二週目村人は最強魔術師!?~元村人の英雄譚~

雪桜 尚

元村人、入学試験を受ける③

「ここからが本気の戦いですよ(戦いよ)」

部屋がピンッと張り詰めた空気に支配される。メアリ先生に隙は全く見当たらない。
先に動けばメアリ先生の大鎌に切り裂かれてしまうだろう。
しかし、俺はいずれできるであろう一瞬の隙を探し続ける。それが勝利への最短ルートだから。
「やはりあなたは天才ですよ。隙が見当たらない。でも、このスピードについてこれるかしら?」

ヒュンッ

かすかに空気を切り裂く音がして、メアリ先生が姿を消す。
俺は、思い切り地面を蹴って、横に飛んだ。さっき俺のいた所には大鎌が地面不覚に突き刺さっていた。
一瞬でも反応が遅ければ切り裂かれていただろう。
「さすが先生ですね。一瞬でも遅かったらやられていました」
「いえいえ。本気で切りかかったんですがね、躱されてしまいましたか……」
「今度はこっちから行きますよ!神纏・六式」
神纏のギアを限界まで上げ、極氷を右上からスピードも刀に乗せて全力で振り下ろす。

ガギィィィィィン

鈍い音がして、極氷の動きが中腹で止まる。
「なか…なかやりますね……とても重い攻撃、これを受け止め続けるのはきついわ」
俺は、大きく後方に飛びのきメアリ先生と距離を取る。
「先生、さすがに僕もこのままでは力を加減できません。なので、次の一撃で最後にしませんか?」
「ええ、いいですよ。私もこれ以上顕現武装を持続するのは厳しいですから…」
俺は、左の腰元に極氷を構える。メアリ先生は、鎌の先を右下に降ろすような形で構えている。
部屋の空気は先ほど以上に張り詰め、物音ひとつしない静寂に包まれる。
そのまま、一瞬のような、それでいて永遠のような時が流れる。
突如として、2人の間を一陣の風が吹き抜け、汗ばんだ2人の頬を撫でていく。
それを合図に、正真正銘、本気の戦いが幕を開けた。
「魔装・常闇ブラックナイト殺人鬼マードウェイ
「神纏一閃・壊滅」
お互いの刃が徐々に近づいて行き、刃が接触し火花が散る。
「俺の全力であんたを倒す!!」
「これで終わりよ!時間操作タイム・コントロール・減速」
俺の動きが目に見えて遅くなり、とてつもないスピードで大鎌が俺の横腹に近いてくる。
「神纏・零式!!」
メアリ先生は目を丸く見開き、呆然とする。数瞬後に大鎌が空を切った。
「絶龍王・一閃!!」
漆黒の閃光が走り、メアリ先生の体に極氷が触れる。

ズバァンッ

俺は極氷を左の腰元から再度振り抜く。メアリ先生の顕現武装はとけ、ジャックが姿をあらわす。
「やられたわ……まさか受験生2人に負けるなんて!!」
「ユーリにも負けたんですか?」
「よく分かったわね。あの子にはスピードで完敗し、あなたにはすべてで完敗した」
「完敗だなんてそんな、俺も魔力は残ってませんし、さっきのあれを躱されてたら、負けてましたよ」
「そう言ってもらえると助かるわ」
「では俺はもう行きますね。でもその前に、広範囲回復術エリアヒール
ジャックとメアリ先生に回復魔法をかけて部屋を出る。

部屋から出ると、全身の力が抜け、その場に倒れこんでしまった。
「シード!!大丈夫!?」
「大丈夫だ。ちょっと魔力切れを起こしただけだから……」
俺は、力を振り絞ってユーリの頭を撫でる。
「でもっ全身ボロボロだよ!!?」
「これは汚れてるだけだから」
ユーリの瞳からは、大粒の涙が一粒、二粒とこぼれ落ちポロポロととめどなく溢れてくる。
「おっおい、泣くなよユーリ。俺は大丈夫だから」
「だって〜〜」
ユーリは、大丈夫だと言っても聞かず、泣き続けけている。
「笑えユーリ。俺は、お前の笑ってる顔が一番好きだからさ」
ぽりぽりとおそらく真っ赤になっているであろう頬を掻きながらいった。
さすがにこんなキザなことは言ったことないので恥ずかしいったらない。
しかし、俺は目は絶対に逸らさない。
「わかった。シードがそう言うんだったらもう泣かないよ」
ニコッと愛らしい笑顔を作ってユーリはそう言った。

「あのー、お二人さん?いい感じのところ申し訳ないんだけど、人が見てるよ?」
イリーナがおずおずと言ってきた。
女子勢はキャーキャーと黄色い悲鳴を試験会場に響かせる。
男子勢は、殺気のこもった視線でこちらを否、俺を睨んでいる。

それから俺たちが、試験会場を早急に後にしたのは言うまでもない。


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