呪血使いに血の伴侶を。~マイナスからのスタートチート~
C0:プロローグ~転生~
俺事、暁白夜は普通とは違う。何が違うのか、それは血だ。
その血は触れた物を傷つけ、一度口に含めば激痛が体を襲うことになる。
俺はその様子を間近で見ている。その相手は父親だ。
父親が怪我した俺の指を舐め、血を口に含んだのだ。
それが原因で、父親は病院に搬送され、俺の血は調べられた。
それでも異常反応は出なかった。
今の俺には両親はいない。母親は俺を生んだときに死に、父親は俺の血のことを知り、孤児院に俺を置き去っていった。
だが、そんなことはどうでもよかった。
孤児院でも俺は阻害され、いつも一人。それでも何とか生きて、このつまらない人生を過ごしている。
俺は理不尽なことが嫌いだ。理にかなっていることが好きだ。それでも、うまく事は運ばれない。
小学校、中学校を卒業し今では高校3年生。もう18歳になり、孤児院も卒園してバイトしながらのアパート暮らしだ。
今の高校でも、俺のことは知られている。だから俺に近づく奴なんていない。ただ一人を除いて。
化け物とまで呼ばれた俺に近づいてきたのは雨音瑞樹と言う違うクラスの女の子だ。
彼女は俺の血のことを知らず、周りから疎外されていた俺を心配し、世話をしようとしてくれた。
周りの言うことも聞かず、ただ俺の為に時間を使ってくれた。話してくれた。笑ってくれた。その笑顔が俺の救いになっていた。
でも、俺はまた傷つけてしまった。大切にしよう、そう思えたものを俺はまた傷つけ、失くしたのだ。
俺が不注意で手に切り傷を負った。それを治療しようと彼女は俺の手を取った。
掌に傷があるその手に触れたのだ。
俺の血に触れた彼女の手には切り傷ができていた。
俺は走って逃げだした。学校から抜け出し、アパートに戻った。
俺の手の傷は、その次の日には治っていた。
それを他の人にばれないよう、傷のない手に包帯を巻いた。
学校に行き彼女の手を見ると、そこには包帯が巻かれていた。彼女は俺の顔を見ると、顔を伏せた。
それからは学校に行っても彼女と会話を交わすことは無く、ただただ、何もない日が過ぎて行った。
それから少し経ち、休日のバイトの帰りだ。
家に帰るその道の反対側、そこで俺は私服の彼女が両手に荷物を持ち歩いている姿が見えた。
手の包帯消え、どうやらなんともなかったようだ。
俺は安心し、帰路に就こうとしたその時。俺の視界に包丁を持った男が見えた。
その男が包丁を持って向かう先は、荷物を両手に持った彼女の元だ。
俺は車が走る道路に飛び出た。車は突然の出来事に急ブレーキを踏む。そして俺に向けてクラクションが鳴らす。
俺はそれを無視して2車線を突っ切る。
男は包丁を突き出し、女の子は俺の方を見ていた。
俺はそんな彼女を突き飛ばした。
彼女は突き飛ばされた勢いで、尻餅をつく。
そして、さっき彼女がいた位置には俺がいた。
男の手に持つ包丁は吸い込まれるように俺の腹部に突き刺さった。
俺の体からは、普通ではありえないほどの血を吹き出し、その血は男に降りかかる。
女の子は叫び声をあげ、俺を見ると「なんで?」と口を動かした。
その声は俺には届かず。俺はその口の動きで、何を言っているのかを理解した。
俺は倒れ男の方を見ると、男は俺の血浴び、体には無数の傷を残し死んでいた。
俺はそんな男を見て、力を振り絞り最後の言葉を口にした。
「ざ…まぁ…みろ」
このとき俺はこの理不尽な世の中に一矢報いたような気がした。
そのまま俺の意識は暗く、底の見えない闇に沈んでいった。
深く深く沈んでいく闇の中、俺に喋りかけてくる声が聞こえた。
『汝、我と同じ血を持つものよ、汝がこんなところで死ぬのはもったいない』
その声は俺にそう言った。
同じ血とはきっとこの呪われた血のことだ。
『汝には、生きる覚悟があるか? この理不尽な世界を』
そうだ、この世は理不尽なことがたくさんだ。
俺はもう理不尽な目に合うのは嫌だ。
「あるさ、俺は理不尽に負けない。負けたくない」
『ふっ、その生きがい確かに受け取った。汝はさして我に何を望む?』
「俺は、この理不尽を跳ね除けるだけの力がほしい。今度こそ、何も手放さなくてもいいように」
俺は、ありったけの気持ちをぶつけた。その言葉に帰ってきたのは笑い声だった。
『いいね。面白いよ君!』
突然、謎の声の口調が変わる。
それと同時に沈んでいた体の背中に何かが触れた。それは地面と呼べるものだった。
いつの間にか周りは黒ではなく白く。ただ、どこを見渡しても何もない。
たん。
その時、何かが地面に触れた音が聞こえる。その方角を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
「君、名前は?」
その女性は座っている俺に前屈みになり、腰に手を置き聞いてきた。
「……暁白夜」
俺は驚きながらもなんとか自分の名前を口にした。
「そう、白夜君ね。私の名前はノア。ノア・ブラット・ドミネートよ。気軽にノアでいいわ。よろしくね」
「あ、あぁ」
俺は状況が理解できずに頷いた。
「それじゃあ、あんな仰々しく話すのも疲れたから、この口調で行くけどいいわよね?」
「だ、大丈夫だ」
俺はさっきとのギャップに驚きながらも、ノアのきれいな姿、その赤髪に見惚れていた。
「なになに? そんなにじろじろ私を見て、惚れた?」
俺は、ぷいっと違う方向を見た。
「あっ、こら! こっち見なさい。もういじらないから」
何とも話しにくい相手である。見た目とのギャップもデカい。
「それじゃ、説明を始めるわね、私から君にあげるのは力とその技術。その力とは、君の忌々しいと思っている血を操る血からよ」
「!?」
俺はすぐにノアの方向に顔を向けた。
「ようやく聞く気になったわね。それじゃ、まずはこれを見て頂戴」
ノアは自分の親指を歯で噛み皮膚を傷つける。
その傷のついた親指から、血が流れる。その血は指を伝い、そのまま地面へと落ちる……はずだった。
その血は空中で停止した。垂れる血は浮き上がり、ノアの手の上まで上り血の球体になった。
「これが、血液操作」
俺はその状況を唾を呑んで見続ける。
「これはこんなこともできるわ」
そのある程度の量ある血は、ぐにゃっと形を変え、それは短剣へと姿を変えた。
「でも、これで物は切れないわ。この血には人を傷つける力はあるから、人にぶつければ、切り傷ぐらいなら付くけられるけどね。そしてこれを武器として使えるようにする力がこれよ」
彼女が手に持つ血の短剣はその血の色を黒く滲ませた。
「これが血性変化。今はこの血の短剣に硬化と斬属性の性質を付けたわ。これで、物を切れるようになる。これは他にも使い方が多いわ。まぁあとの使い道は自分で考えなさい」
そして、ノアは血の短剣の性質を戻し形を解いた。
「あとはこれね血契魔法。魔法は普通。魔力を消費して使うものだけど、これはすべて血を消費する」
「ちょっと、まて」
俺はここで初めて口をはさんだ。
「俺の世界は魔法なんて言う概念はないんだが」
「あぁ、いい忘れてたけど、あなたがこれから行くのは異世界。あなたが生きた場所とは違う場所よ。私がいた世界ね。具体的に言えば、魔物がいたり。魔法なんて言う概念がある場所ね」
「は?」
「さぁ、説明を続けるわ」
ノアは俺の言葉を遮り、話をつづけた。
血契魔法はその魔法によって血の消費量が変わること。そしてあらゆる属性に縛られないこと。オリジナルの属性魔法も作り出せること。それなりの属性の特徴と性質、その知識を持っていること。
そしてある程度のことを話し終えたノアは俺に向かって、血で作った短剣を渡した。
「これから君に、私の持ってる技術を渡すわ。戦闘の技術。あらゆる武器を使う技術。この血の力が使えれば、あらゆる武器で、臨機応変に戦えるわ。その中でも君の間浴びたいものを率先的に教えていくわ。剣術・短剣術。それと武器のない場合も考えて闘拳術・蹴撃術も。長い武器も遠距離武器も使えるといいわね。まぁ長くなると思うけど。あなたの為よ付き合ってね?」
そう言って、ノアは俺に向かって切り込んできた。
この世界では寝る必要も食事をとる必要もない。傷も残らないし死ぬこともない。ただ痛いのは痛いし体力は消耗するため休憩をはさみつつ、ノアから戦闘の技術を盗み取る気持ちで戦う。
教え方は実践方式、見て、使って、受けて感覚で覚えるような教え方。
血契魔法の使い方もちょくちょく教えてもらいながら、この長くも短い、楽しい日々を過ごした。
だがある日突然、ノアが俺にこういった。
「今日で終わりね。君も十分強くなったわ」
「え?」
俺はその一文字しか発することができなかった。
俺が行く世界の説明はある程度受けている。ステータスなんてものが存在する、俺の世界で言うゲームみたいなものだと。
そしてその中でも俺はきっと特別。いわゆるチート的存在になるであろうことも。
でも俺はこのノアと他愛のない話をしながら、過ごすこの日々に思い入れが出来ていた。
「私も君と過ごした時間は楽しかったわ。そうね、最後に私の本当の姿を見せてあげる」
その言葉と同時にノアの姿が変わる。きれいな赤い髪は変わらず。その身長、顔つきが変わる。
身長は177cmの俺と同じぐらいだったそれが、160cm程度まで低くなり、顔つきは大人の女性から可愛い女の子へ。
「どう……かな? 君からしたら前の方が好みかな?」
「いや、そんなことない。こっちのノアもきれいでかわいい」
俺は思っていたことをすらっと口に出してしまった。
それを聞いたノアの顔が赤く染まる。
「もう、冗談がうまいなぁ」
ここまで来てはやけくそだ。
「冗談で俺はこんなことは言わない。きれいだ。ノア」
「や、やめてよね。もう、別れにくくなるじゃない」
ほんとは別れたくない。けどそれは口に出せない。それはノアの思いを踏みにじることになると分かっているからだ。
「それじゃ……。能力の譲渡と私からのプレゼントだよ!」
すると、ノアは手に持った赤い球を口に含み。自分の唇を背伸びしながら俺の唇に宛がった。
「ん!?」
ノアの口から俺の口へ赤い球が渡る。
俺がそれを飲み込むと、体に力が湧いてくるのが分かった。これが力なのだと。
そして、唇を離そうとした俺をノアの舌が止める。それは舌を触れ合わせる深いキス。
ノアはそれを十分堪能すると、ようやく唇を離した。その顔は赤く染まり、目は蕩けていた。
「好きだったわ、白夜。いいえ、これからはあなたはハクよ。ハク・ブラット・ドミネート。そう名乗りなさい」
「あ、あぁ」
それはノアからの最後の願い。そう思えた俺は素直に頷いた。
「この力を十分に扱うには、パートナーが必要よ。異世界に行ったら探しなさい。私のことは気にしなくてもいいわ。そもそも好き合って、付き合っているわけでもないしね」
「わかってる。その説明何度目だよ……」
「でも、パートナーが男は許さないわ! そ、そのす、好きになった人が男の人の首筋に唇を当てるところなんて見たくないもの」
「だ、誰が男なんかにそんなことするか! 俺はノーマルだ!」
「そうならいいわ。いっぱい女の子を捕まえるハーレム人生を期待するわ」
「はぁ~、だがもし、ハーレムを作るならノア。お前もいつか入れて見せる」
「ふふ、期待せずに待ってる。あっそろそろ時間ね」
それは俺が転生する時間。それは赤い球を呑んだときからスタートしていた。
「転生した君の体は人ではない人だわ。だけど使いやすいと思う。さっき私が見せたようなこともできるわ。そういう種族よ。そして、あなたが着く場所には普通じゃ手に入らないような、冒険に役立つアイテムが何個かあるはずよ。有効に使いなさい」
俺はノアの顔をまっすぐ見る。ノアも俺をまっすぐ見る。
ノアの目には涙がたまっていた。
「なんだ、ノア泣いてるのか?」
「そういうあなたこそ、目に涙がたまってるわよ」
俺はこの時、何年振りかわからない涙を流した。
そしてその涙を拭い、最後になるであろう。言葉を紡いだ。
「好きだよ、ノア。必ず迎えに来る」
「えぇ私も好きよ、ハク。ふふっその時は私もハーレムに入れてね」
俺たちはお互いに笑顔を向け、そして俺はこの次元の狭間から消え、異世界に旅立った。
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