クラス転移〜オタク共が活躍する世界〜

隙間の隙に

会議の中での快技 話し合いは一番面倒なイベントだ

あれからまだ2分も経っていないだろう。
ルーメを席に着けてからは誰も話さなくなった。
ベテラン執事さんはずっと警戒していて、リアは恐怖と、緊張で身体が硬直していた。
俺はというと、今やっと状況の整理ができたのだ。
まず、吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)のリーダーであるルーメ・ブリークは何故かリアの屋敷の中で話をしに来た。
で、そいつはリアの妹らしい…。
だが、ここで俺は疑問が一つ生まれた。
それはルーメも吸血鬼ではないのか、というものだ。
リアは知っての通り吸血鬼である、ではその妹も同じではないのか、て普通は思うだろう。

「天旡さんは何か疑問があるのですか〜」

最初に口を開けたのはルーメだった事に驚きながらも、ルーメも俺の顔で心が読めるのか?と、思った。
まぁ、今はそれよりも…、

「一つ聞きたいのだが、お前は吸血鬼なのか?」

素直に気になる部分だけを聞いてみた。
リアはルーメを妹とは思ってないらしいからな…。

「違うわ!こいつはもう吸血鬼とは呼べない、得体の知れない何かよ!」

俺の質問に答えたのは意外にもリアだった。
いや、薄々気づいてはいたが、リアはルーメを生き物としてみていないような気がしていた。

「ふふっ、私を得体の知れない何かって言えるのお姉ちゃんでけですよ。しかも、私はまだ吸血鬼をやってるつもりですけどね〜」

ルーメは、皮肉っぽくリアにそう告げた。
俺が質問したのに、俺だけ話について行けない。
少し寂しいと思っているとルーメが…、

「そういえば、天旡さんは知りませんでしたね、私が私自身にした事を…」

なんと…、敵ながらもちゃんと人への配慮が成されていることに感心しつつも、確かにそうだ、っと相槌をした。

「では…」

と、ルーメが説明しようとすると…。

「待って、これは私が説明するわ!」

リアが半ば強引ながらもメールの説明を止め、自ら説明すると言いだした。
理由は何と無く分かるが…。

「だって、天旡にある事ない事を自由に言われたら困るからね」

リアの意見を尊重はしたいが、現実はそう簡単にいかない。

「それはどちらにでも言える事じゃないですか〜、全く、私の姉はおっちょこちょいですね〜」

そう、リアは何か急いでいるようにしか見えない。
今は急ぐべきでは無いのに、兎に角この話し合いを長引かせれば良いというのに…。

「お姉ちゃんはなんか急いで無いですか〜?少なからずとも、私からはそう見えますよ〜」

どうやら俺も、こいつも感性が似ているらしい。
アニメや、ラノベとかならここからラブコメが始まるだろうが、先程と同様に現実はそう簡単に上手くはいかない。

「そうだぞ、リアは一旦落ち着けって、急いだって俺は答えてくれるのを待っているさ」

取り敢えずは時間を稼ぐ云々は置いといて、リアを落ち着かせるのが先だ。
…、まただ、俺はまた八方美人を装ってしまった…。
俺だって、ここをされるのであれば去りたいさ、もう心はプレッシャーとかでグシャグシャだ。

「では、お姉ちゃんが落ち着くまではこちらの話を聞いて貰ってもいいですか〜?」

こちらからお願いしますと言いたいほどにタイミングの良い提案だ。
もちろん返事は、OK一つだけだ。

「そうですね〜、では、単刀直入に言いますね〜。お姉ちゃんの敷地内ではもう、争いをしない、という協定を結びませんか〜。私たち(吸血鬼狩り)の人数も急激に減って来てるので〜。なるべく、吸血鬼の中でも強い方のお姉ちゃんとは戦いたく無いのですよ〜」

これがルーメ自身が願っているものなのか、陳腐な嘘なのかすらも分からない。
だが、一つだけ分かる事がある…それはこの屋敷の主が全くと言って良いほどにこの言葉を信じていない。

「それは私たちへのメリットが多いわね…、確かにそれを鵜呑みにするのも良い考えかもしれないわ」

絶対に嘘だと確信しているからこそ、怒りで身体が震えて居るのに、冷静を装っている。

「そうですよ〜、この協定はあなた方へのメリットが多いのですよ〜。ですから結びませんか〜」

リアが怒っているのを良い事に、挑発を繰り返している。
大抵は怒りが頂点にまで達すると、冷静な判断が出来なくなるとルーメは考えているのだろう…。
しかし、こいつは一つだけ勘違いしている…。

「いいわ、じゃあ…」

「待て!」

俺は協定を結ぼうとするリアの言葉を遮った。
リアも、ルーメも驚きを隠せていない。
ルーメに関しちゃ、驚きの奥に怒りも滲み出ている。
やはりそうだった。

「あ、天旡?何故止めたのかしら?」

リアからの質問だ。
当然くると思っていた。
それ用の受け答えも考えておいたし…。

「まぁ、簡単に言わせてもらおうか…。ルーメ、この協定は余りにも俺らにメリットが多すぎる。これに不信感を抱いても仕方が無いだろう?」

最初は簡単な疑いを言うだけにした。

「そうかしら〜、私達のメリットは私達にとってはかなり大きいものですよ〜」

そう答えてくると思っていた。

「それなら、リアの敷地内だけを限定するのは不思議では無いか?全面的にすれば何処だろうとリアからの奇襲は受けなくなるのに?」

第二の簡単な疑問だ。

「それもそうだけど〜、そこまでは私もあなた達も信用できないじゃ無いですか〜」

確かにそうだ、だが。

「だが、今ここで俺らを仕留めれば協定なんかいらないじゃ無いか」

ルーメは顔を複雑そうにもしないでいつものように答える。

「そんなに来てないんですよ〜、人数が〜」

人数が足りないのなら逆に好都合だ。

「じゃぁ、人数が少ないのに何故この敷地内で野宿なんかした。そこを奇襲されたら元も子もないじゃ無いか」

取り敢えずは場つなぎの言葉を置き…。

「大丈夫ですよ〜、一日中起きていたのですから〜」

一日中起きていたのか〜、なら、

「なら、服って今お前が着ているものをずっと着てるんだよな」

ここでルーメは気付く、これはどっちに転んでも詰んでいると…。
何故なら、着ているといえば、何故、吸血鬼狩りの紋章が落ちていたのか…、それは明らかに自分たちがいることを知らせる為としか考えられない。
逆に着ていないと言えば、紋章の事はどうにか出来るが、また別の質問をする、それは、人数が少ないから起きていたとしても、圧倒的な量で来られたら意味が無いじゃ無いか。
そう、敵陣営で一日過ごすということは圧倒的な余裕がなければならない。という事は必然的にルーメは結構な人数で来ている事になる。それなのに協定を結ぼうとするのは相手にとって不都合な点があるからだろう。そう考えるしか無い。

「そうですね〜、確かに着てましたけど〜。それは絶対に付けていなければならない!みたいな掟無いんですよ〜。だから失くすのなんて結構ある事なんですよ〜」

平然とした顔で、うまく返されてしまった。
確かにこう言われたら他の質問をするしか無い…、と思うだろうが、この先もちゃんと考えているさ…。

「だが、俺は紋章の事を一回も言って無いが…」

そう、俺は紋章について一回も言っていない。
まぁ、顔を見たから分かったのだろうが…。

「あなたの顔を見たからですよ〜。そんな簡単に受け答え出来る質問じゃあ、私自ら墓穴を掘る事なんてしませんよ〜」

流石はリーダーの地位に立つ者だ。

「だったら、もう少し難しくするぞ。何人で来ている、これの答えによっては協定を結ぶのも案外悪くはなくなるかもしれないが…」

明らかに誘いだが…。

「さっきも言った通り少人数ですよ〜」

…少人数で敵陣営内での野宿はさっきも言った通りに危険が多過ぎる。

「ルーメは少人数で敵陣営内での野宿をする程に考えなしなのか?」

今回はちょっとした煽りをいれる。

「考えなしって〜、私初めてそんな事言われましたよ〜。と、言ってもばればれの煽りに乗る気はさらさらないですから〜」

やはり意見は変えないか、だろうと思ってたさ…。
後は頼んだぜ、リア。

「煽りに乗らないなんて流石は我が妹ね。でも、幾つか気になる点が私にもあるの」

ずっと黙ってリアは話を聞いていた。
ルーメはそれを怒りを抑えているものだと思い込んでいたのだろう…。

「一つは、この話し合いは昨日の段階でできた事。私は吸血鬼だから、夜に来ようが別に何の支障も無い事をあなたは知っているし、あなたは一日中起きていたのだから夜に来る事は容易に出来たはず…。また、少人数で来てるのなら早く事を済ませた方がいいじゃなかったかしら?」

なら何故、リアは怒りをすぐに抑え、冷静になれたのか…。
リアは息継ぎをすると、ルーメを話させない為にすぐにまた話し始めた。

「二つ目は服を着ていたか、着ていないかの質問で、答えるのに少し時間が掛かったこと…。思いだしていた時間かもしれないけど、紋章をよく失うって所が気になったわね〜」

そう、それはリアと俺は…。
リアはさっきの様に息を早く吸い、ルーメのターンを作らせなかった。

「吸血鬼狩りは約五万人居るはず、そんな奴らの少人数行動で紋章を失っていたら、どれくらいの量をまた作らなければいけなくなる…。少なくとも五千もの紋章は一回の全体移動でなくなる事は出来るわ。そして、その紋章は魔力を特殊加工をするから、一つ作るのに速くても半日はかかるわよね…」

そう、リアも俺も全て演技だったのだ。
一つ目が本当の気になるところである。
二つ目は取り敢えずの場つなぎの言葉だ。
だから、多少強引な所がある。
だが、一つ目の事でルーメは二つ目をよく聞いていなかったからなのか、表情には出さないが、まずい、と心の中で連呼している。
何で心が読めるのかって聞かれたら俺は厨二病を本気でやってたらいつしかこうなるさ、と言ってやりたいね。
はっきり言うと、リアとのアイコンタクトもこれでしていたのだ。
こんなどうでもいい事を考えてる俺の横でリアは最後のトドメと言わんばかりに

「これで言いたい事は分かったかしら、バグ・シリア!」

可愛くバグ・シリアと言った。
バグ・シリアとは、ルーメの本名らしい…。
リアとのアイコンタクトでわかった事だが…。
そうなるとリアも偽名を俺らに教えた事になる…。
バグ・シリアの表情も険しくなったのを横目で見ながら俺は勝ち誇った顔をしたが、やはりリアへの疑問は消えずに心の奥で密かに考えていた。

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