あなたと咲かせる恋の花。

しっちぃ

ヒルガオ―『やさしい愛』

 何度か行ったはずなのに、なんだか新鮮で落ち着かない。
 何でかは分かってる。繋いだ手のぬくもりも、隣のボーイッシュな声も、邑先生の、……私の恋人のものだから。

「邑さんは、ここ来た事あるんですか?」
「いや、初めてだ、……滅多に、遊びになんて行かなかったからな」
「そうなんですね、……今日は、いっぱい楽しんでくださいね?」
「ああ、そのつもりだ」

 そうやって笑う声。二人でいるときは、よくそうやって笑顔でいてくれるようになった。最近、二人きりになる時間が多かったからかもしれないけど、それを差し引いても、邑先生の表情はお付き合いをする前よりもずっと柔らかくなった。
 私の気持ち、信じてくれたからなのかな。冷え切っていた心を、温められたからなのかな。それは分からないけど、ゆっくりと心を開いてくれるのは、それだけで嬉しい。

「開いたばかりだと、やっぱり人少ないですね」
「そうだな、そのほうが気が楽だ、……智恵とはぐれないで済むしな」
「もう、邑さんとは離れないのに、手だって繋いでるし」

 そういう意味じゃないことは分かってるけど、口をついて出た言葉に、思わず頬が熱くなる。暗いから、気づかれてないよね、

「……わかってる、でも、二人でいるほうが、嬉しいから」
「それは、私も、です……っ」

 不意を衝くような言葉、どうしてこんな簡単に、私の心を揺さぶってくるんだろう。いくら邑先生が器用だって言っても、これが『初恋』のはずなのに。
 ぽんぽん、って撫でてくれる手に、きゅんって心臓が跳ねる。私の心の中、全部知られちゃってるんじゃないかって思うくらいに、簡単に私をドキドキさせてくる。……でも、そんなとこも大好きで、離れられなくなる。

「じゃあ一通り回るか、今ならすぐ見れるだろ?」
「そうですね、行きましょうか」

 そうやって二人で周ってる間、水槽の中になんて全然意識が向かなかった。
 今、どんな顔してるのかな。照り返しで微かに見える顔は、いつもと同じポーカーフェイスじゃなくて、けっこう表情がころころ変わっている。私にしかわからないくらい、微かにだけど。

「どう、ですか?」

 思わず訊いてしまう言葉。何をとか、言えるわけがなかった。
 私と一緒にいて、どうですか、……なんて。

「すっごくきれいだな、普段食べてるのが、あんなに泳いでるなんて知らなかった」
「ふふ、そうですね」

 よかった、けど、ちょっと寂しくなる。……隠された意味に、気づいてくれないのは。

「……でも、智恵とじゃないと、こんなに楽しいなんてなかった」
「本当ですか? でも、私も……邑さんとじゃなきゃ、嫌、です……」

 そんな心にまで気づいてくれて、その答えも、言ってくれるなんて。
 恥ずかしいよ、でも、それの何倍も、嬉しい。
 ぎゅっと握りしめてくれる手も、ほっぺたが、ちょっと赤くなってるのも。
 邑先生、私のこと、愛してくれてるんだ。
 それだけで、ぽうっと、胸の奥があったかくなる気がする。 

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