あなたと咲かせる恋の花。

しっちぃ

リンドウ―『あなたの悲しみに寄りそう』

 突然かかってきた電話は、相変わらず邑先生のもの。
 最近、ずっと邑先生のときの着信音しか聞いてない気がする。……それだけ、邑先生から繋がってくれてるってこと。

「それじゃあ、明日は十時に正門の桜の木のとこですね」
『ああ、……今夜は早く寝ろよ、明日倒れられたら困るからな』
「大丈夫ですよ、もうお風呂済ませましたから」
『そうか、それならいい』

 きっと一緒にいたら、撫でてくれそうなくらい優しい声。まだ九時くらいなのに、早く休んでほしいってずっと言ってくる。そんなことを言ってくるだろうと思って、八時くらいにはお風呂に入ってきた。ちょうど混まない時間でゆっくりできたし、そういう意味でもありがたい。

「それじゃあ、また明日ですね、……おやすみなさい、邑先生」
「ああ、おやすみ、智恵」

 向こうから切られる電話も、いつものことで。
 それがもう、『いつものこと』になったんだって、胸を温かいものが流れてく。私がまだ片思いしてたままのときは、こんなことなんて想像がつかなかった。一緒にいる機会なんてなかったせいで、まだ邑先生のこと全然わからなかった。
 あの時よりはずっと、邑先生のこと知ることができた。そばにいて気づくことも、邑先生から教えてもらえることもいっぱいできた。
 でも、肝心なこと、まだ言われてない。きっとまだ、邑先生の過去は、全部は教えてもらってはいない。邑先生だって今も心を傷つけるような記憶は言いたくないだろうし、私とお付き合いするようになっただけで、まだその傷は治ってないのだろう。
 でも、……いつか、邑先生の傷、全部治したい。一生かけて、邑先生のことをいっぱい知って、その全部を愛したい。
 だから、明日の初デートも、その一歩。邑先生と、もっと近づくための。
 明日着る服ももう決めて畳んで置いておいたし、これで明日は慌てなくて済む。スマホに打ち込んである予定表を最後に確認して、これでいい、とうなづく。充電器に挿して、アラームもかかっているのを確認して、眼鏡を置いてベッドに寝転がる。
 明日、楽しみすぎて眠れないや。遠足の前の小学生みたいだな、私。こんなに早く寝るのも、その時以来。でも、それも仕方ないと思う。明日は、『恋人』とする初デートなんだから。緊張するけど、こんなに嬉しいことなんてない。
 自然ところころとベッドの上を転がる体。不安も期待も何もかも全部かき混ぜられている私の心。
 邑先生だって楽しみにしてくれてるんだから、いっぱい楽しませてあげたいな。
 夢心地でつぶやいて、ゆっくりと深呼吸。このまま、幸せでいたいな。ぼんやりとする頭の中で、それだけが頭に残った。

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