あなたと咲かせる恋の花。

しっちぃ

フリージア―『期待』

「おはようございます、邑先生」
「ああ、おはよう、智恵」

 まだ十時までは三十分以上もあるっていうのに、邑先生はもう来ていた。

「そういえば、私服で会うのなんて初めてですね、……なんていうか、邑先生らしいです」

 城いTシャツの上に、五分丈のデニムジャケット羽織って、下はカーキ色のカーゴパンツでまとめてあって、すっごく大人っぽくてかっこいい。

「えっと……その、変じゃないか?」
「そんなことないですよ、すっごく、かっこいいです」
「かっこいいか……?まあ、変じゃないならいい」

 そっけない言い方なのに、頭を撫でてくる邑先生。けっこう、心配だったんだろうな。私服で来てほしいって言ったときかなり戸惑ってたから、きっとファッションとかそういうのにも縁なんてなかったんだろうし。

「わ、……私のはどうですか?」

 パステルイエローのワンピースに、ふんわりとしたピンクのニットのカーディガンを羽織って、いつもよりは女の子っぽくまとめてみたけど。

「よく似合ってる、かわいいな」
「そ、そうですか……?あ、ありがとうございます……っ」

 こういうことで邑先生が嘘なんてつかないのも知ってるし、お世辞が嫌いなのも知ってる。だからこそ、その言葉が本物なのも分かって、胸の奥がキュンってしてしまう。

「礼なんていらん、……どうする、ちょっと早いけど行くか?」
「そうしましょっか、ここでずっといるのも、なんか変ですし」

 そう言って校門を出ようとしたとき、邑先生の足が止まったまま。

「どうかしましたか?」
「……いや、何でもない、行くか」

 何でもないと言いつつ、何でもなくないような言い方。ふと近くの茂みのほうをちらりと見て、眉をひそめる。

「何かあるんだったら、言ってくださいね?」
「いや、……ちょっと、誰かに見られてるような気がしただけだ」
「それなら、早く行きません?そのほうが見られないですよ」
「まあ、そうだな」

 さりげなく、私に歩調を合わせてくれる邑先生。いっつもせかせかと歩いてるのに、……二人だけの時間、大切にしたいからかな。

「そういえば、仕事は大丈夫か?文化祭の準備だっていっぱいあるだろ?」
「それなら大丈夫ですよ」

 大事にしてくれてるのはわかるけど、こういうとこまで過保護なのはちょっとだけむっとする。

「それに、……今の私は『生徒会長』じゃなくて『邑先生の恋人』ですから、……『先生と生徒』じゃなくて『恋人同士』でいさせてください」

 自分で言った言葉の甘さに、思わず顔が火照る。二人だけの、誰にも邪魔されない甘い時間。精一杯楽しませてあげたいし、いっぱい楽しみたい。恋なんて知らなかった邑先生も、中学も星花で、恋人に恵まれなかった私も、これが初デートなんだから。

「それなら、私に先生をつけて呼んでるのは何でだ?今の私は『先生』じゃないんだろ?」
「そ、それは……っ!」 

 思わず足が止まって、火照った顔を抑えてしまう。それに気づいた邑先生が
 言われた言葉に、顔から火が出そうになる。今までの照れのせいだったのじゃなくて、やり場のない恥ずかしさのせいで。『恋人同士』でいたいって言ったのは私なのに、一瞬で壊しちゃう。せっかく、邑先生から近づかせてくれるチャンスをくれたのに。

「邑せんせ、じゃないや。……邑、さん……っ」

 生徒会室で二人きりになった時以来、『邑さん』って呼べたのはこれで二回目。でも、今日はずっと、こうやって呼んでいくんだ。今の邑さんと私は、『恋人同士』なんだから。
 その心を読んたみたいに、邑先生が、ぽんぽん、と優しく髪を撫でてくれる。「それでいい」なんて邑先生の優しい声が、聞こえてくるような気がした。

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