魔法少女 ゆうな・はーと!
後編
次の日。
優菜は後ろの方の席からある人を見つめていた。
一人は篝、一人は矢代。
それぞれ二人の席はバラバラとなっており、二人の席の周りの印象も別々だ。後者の周りには女性がいっぱいいるのに対し、前者には誰も居ない。篝は一人を貫いているようだった。
それを後ろから見ている優菜。チェックをしていると言ってもいい。
二人の様子を見ながら、優菜は昨日のことを思い出していた。
篝に一方的に蹂躙される矢代健吾の姿。
いつもはおとなしく、誰とも交流しない一匹狼を貫いている彼女だったが、そういうことを知っている優菜にとっては、些か今の状況が理解できなかった。
「なー、どうしたんだよ、優菜?」
優菜は陽香の言葉を聞いて我に返る。
「え、ええ? 何でもないよ?」
「別にそうは見えないけれどな……。まあ、いいや。何かあったのなら、私に言いなよ? 一人で抱え込んだりしないでさ」
「ありがとう、心配してくれて。でも、大丈夫だよ? 私は問題ない」
「なら、いいんだけれどさあ……」
それだけを言って陽香は去って行った。
彼女にとって優菜は親友である。小学校時代からの親友である彼女たちは、何でも言い合える関係になっていたのである。
だが、幾らそういう関係であっても『魔法少女』のことについては言えなかった。当然のことだろう。
放課後。
優菜は今日も一人で帰路につく。
普段なら陽香も一緒なのだが、彼女にも用事があるようだった。
「何だかこれってストーカーみたい……」
最近の行動を一人振り返りながら、優菜は道を歩いていた。
ストーカー、というのも少々歯切れが悪い気がするが。
優菜は風車の下を通る。風車のある通りを抜ければ、家まではもうすぐそこだ。
そんな時だった。
風車の影に――一人の男が立っていた。黒いスーツを着た、一人の男。
見るからに怪しい男は、優菜が通るのを見て、ゆっくりと歩き始める。
真っ直ぐと優菜の方向に歩き出し、それを背中で理解した彼女は、歩調を早める。
それに合わせて男も歩調を早めていく。
堪らなくなって、優菜は走り出す。このまま走れば数分もかからない距離に家がある。せめて家まで行けば――という気持ちだったのだろう。
だが、遅かった。
刹那――彼女と男が居た空間は、闇に包まれた。
少女も空間が閉じたことを理解した。
『それ』を見て少女は笑みを浮かべて、首飾りのネックレスを天に掲げた――。
刹那、少女の身体は光に包まれる――。
闇夜の空一面に時計が貼り付けられている。
そこがその空間の印象だった。
「ここはいったい……」
同時に優菜はある存在を探し出す。
それは先ほどのスーツ姿の男。
彼がどこに消えたのか――急いで探す必要があった。
「探さなくていいよ」
しかし。
彼女が辺りを見わたすよりも早く――男が彼女の背中側に立っていた。
「……あなたは、いったい?」
「驚くことが無いというのは面白い。もしかして僕のことを、吸血鬼であると認識しているためなのかな?」
「吸血鬼――やはり!」
吸血鬼は優菜の背後に立っている。腕で彼女の身体が固定されているため、動くことが出来ない。
「落ち着き給え。君がどうこうしようったって、無駄なのだよ。ここは吸血鬼が生み出した空間。ここに入ることが出来るのは、忌まわしき魔法少女だけだ。だが、魔法少女の反応は無かった。その意味が――解るな?」
優菜は何も言えなかった。
これから彼女は何をされるのか――理解していた。
吸血鬼が何を人間にするのか、それくらい理解していた。
「吸血鬼は……血を吸う」
「そうだ。それくらいはさすがに理解していたか。まあ何をするかってそんなことは理解していると思う。だがそうであったとしても、僕が君をどうしようというのは僕が決めること。君が決めることでは無い」
もう、終わり――?
吸血鬼に――殺されるの?
彼女はそんな絶望を抱き――しかし僅かに別の気持ちもあった。
――助けて。
刹那、闇が切り裂かれた。
「!?」
そこから姿を見せたのは、一人の魔法少女だった。
白いフリルのついたドレスのような格好に身を包んだ彼女はステッキを持っていた。
ステッキを見た男は恐れ戦いていた。
「なぜだ! なぜ魔法少女がこの結界に!」
「残念だったね」
一瞬だった。
ほんの一瞬だった。
魔法少女はステッキを振った。ただそれだけで、男の身体は粉となって――落ちた。
「あなたは……いったい?」
「わたし?」
長く伸びた髪を掻き上げた魔法少女は優菜の質問に答える。
「私が誰とは今は言えないけれど、少なくともあなたにここで死んで欲しくなかった。だから助けたまでの事。間違ってもいない。正しいことをしたかどうかも解らない。私が私であるために、行っただけのこと」
「……どういうこと?」
その言葉に、魔法少女は答えない。
刹那――空間が眩い光に包まれる。
これで彼女の魔法少女との出会いを語った物語は終わり。
その後、彼女は自らの意志で魔法少女となるのだが――その話はまた別の話になる。
そして、話は冒頭に戻る。
夕方。少女は空を見ていた。
まもなく、予定されていた時刻である。その時刻にあることをしなければ、彼女が存在できなくなる。
「……未来への投資とは、よく言ったものね」
少女は呟き、ビルの屋上から街を見上げる。
風車の傍、少女と黒スーツの男が出会った。少女は、ビルの屋上に立つ少女とそっくりだった。
屋上に立つ少女は笑みを浮かべ、頷く。
首飾りのネックレスを手に取り、それを掲げる。
「さあ――歴史の修正の、始まりよ」
彼女の姿が――魔法少女の姿に変わっていく。
そして魔法少女は屋上から飛び降りた。
優菜は後ろの方の席からある人を見つめていた。
一人は篝、一人は矢代。
それぞれ二人の席はバラバラとなっており、二人の席の周りの印象も別々だ。後者の周りには女性がいっぱいいるのに対し、前者には誰も居ない。篝は一人を貫いているようだった。
それを後ろから見ている優菜。チェックをしていると言ってもいい。
二人の様子を見ながら、優菜は昨日のことを思い出していた。
篝に一方的に蹂躙される矢代健吾の姿。
いつもはおとなしく、誰とも交流しない一匹狼を貫いている彼女だったが、そういうことを知っている優菜にとっては、些か今の状況が理解できなかった。
「なー、どうしたんだよ、優菜?」
優菜は陽香の言葉を聞いて我に返る。
「え、ええ? 何でもないよ?」
「別にそうは見えないけれどな……。まあ、いいや。何かあったのなら、私に言いなよ? 一人で抱え込んだりしないでさ」
「ありがとう、心配してくれて。でも、大丈夫だよ? 私は問題ない」
「なら、いいんだけれどさあ……」
それだけを言って陽香は去って行った。
彼女にとって優菜は親友である。小学校時代からの親友である彼女たちは、何でも言い合える関係になっていたのである。
だが、幾らそういう関係であっても『魔法少女』のことについては言えなかった。当然のことだろう。
放課後。
優菜は今日も一人で帰路につく。
普段なら陽香も一緒なのだが、彼女にも用事があるようだった。
「何だかこれってストーカーみたい……」
最近の行動を一人振り返りながら、優菜は道を歩いていた。
ストーカー、というのも少々歯切れが悪い気がするが。
優菜は風車の下を通る。風車のある通りを抜ければ、家まではもうすぐそこだ。
そんな時だった。
風車の影に――一人の男が立っていた。黒いスーツを着た、一人の男。
見るからに怪しい男は、優菜が通るのを見て、ゆっくりと歩き始める。
真っ直ぐと優菜の方向に歩き出し、それを背中で理解した彼女は、歩調を早める。
それに合わせて男も歩調を早めていく。
堪らなくなって、優菜は走り出す。このまま走れば数分もかからない距離に家がある。せめて家まで行けば――という気持ちだったのだろう。
だが、遅かった。
刹那――彼女と男が居た空間は、闇に包まれた。
少女も空間が閉じたことを理解した。
『それ』を見て少女は笑みを浮かべて、首飾りのネックレスを天に掲げた――。
刹那、少女の身体は光に包まれる――。
闇夜の空一面に時計が貼り付けられている。
そこがその空間の印象だった。
「ここはいったい……」
同時に優菜はある存在を探し出す。
それは先ほどのスーツ姿の男。
彼がどこに消えたのか――急いで探す必要があった。
「探さなくていいよ」
しかし。
彼女が辺りを見わたすよりも早く――男が彼女の背中側に立っていた。
「……あなたは、いったい?」
「驚くことが無いというのは面白い。もしかして僕のことを、吸血鬼であると認識しているためなのかな?」
「吸血鬼――やはり!」
吸血鬼は優菜の背後に立っている。腕で彼女の身体が固定されているため、動くことが出来ない。
「落ち着き給え。君がどうこうしようったって、無駄なのだよ。ここは吸血鬼が生み出した空間。ここに入ることが出来るのは、忌まわしき魔法少女だけだ。だが、魔法少女の反応は無かった。その意味が――解るな?」
優菜は何も言えなかった。
これから彼女は何をされるのか――理解していた。
吸血鬼が何を人間にするのか、それくらい理解していた。
「吸血鬼は……血を吸う」
「そうだ。それくらいはさすがに理解していたか。まあ何をするかってそんなことは理解していると思う。だがそうであったとしても、僕が君をどうしようというのは僕が決めること。君が決めることでは無い」
もう、終わり――?
吸血鬼に――殺されるの?
彼女はそんな絶望を抱き――しかし僅かに別の気持ちもあった。
――助けて。
刹那、闇が切り裂かれた。
「!?」
そこから姿を見せたのは、一人の魔法少女だった。
白いフリルのついたドレスのような格好に身を包んだ彼女はステッキを持っていた。
ステッキを見た男は恐れ戦いていた。
「なぜだ! なぜ魔法少女がこの結界に!」
「残念だったね」
一瞬だった。
ほんの一瞬だった。
魔法少女はステッキを振った。ただそれだけで、男の身体は粉となって――落ちた。
「あなたは……いったい?」
「わたし?」
長く伸びた髪を掻き上げた魔法少女は優菜の質問に答える。
「私が誰とは今は言えないけれど、少なくともあなたにここで死んで欲しくなかった。だから助けたまでの事。間違ってもいない。正しいことをしたかどうかも解らない。私が私であるために、行っただけのこと」
「……どういうこと?」
その言葉に、魔法少女は答えない。
刹那――空間が眩い光に包まれる。
これで彼女の魔法少女との出会いを語った物語は終わり。
その後、彼女は自らの意志で魔法少女となるのだが――その話はまた別の話になる。
そして、話は冒頭に戻る。
夕方。少女は空を見ていた。
まもなく、予定されていた時刻である。その時刻にあることをしなければ、彼女が存在できなくなる。
「……未来への投資とは、よく言ったものね」
少女は呟き、ビルの屋上から街を見上げる。
風車の傍、少女と黒スーツの男が出会った。少女は、ビルの屋上に立つ少女とそっくりだった。
屋上に立つ少女は笑みを浮かべ、頷く。
首飾りのネックレスを手に取り、それを掲げる。
「さあ――歴史の修正の、始まりよ」
彼女の姿が――魔法少女の姿に変わっていく。
そして魔法少女は屋上から飛び降りた。
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