クラス転移、間違えました。 - カードバトルで魔王退治!? -

極大級マイソン

第9話「鎧の女騎士」

 そして、部屋の奥から生徒たちが入ってきたのとは別の扉がコンコンと叩かれた音が皆の耳に届いた。

「おっ、どうやら来たみたいだ。我らのトップが」
「おおようやく会えるのか」
「随分と待たせたな」
「どんな人が来るのか賭けないデスか? 大人びた神々しい皇女に1票」
「むさいムキムキのおっさんに1票」
「瀬奈ちゃんは?」
「人外系。獣人、鳥人間、エルフ等」
「あ〜それがあったデスね! 見識が足りなかったデス!」
「みんな静かに。入って来るよ」

 いよいよ対面する、2年4組をこの世界に呼んだ張本人。果たして、どんな人物なのか!?
 奥の扉がギギギッと音を立ててゆっくりと開く。その向こうから現れたのは品の良い装飾が施された鎧を纏う女性だった。
 彼女は、ドラゴンと同じブロンドの長髪を後ろで綺麗に編み込んでおり、背は高くスレンダー。鎧を纏って分かり辛いが、おそらくかなりスタイルが良いことが鎧の上からでも理解出来る。
 控えめに言って、相当な美女である。鎧の美女はしなやかな足取りで部屋へ入り、生徒たちを見据えてにこりと微笑み、皆のところへ近寄ろうとした…………。



 ガンッ!!(ぶつかる音)



「「「「「「「「「「「「あっ」」」」」」」」」」」」

 その時、鎧の美女の肘が扉のノブに思いきり強打し、彼女はあまりの激痛にその場でしゃがみこんでしまった。

「うわぁ、あれ痛いんだよなぁ〜。しかもあの人、ちょうど鎧で覆われてない部分をぶつけたよ」
「俺も、道を歩いている時によくああなるぞ」
「銀河くんはゲームしながら歩くから肘をぶつけやすいんデスよ」

 そう言って話していると鎧の美女は次第に痛みが引いてきたのか、その場で立ち上がり、何事もなかったかのように皆の元へ歩いて行った。



 ずでっ!!(転ぶ音)



「「「「「「「「「「「「おお……」」」」」」」」」」」」

 その時、鎧の美女は部屋の床に敷かれていた絨毯に足を引っ掛けてしまい、その場で頭から転倒してしまった。
 しばらく膠着してしまう鎧の美女。すぐに起き上がろうとするが、全身の鎧が邪魔でなかなか立ち上がることが出来ず、まるで水揚げされた魚のように全身をもがき、苦しんでいる。

「……どうやら、やって来たのは"ドジっ娘女騎士"のようデスねぇ……」
「……助けに行った方が良いのかな?」
「待て、隼人。あれは巧妙な罠なのかもしれない。迂闊な行動は控えろ」
「いや、どう考えてもただ転んだだけのように見えたぞ」
「ああ、もう! 何をしておるんだお主は!!」

 幼児体型(付いてる)のドラゴンは呆れた顔で転んだ鎧の美女の元まで駆け寄り、手を掴んで彼女を引き上げた。鎧の美女は額に大量の汗をかいて、ドラゴンに礼を言う。

「あ、ありがとうオレガノ」
「まったく我らのトップがこれでは困るぞガーベラ。もう勇者達は集まっている、挨拶するぞ」
「お、おう!」

 鎧の美女は気合を入れ、ようやく皆が集まるテーブルの元まで辿り着いた。そしてうっうっと喉の調子を確かめてから、生徒達に話しかける。

「よく来てくれた勇者達。私はガーベラ、この宮殿の主人だ。今日、君たちを呼んだのは他でもない。我が国の姫を救って欲しいのだ」
「その、勇者達だとか救えだとかそこの幼女ドラゴンも言っていたが、そもそも何故俺達がそんなことをしなければならないんだ」
「私達、修学旅行のバスに乗ってたんです。そこでいきなりよく分からない場所に連れて来られて……凄く困ってるんです!」
「早い話、元の世界に帰せってことデス。宮殿の置物が全部安物だと知ってから、デス子がここに留まる理由はないんデスよ」

 皆は当然のことながら帰してくれと鎧の女騎士に頼みかける。ここにいる生徒達は日本の高校に通う普通の(?)学生なのだ、世界を救うなど出来るはずがない。
 しかし鎧の美女、ガーベラは皆の発言に首を振った。

「……すまないが、それは出来ないよ。君達は、この世界を救ってもらうまで元の世界に帰ることは出来ない。そういう契約だからね」
「契約?」
「連帯保証人にはならないデスよ」
「君達は先日私と交わした契約により、『魔王を倒して姫を救うまで日本に帰すことは出来ない』。そういう契約の元、この世界に連れて来られたんだ」
「なんだそれ? 一体誰が、何の目的でそんな契約を交わしたんだよ! しかも俺達を巻き込んで!」
「おい、このマヌケ女騎士と合って契約とやらをした人物、怒らないから正直に名乗り出ろ」
「それ絶対怒るやつだよね……」
「契約は大事だって昔パパが言ってたんだなぁ〜。見覚えのない契約は無効、それでも続行するっていうなら弁護士会を呼んで正面対決なんだなぁ〜」
「ふっ、流石は"巨万の富を得る家畜タフネス・リッチマン"。戦う意思は十全に持ち合わせているようだ。法的手段による戦闘だがな」
「…………世界を救う意思が無いというなら、こちらも其れ相応の対応をしなくてはならなくなるな」

 そう言って、幼女龍オレガノはゆらりと顔を上げ、その宝石のような瞳をギラリと皆に向けた。
 瀬奈とデス子はビクリと震え上がり、慌てて側にいた日向棚歌の後ろに隠れる。2人は安全地帯を得るや否やドラゴンを強気で挑発する。

「はっ、遣れるもんならやってみろデスッ! こっちには10tトラックをヒップアタックで粉砕した経緯を持つ、日向ちゃんがついているんデスよ!」
「貴様の無意味な行動が、この女にどれほど通用するか見させてもらおう。……頼んだぞ、ナンバー1」
「……私の後ろで挑発しないで。喧嘩腰になる前にまずは話し合いをしようよ」
「彼女の言う通りだ。オレガノ、話は私がすると言っただろう。彼らには自分の意思で、世界を救ってもらわなければならないんだ。脅してどうする」
「……お主が不甲斐ないからだ。自分で話すのならサッサとしろ」

 オレガノは不貞腐れた表情で椅子に荒っぽく座り、ガーベラに話を促した。しかしオレガノが何と言おうとも、2年4組の生徒達が世界を救う意思は芽吹かないだろう。そもそも現状が飲み込めていない。
 そして、オレガノは、この場にいる全ての人に、衝撃的事実を告げる。

「それでは事情を説明するためにも、まずは私の話を聞いてくれ2年1組の日本の生徒達よ。ことの顛末は…………」
「「「「「「「「「「んんっ?」」」」」」」」」」
「……あれ、どうかしたのか?」
「いや、あんた、今『"2年1組"の日本の生徒達』って言った?」
「? ああ、そうだが……」
「俺達、2年4組だよ」
「……えっ、ホントに?」
「ホントにホントに」

 隼人が首を上下して肯定し、オレガノはあごに手を当てて考え込む。
 それから改めて、ゆっくりと2年4組の面々の顔を覗き見て、ハッと何かに気づいた表情で口を開いた。



「あ、すまん。これ人違いだわ、この人ら勇者達じゃない」
「おいこら、一発殴らせろマヌケ騎士」



 猿渡悟が低い声で暴言を放つが、そのことを咎める者は2年4組には居なかった。

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