部屋の前で解散する。
「おやすみなさーい」
「うむ、しっかり寝るように。睡眠不足は生物の天敵だぞ」
「「はーい」」
2人と分かれて自分の部屋へ入り、ヒルデがいれた紅茶を飲む。
そして私を含めた学生達がいる部屋の通路などの監視をしておく。
現状でまだ動きそうなのはいないが、念のためだ。
明日は座学と、実技テスト。
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