クラス転移〜オタク共が活躍する世界〜

隙間の隙に

隊長の体調が悪い 妹じゃないから、弟って…

リアがクラスメイト全員に盗み聞きしたかをちゃんと遠回しに聞けたのが、さっきのことだった。
今はリアの隣で昼食をとっている。

「天旡、誰だったと思う?」

リアが俺に誰が盗み聞きしたのか分かった?、と聞いてきた。
だが、リアクションを見ただけでは何とも言えない。
それと、ずっと気になっていたが、俺ら、つまりクラスメイトが連れてこられた理由はこの吸血鬼と、人族との間にできた溝を浅くするためなのか…。それとも、もっと複雑なねじれを作るためなのか…。
答えてくれるとは思っていないが、念のためだ。

「…。まだ、教えるべき時間じゃ無いわ。唯一言うとするならば、これは最後の目標をクリアするために最低限できなければならないことよ」

結局のところ、その最終目標は教えてくれなかった。
いや、それを教えられなくて俺は喜んでいるのかもしれない…。
表向きは知りたそうにしてやる気があるように見せるが、心の奥底では言わないでくれまだそれを知りたく無い、本当は何もしたく無いのだ。
俺は何か見えないものに怯えている。

「……天旡、どうしたの黙り込んでそんなに知りたかったかしら。その目標とやらを…」

昨日までの俺だったら、声をあげて当たり前だ、とでも言えたが今は違う。
精神安定剤があれば5錠だろうと、何錠だろうと飲んでしまうだろう。
それほどに今の俺は望んでいた状況下で何も考えていたくなくなっていた。


時間はとんで、次の日の朝。
今日は京喜達と部屋に閉じ籠っていた。
俺の様子が変だったからか、閉じ籠るのは何故かと最初は質問していたが、俺は面倒なことに巻き込まれやすい体質である事を思い出したのか、今日は一日中一緒にいてくれるらしい。
朝ごはんを食べ始めてすぐに俺の精神を不安定にした張本人がのこのこと俺の部屋目掛けて走ってくる音がした。
何故走る音で分かるのかというと、俺が変態だからでは無く、靴の音が明らかに運動靴のアレとは違うからだ。
クラスごと転移したのに何故外靴を持っているかって、そりゃ、神が気を使ってくれたのさ。
って言っても、今はリアに気を使って欲しいのだがな…。

「天旡!私の所に来ないなんて珍しいわね。体調でもおかしくした?」

俺の精神をすり減らした奴が何を言う…。
とは言っても、リアが一方的に悪いわけではないと分かっている。
昔からの癖でどんな相手だろうと、俺は何故か八方美人を装ってしまうのだ。
だから、本当は聞きたくもないことを聞く羽目になるし、したくもない事を引き受けてしまうのだ。

「いやぁ、…そうだこいつは少し体調が悪いから静かにしてやってくれ」

と、京喜が言ってくれた。
最初は否定から入ったからか、後半の体調が悪いよりも否定ほうが気になったらしく、

「否定しているのか、肯定しているのかはっきりしなさいよ…、吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)が動き出した事を言いたかったのに…」

小声で言って言ったから、リアの近くにいた俺にしか聞こえなかった。
好都合でも不都合でもないが、俺はここで気がついたのだ。
いや、気がついてしまったのだ、窓に何か黒い服を着た人影がいた事に…。
…もし、もし今のリアの発言が本当ならアレは吸血鬼狩りの一員なのかもしれない…。
見ていたのは俺だけらしい。
京喜達は窓に背を向けているし、リアは下を見ながら呟いていたから、俺以外窓の向こうを見ていなかった。
この光景を見て俺って、本当に厄介ごとに恵まれているんだなぁ、と皮肉交じりに厄介ごとを操る神に呟いてみた。



今日はリアとシリアスな話をしたくは無かったが、流石にマズイ状況だという事は今の俺でも分かる
リアと一緒に話したいことがあるといい、京喜と優明には部屋で待っててもらう事にした。
それを聞いたリアは一瞬嬉しそうな顔をした。
このあと話す事は余りにも今のリアにとっては残酷な事であるとは知らずに…。

「で、話は何なの、一様聞くけど、吸血鬼狩りの事かしら」

無駄に大きな声を出し喋り始めるリア。
また盗み聞きされたらどうするんだ、と思いながらも説明に入ろうとする、

「そうなんだが、さっき俺の部屋の窓に黒い服を着た人影が居たんだ…」

が、全てを言い終える前に事は更に深刻になっていた。
いや、逆なのかもしれない俺が気付くのが遅すぎたのだ。

「お嬢様、お話中失礼します。敷地の中にキャンプの痕跡があり、そこには奴らの紋章が有りました」

と、急に入ってきた超ベテラン執事さんが言った。
ついでにその紋章も見せてくれた。
丸の中に槍を持つ人が何かの羽を貫いている、そういった情景を表している紋章だった。
それは、糸ではない何かで縫われていた…。
それを聞いたリアはこれまでに見た事のない真剣な表情をして言った、

「まずは転移者を避難させて、奴らは太陽が一番高くなった時に襲いに来るはずだから…」

まだ逃げる事が出来るはずだ、と言いたげな表情だったが急に絶望に満たされていた。
その目の先には太陽が一番高くなった時に襲いに来るはずだった、吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)がいた。
何故分かるかって、それは無慈悲にも胸ポケットに付いている紋章が俺は吸血鬼狩りだ、と物語っているからだ。

「な、何故貴方が…、こ、ここに…」

リアは恐怖に脅されながらも、震えた声で相手に言った。

「そりゃ〜、あなた方とお話をしに来ただけですよ。そんなに警戒しないでください、別に今すぐ取って食うなどはしませんよ」

と、短い黒髪を持つ仮面を被った男がそういった。
リアはその言葉をまだ信用出来ていないのかまだ警戒を怠っていない。
いや、

「当たり前ですよね、敵のリーダーである私がたった一人で来るとは何か裏があると思いますよね〜」

俺が当たり前だ、と思う前にこいつに言われてしまった、なんか気持ち悪い。
というか、こいつがリーダーなのか、白い仮面に目と口だけを描いてる貧相そうな奴が、か。

「貧相そうとは、心外ですね〜。初対面の方にそこまで思われるとは、いやはや私も落ちぶれたものですね〜。いや、初対面の方に自己紹介をしていないのだから当然の報いなのかもしれませんね〜。私は吸血鬼狩りのリーダーをしている、ルーメ・ブリークです。一様断っておきますが私は女ですよ。ね、お姉ちゃんっ!」

吸血鬼狩りのリーダーである、ルーメ・ブリークが俺と、リアに向かって言い放った。

「お前なんか、お前なんかもう妹とは思ってない!」

リアが右手を目の前で、何かを振り払うかのように斜めに振り下ろした。
さっきまで座っていたリアも興奮の余りいつの間にか立っていた。

「おやおや、怖い姉ですね〜。では、今は弟とでも思っているのですか〜」

さっきの可愛らしくお姉ちゃんっ!って言ったリアが姉であることは事実らしい。
が、こんな感じで返されるとは考えてもいないせいで俺は不覚にもほんの一瞬だが、笑ってしまった。
リアは、俺が笑ったのと、人をおちょくるのが上手い妹…、いや、吸血鬼狩りのリーダーへの怒りを抑えながらも、ルーメに席に着くよう促した。
ここからはただの会話が始まる事を願いながら時間の流れを感じる俺がいた。


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