存在定義という神スキルが最強すぎて、異世界がイージー過ぎる。

つうばく

第1話 「テンプレ……じゃなかったけど、美少女と出会えた」

「大……で……! し………て……さ…!」

「…………んん、んぅー」

「大丈夫ですか!しっかりしてください!」

「うっ…………うっ……って、うわぁぁああ!?」

「うわっ!?」

 ゆっくりと目を開けた先は、何か大きな二つの膨らみだった。
 その膨らみに俺の顔は挟まれていた。

 ……これって。

「………きゃぁぁぁあああああっっっ!!」

「うわっ!」

 少女? が叫んだ声で驚き俺は、誤解だ、と言おうと思い手を動かしたのだが、その手は運悪くこの少女のパンツの中に入ってしまった。

 ……最悪だ。

 俺は恐る恐ると少女の顔を見た。
 少女は赤面して動いていなかった、もとい固まっていた。

「やってしまった」

 マジで。
 異世界に来て初っ端でこんなことあるか?

 テンプレであれば、初めに会う少女って、貴族とかそいう偉い人なんだよなぁ。
 俺、殺されるかもなぁ。

 ……いや、状況を見ろ。
 もし、この少女が貴族であれば護衛がついてるはずだ。
 だが、この少女は一人。

 見たところ、ここは森のようだし……いや、森だからこそ一人なのか。
 森には……ちょっとした用事があって入ったのだろう。
 ちょっとした用事だ。
 女子が言う花を摘みに……なんちゃらだろう。

「ん、んんぅー」

 少女の目が開く。
 どうやら意識が戻ったようだ。

「さっきはすみません。俺は……えっと……旅をしている者です。お怪我はありませんか?」

 これで、貴族の時の対処も出来てるだろう。
 そっと、少女に手を差し伸べす。
 だが、少女はその手を取らない。

 下げていた頭を上げると、そこにはおもいっきり怯えている顔をした少女が。
 ……もしかしてだけど、俺の所為か。

「あのー。おーい」

「…………………」

 返事が無い。

「すみませーん」

「あっ、ひゃい!」

 あっ、噛んだ。
 この子、どれだけ怯えてるんだ?

「大丈夫だった?」

「は、はいです!」

「そんなにかしこまらなくても良いんだよ?」

「い、いえっ! か、かしこまってなど!」

 ……そこまで印象悪かっただろうか。
 完全に、怖がられている。

「あのー、ここに旅で来てて、迷子になっちゃいまして……近くの町まで道、教えてくれませんか?」

「あっ。旅人だったのですか。……だから、からか」

「うん? どうかしたのですか?」

「い、いえっ! なんでもありましぇん!」

「あっ、噛んだ」

「ぁ、ぁぁ……くぅぅ〜」

 俺の発言が効いてしまったようだ。
 顔を赤らめて、膝を抱えるように座ってしまった。

「ごめん、ごめん」

「ぅっ。ううううう」

 こいう場合どうすれば良いんだ?
 ……あぁ、俺がリア充だったら良かったのに!
 女子との付き合いがあまり無かった俺には全く分からない。

「……可愛かったよ」

「えっ」

「噛んだのも。ていうか普通の声も。だから、さぁ。そんなに落ち込まなくても良いと思うよ」

 ……行った後だと良くわかる。

 これ、くっそ恥ずかしい。
 やっべ、俺は何してんだ!
 ナンパ師かよ!

「あ、ありがとうございます」

「お、おう」

 素直に言われると何か照れる。

「道」

「えっ?」

「道を知りたいんですよね?」

「あっ、はい!」

「ついてきてください」

 そう言い、少女はもたれ掛かっていた木を支えにして、立ち上がった。

「向こうに馬車があるので……それに近くの場所に行くなら、一緒ですし」

「あ、ありがとうございます!」

 俺はおもいっきり頭を下げた。
 言うなら直角ぐらい。

「ふふふ。面白い方ですね」

「あ、どうも」

 褒められたのだろうか。
 ……まっ、ここは褒められたことにしときましょうか。

「では、行きましょうか」

「はい!」



 ──── ガサガサササッッッ




 そう、俺が応えた瞬間、草むらが揺れた。
 その音に合わせるように、少女は俺の腕を持って離れた所まで飛んだ。
 正確にはジャンプでなのだが。

 ……どういう足腰をしているのだろう、この子は。

 そういった疑問がいくつも浮かんで来たが、それは今、この瞬間全てかき消さられた。

 草むらから、大きな熊、それも何か赤いものをまとっている熊が出てきたのだ。
 熊の爪は通常よりも伸びきり、鋭い歯を持ち、まさに全身でナイフを持っているようだった。

「私の後ろまで来てください!」

「えっ」

「早く!」

「あっ、はい!」

 俺は急いで少女の後ろに隠れた。

 ……この少女はどうするのだ?
 まさか、この熊と戦うのか?

「あいつは、災害級の魔物です! 手を振り払っただけでその空間は切れます! 絶対に私の後ろから出ないでください!」

 待て待て待てっ。

 手を振り払っただけで空間が切れるだと。
 ………死亡確定だろ。

 そんなのを相手にして大丈夫なのか!
 だが、俺には見守ることしか……。

「はぁぁっ! あぁあ!」

 少女は腰に付けていた鞘から剣を取り出し、熊の後ろに回り込み、斬っていった。
 熊は、ギュワァァァアアッッ!! と鳴き叫ぶだけ

 よし!
 いけいけ!

 少女は最後の一撃を決めるように、熊の前にいった。

 そして、なんと言っているのかは聞こえなかったが、多分、魔法らしきものを呪文をしたのだろう。
 少女の持っている剣が黄色の光に包まれた。

「終わりです!」

 そう少女が叫んだ。

 そして、剣を振り下ろし、熊に触れる瞬間。
 大きな爆発が起きた。

 その爆発によって、俺と少女は少し離れた木の根元まで、吹っ飛ばされた。

 幸い、俺はずっと警戒態勢をとっていたのと爆発した場所から離れていたため、大した怪我などなかった。
 だが、少女は違った。

 少女の目の前で爆発したのだ。
 その影響をおもいっきり受けて吹っ飛ばされたのだ。
 木に打ち付けられ、血を吐いたのか地面は少量だが血で染まっていた。
 そして、全身ボロボロになった少女は今にも戦える、などという状況でないことは、俺でもはっきりと分かった。

「………に……逃げ、て」

 どうする。

 この少女を置いて逃げるのか。

 いや、もしくは戦う?

 俺にはそんな力がないぞ。

 だが、ここで逃げることはこの少女を見殺しにするということ。

 ……俺に戦う力があるのか?

「………いや、ある」

 そうだ。
 完全に忘れていた。

 あのよくわからん声の主が言っていただろう。

 俺には勇者よりも強くなれるスキルがあると。

 だが、どうするばスキルが出せるのだ。
 そもそも、俺のスキルはなんなのだ?

 いいや。ここは考えている場合ではない。

 とにかく、こいつを倒すということだけ、意識するのだ。

 俺はゆっくりと歩いてくる熊に向かっておもいっきり叫んだ。

「死ねぇぇぇぇ!!」

 その一言とともに、熊は弾けた。

 そう、弾けた、のだ。
 空中には熊の血が沢山舞う。


 ……俺が殺したのだ。


 俺がスキル? か何かは分からないが、それを使って倒したのだ。

「って、今はそれよりもあの少女だ!」

 俺はそう叫び、急いで少女の元まで行く。
 少女は意識がなく、身体中からは血が。

「俺のスキルって俺が使うから万能なんだよなぁ。これぐらい治せるよなぁ」

 頼む。

 助けてくれよ、俺のスキル!!

「治れぇぇぇぇ!!」

 さっきの言葉よりも力強く俺は叫ぶ。

 すると、少女の身体は光り輝いた。

 その輝きを俺は、最後までは見ることができなかった。

 俺はいつの間にか意識を失っていたのだ。











「うっ、んんん!?」

 なんだ、この俺の下の感触は。
 とてもプニプニして、スベスベしている。

 まさか。

 俺はそっと上を向いた。
 すると、そこには少女の顔があった。

「起きられましたか」

「……どういう状況?」

「膝枕の状況ですが?」

 なんだ。
 俺がおかしいのか。

 ……ってそんなわけあるかー!

「ど、どうして膝枕なんか」

「嫌、でしたか?」

 うぉー!
 なんだ、その目は!

 可愛い、可愛い過ぎる!

「全然。むしろ、ちょうー嬉しい!」

「なら、良かったです」

 はぁー。

 って、大事なことを忘れていた。

 俺は起き上がって、少女の前に座る。

「怪我は大丈夫なのか?」

 あれほどの重症だったのだ。
 見る限りないのだが、どこか、傷が残ってたりしては……。

「大丈夫ですよ。あなたのお陰で、私の傷は全て消えました」

 少女は立ち上がり「ほらね」と言いクルッと回ってみせる。

「ありがとうござます! 災害級を倒して、私を助けていただき」

「良いよ、良いよ。ほら、頭を上げて」

「わかりました」

 少女が下げていた頭を上げる。

「二度目ですが、馬車まで行きましょうか」

「そうですね」

 俺はそう応えて、少女と共に歩き出した。




 歩くこと数十分。

 俺と少女 ──── いや、クリスティーナ・ノーヴァ(歩いている時に聞いた)は、さっきのことについて色々と話しながら馬車があるというところまで行った。

 話した内容は、先程の誤解ときや自分のことについて。

 クリスティーナ・ノーヴァ……長いのでクリスと呼ぶが(いや、そう呼べと言われたからだが)クリスはあまり自分の事を話したがらなかった。
 特に、馬車で来た理由など。

 まぁ、それは良いだろう。
 本人が話したがらなかったので俺も深くは聞いていないからな。

 まあ、それでも色々と打ち解けたからか、結構仲良くなった。

「もうすぐです、シン様」

「そうか。距離的には遠かったけど、感覚的には近かったように感じたな」

 今の会話だけで、分からないところがいくつもあるだろう。
 実際のところ、俺も良くわかっていない。

 俺が名前を言ったところ、何故か様付けになる。
 自分の事をクリスと呼べ。
 敬語を使わないでくれ。
 など。

 その他もろもろを要求され、挙句の果てには呑まないと馬車に乗せないと。

 そう言われると断れきれず、という感じなのだ。

「開けた場所に出ましたね」

「だな」

 やっと森を抜けれた。
 本当に長かったなぁ。

「ありました! あれが私が乗ってきた馬車です!」

 クリスが指差す方向には、まるで、おとぎ話に出てくる王女様が乗っているような、デカデカとした馬車があった。
 その隣には人が数名。
 その人達はこちらに気付くや、早々にこちらに駆けてきた。

「すみません、遅くなってしまいました」

 そうクリスが言ったのだが、彼等にはその言葉が聞こえていないようだった。
 そして、俺等の目の前に止まると、腰からある物体 ─── 槍や剣などの武器を取り出した。

「貴様、お嬢様から離れろ!」

「さもないと、刺し殺すぞ!」

 そう、武装をした彼等は言った。

 ……ヤバいんじゃね、これって。

 俺、武装何も持っていないし一文無しだし。

 ……死んだな。

「やめなさい! この方は森で私を災害級の魔物から助けてくれた方です。決して悪い方ではありません!」

「ですが! 森にいたとなると、敵の可能性が!」

「命令です! 早くその武装を片付けなさい!」

「…………かしこまりました」

 そうクリスの命令を聞き、彼等は武装を片付けた。
 ……まさかの、そいうこと?

「すみません、シン様。見苦しいものを見せてしまって」

「大丈夫だから。早く彼等を許してやって」

「ですが……」

「俺のことは良いから」

「……………わかりました」

「貴方達、今回は心優しいシン様が許してくださったから、許しますが、以後このようなことは絶対にしないでくださいね」

「……………承知しました」

 なにか悪いことをした気がする。

「では、乗りましょうか。さぁ、行きましょう」

「お、ぉう」

 馬車は向いあう感じで椅子が配置されており、必然的に向いあう形になった ──








 ── わけではなく、何故か俺の隣にクリスは座った。

「あの〜。クリス?」

「はい、どうかされましたか、シン様?」

「いえ、なんというか。別に隣ではなくとも良いのではと思っただけです」

「むぅ〜。私が隣なのは嫌なのですか?」

 そう、上目遣いで言ってきた。
 なんだ、この小動物は。
 可愛い。可愛過ぎる。

「全くもって、滅相でもございません」

「よろしい」

 ……何か疲れてきた。

「膝枕でもしましょうか?」

「人の心を読むな!」

「では、抱きましょうか?」

「だから、違うっての!」

「では、お顔を私の……む……胸で包みましょうかっ!!」

「だから違うっての!!」

「そうでしたか……」

 何故しょぼくれるのだ。
 俺が悪いみたいに思うだろう。

 ここは、話題を変える方向で……。

「そう言えば、クリスって貴族だったんだね」

「なんで、それを!?」

「いや、だって、こんな良い馬車乗ってるし、護衛の人からはお嬢様って言われてたし、そもそも貴族でもないと馬車なんか乗らないだろ?」

「そうですね。流石にバレますか」

「うん。バレバレ」

「そう言われると少し悔しいですね」

 そいうものなのだろうか。

「では、もう私の事全て話しましょうか」

「いいのか?」

 あんなに隠そうとしていたのに。

「大丈夫です。貴族ということ以上のことなんて殆どないですから」

 そうして、俺はここから一番近い場所に行くまでの馬車の乗車時間、クリスの話を聞くこととなった。
 貴族ということ以上の驚きはなかったが、クリスの事以外も話してくれて色々と知れたことがあった。

 良い収穫となったな。

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