呪血使いに血の伴侶を。~マイナスからのスタートチート~

創伽夢勾

C8:解放

「俺は理不尽を許さない」

 俺は決意を込め言葉にそれを表した。
 俺は左手を後ろに回し、歪空の指輪に魔力を籠め小さな刃を出現させる。
 そのまま親指の皮膚をその刃で切る。当然そこからは血が出てくる。
 俺はその血を操り、冒険者たちには見えないように自分の体で隠して形状を短剣へと変化させた。そしてそのまま武器化する。
 後ろでそれをしたということはアーノには俺がしたことのすべてが見えたことになる。

「はっ、何言ってんだ、お前お前この状況で勝てると思ってんのかよ」

 男は俺にそう笑って言ってくる。だが俺はそんなことはどうでもいい。今はこいつらを殺すことだけを考える。
 俺は目つきを変えて、体勢を低くし男たちに向かって走る。
 すると、俺の前には盾役であろう、一番レベルの男が俺の目の前に立ちはだかる。

 だが、優先順位を間違えてはいけない。こういう時は後衛を先に倒してしまうに限る。
 俺はまだ治っていない親指の傷から血を盾男の足元へと飛ばす。その行動は男にとって俺が短剣を振ったようにしか見えない。
 男と衝突するまであと3歩。俺はそこで言葉を紡ぐ。

血ノ鎖ブラッドチェイン

 俺の言葉と同時に男の足元に血の鎖が出来上がる。
 その鎖は俺の意志に従うように男の足に巻き付く。あまり血を使用してないせいか鎖の長さは短い。

「なっ!?」

 男は突然の出来事に対応しきれず、体勢を崩す。
 俺はそのまま、男の横を駆け抜ける。向かう先は後衛の男。
 すると、横から槍の一突きが飛んでくる。
 体を反らすが、矛先が俺のお腹を掠る。ローブの位置だったらまだ何とかなったんだろうけど。俺のお腹にはしっかりと切り傷が出来ていた。その傷口から少し血が漏れ出す。
 槍の男はそのまま俺と魔法使いの間に陣取る。
 さっきの奴は、まだ鎖にとらわれているようだ。

「何なんだお前は! なんだそのスキルは!」

 魔法使いより後ろの内から商人の男が俺に怒声を飛ばす。

「お前……」

 槍の男が何かを言おうとしたのと同時に俺は走り出す。
 残りの血の残量は240と言ったところか。ぎりぎり持つか?
 俺は短剣を槍の男に向かって投げつける。

『ウィンドシール』

 それと同時に魔法使いの声が聞こえ、俺と槍男の前に風の壁が出来る。血の短剣はそれに阻まれて、軌道を反らして魔法使い手前の地面へと突き刺さる。
 腹部の傷はもう再生してる。
 槍相手に短い武器では対応できない。
 俺は親指の傷から大量の血を取り出す。親指からあふれる血は俺の周りをぐるぐると回り始める。

 槍の男は隙を見たと言わんばかりに、俺に突進してくる。そして俺の手に武器は出来上がった。
 やろとこの槍を紙一重で横に躱し、俺は前に進みながら体を一回転させる。それは俺と槍男がすれ違ったようにも見える。

 ごとんっ

 そんな音が周りに聞こえる。
 商人の顔を見るとその顔は驚愕の表情だった。
 地面に落ちたのは槍男の首。俺の手にあるの俺の身の丈より大きい鎌。その鎌は、どす黒い血のように赤黒い。
 それを見た魔法使いは、杖の先端に炎の玉を作り始めた。

地槍チソウ

 だが、その魔法が出来上がるのを待つほど俺は優しくはない。
 俺は地面に刺さった短剣を血性変化を解き、血契魔法に使用した。槍男とすれ違い、少し魔法使いまで近づいたおかげで、血性変化の影響範囲内に入ることが出来た。
 その血は地面に染み込み、魔法使いの足元から土の槍を出現させた。地面から出てきた槍は魔法使いの杖を持つ腕を貫いた。
 魔法使いの口から苦悶の声が漏れる。

「てめぇ!」
「ハク!」

 後ろから、拘束されていた男とアーノの声が聞こえる。
 俺は鎌を横にそのまま振り返る。鎌の切っ先は男の首を狙う。
 だがその攻撃は左手に持つ盾によって防がれる。それと同時に剣が俺に迫ってくる。鎌を受け止められている俺に防ぐ手段はなかった。だが、最低限で済ませようと、体を横に反らす。

 ガキンッ

 すると、攻撃を食らうと思っていた俺の目の前には大きな大剣があった。

「すまんな、体が勝手に動いちまった」

 その声は横から聞こえてきた。もちろん声の主はアーノだ。
 腕一本ぐらいは覚悟してたんだがな。

「チッ、邪魔な野郎が!」

 男は一歩下がり、俺たちから距離を取る。
 状況から見て使えない商人と怪我を負った魔法使いが一人。その状態で2対1はきついと判断したのだろうか。

「ハク。お前はあっちに行け。こいつは俺がやる」
「いいのか?」
「今更そんなこと言うなって、旅は道、連れ世は情けだ」

 まさか、そんな言葉をこっちの世界でも聞くことになるとは思っていなかった俺は驚いた顔をしているだろう。
 だがそれと同時に嬉しさがこみあげてくる。

「……わかった。こっちは任せた」
「あぁ、任された」

 俺は体を反転させて、商人の元へと走り出す。

「さぁ、任されたからには、しっかりやらないとな」

 アーノは大剣を構えなおし、男へと走り出した。



 俺が向かう先には土の槍によって腕を貫かれ、武器を失くし身動きも取れない魔法使いと絶賛恐怖の顔を浮かべている商人がいた。

「くっそ!」

 魔法使いの男は左手を俺に向けて『ファイアーボール』を連呼してその炎の玉を飛ばしてくる。
 俺はそれを避け、鎌で受け止め、切り裂き確実に距離を縮めていく。
 魔法使いの男は今だに左手を向けているが、その先には何もない。男が魔法名をつぶやいても何も出ない。魔力が尽きたのだ。
 それと同時に俺は魔法使いの目の前まで来ていた。

「た、頼む。い、命だけは……」
「お前が、いや、お前たちが今やろうとしていたことを考えて物を言えよ? 殺されても文句は言えないよな?」
「そ、それは……。でも頼む。か、金ならいくらでも……」
「もういい。もう喋らないでくれ。イライラする」

 俺はその言葉を最後に鎌を下から上へと斬り上げた。
 その一部始終を見ていた商人は顔を歪める。
 俺は一度後ろを見た。するとそこには俺に向かって親指を立てたアーノがいた。その足元には膝から崩れた縦の男がいた。どうやらアーノが勝ったようだ。
 そしてあと残るはこいつだけだ。
 俺が商人に目を向ける。

「ひぃっ」

 商人は尻餅をつき、ずるずると後ろに下がる。

「何なんだその眼は! 何なんだそのスキルは! 何なんだおま……えは……」

 俺はその言葉をきちんと最後まで聞くことなく、手に持つ鎌を横に振るった。
 残りの血の残量は80だった。この戦闘でレベルも上がり、ついに23まで上がった。
 俺は商人の足元に転がる契約書を拾う。そしてそれをそのまま上空へと放り投げる。
 だがそれは紙だ。契約書はひらひらと宙に浮いている。
 俺はその紙を鎌を縦に一閃。真っ二つに切り裂いた。
 そのまま俺はアーノと女の子が待つ場所まで足を進める。 

「やったな。ハク」
「あぁ」

 俺は手をあげるアーノの手に自分の手を強く打ち付けた。

 パチンッ

 いい音が鳴った。とても気持ちのいいハイタッチだ。

 そして俺はアーノの横を抜け女の子の前に立つ。

「じっとしててくれよ」

 俺は女の子にそう言うと鎌を下から上へと切り上げる。
 その途中には金属同士がぶつかったような音が聞こえる。
 そう。俺が狙ったのはこの子の枷になっていた、大きな首輪だ。その首輪は音を立てて地面へと転がった。
 女の子は突然のことに驚きながらも自分の首元を、首輪がないことを確かめるように触る。

 俺は、女の子強く抱きしめた。自分の感情お抑えられなかったのだ。

「もう大丈夫だ。もう君を縛るものはない。だから安心してくれ」

 俺は抱きしめながら女の子にそう言った。
 それを聞いた女の子から俺の背中に腕が回ってくる。そしてその腕は俺をやさしく抱きしめた。



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