あなたと咲かせる恋の花。

しっちぃ

特別編:恋の花は乱れ咲く。prologue

「あの、邑さん、お願いがあるんですけど……」

 私から邑先生に電話をかけたのは、初めてかもしれない。少し頼みづらいこともあって、口調も、自然と何かを探るようなものになる。

『どうした、何かあったか?』
「えぇっと、明後日から、寮の点検で三日間入れないじゃないですか」
『ああ、そうだな』
「その……手違いがあって、明後日、私どこにも泊まれなくて、……どこか、泊めてもらえますか?」

 海外に出張してる両親が、私の寮の空いてない日を一日間違えていて、最初の日に泊まるとこが何もなくなってしまった。そうでもなきゃ、こんな大胆なことは言えない。

『私の実家も狭いしな……、一緒にちょっと遠くで泊まるか?』
「えっ、いいんですか!?」
『まあな、私も実家に泊まれないし、……どうせなら、楽しめるほうがいいだろ? 探しておくから』
「は、はい……、ありがとうございますっ」

 胸の奥が、きゅんって高く鳴る。邑先生から、こんな風に私の距離を近づけてくれるたびに。

「それじゃあ、……せっかくなら、デートしませんか?」
『いいな、宿は私のほうで探しておくから、その近くで見てみるか』
「それでお願いします、また明日ですね」
『そうだな、調べ終わったら、また連絡する』

 そう言って、邑先生が電話を切る。私はずった話してしまいそうになるから、邑先生みたいにさっぱりとしてるのは羨ましい、けど、なんか寂しくなる。
 きっと、ずっと私のほうが『好き』なんだろうな。そんなの、大きさで比べるものじゃないのはわかってるし、邑先生が私のこと、愛してくれてるのはわかってるけれど、このもやもやは、消えてくれない。
 でも、そんなのも一瞬で消えたのは、次の日のお昼前にかかってきた電話。

『智恵、今日空いてる時間あるか?』
「はいっ、文化祭の準備が終わってからで、四時過ぎくらいになりますけど」
『それならいい、その時になったら来てくれ、待ってるから』
「わかりました、できるだけ早く行きますね?」
『全く、……無理はするなよ』

 あの時から、ずっと私のために頑張ってくれたんだ、……真面目だもんな、邑先生は。
 心の中がぽかぽかして、頭の中で、邑先生に抱きついてた。
 好きでいてもらえるって、あったかい。そっけない中に見え隠れする優しさは、私が邑先生に出会ってから変わらない。
 それでちょっと練習に身が入らなかったのは、私だけの内緒。

「それで、こういうのはどうだ?」
「わざわざありがとうございます、すっごく嬉しいです」
「そうか、……気に入ってくれたなら、それでいい」

 二人きりの用務員室で、ぽんぽん、って頭を撫でてくれる手。いつもと変わらないのが、逆にちょっと落ち着く。

「明日、楽しみです、……邑さんのおかげです」
「礼はいい、……でも、ありがとな」

 私と邑先生の顔が、自然と近づく。もう、知ってしまった気持ちよさは、いつのまにか止まらなくなっていた。
 ……ちゅ。
 ほんのちょっとの羞恥と、それの何倍も強い喜び。何度したって、変わらないドキドキも、全部好き。

「それじゃあ、また明日、ですね」
「そうだな」

 それが最高の一日になるのを、私達はまだ知らない。

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