クラス転移、間違えました。 - カードバトルで魔王退治!? -

極大級マイソン

第5話「天より舞い降りし龍、そして空を飛ぶ」

 突然のことに、開いた口が塞がらなくなる日向だったが、ハッと正気に戻り、大慌てで近くにいた誠十郎に話し掛けた。

「ちょ、ちょちょちょちょっと、見えますかアレ!?」
「ええ、見えますね」
「冷静!? あ、あれ、何なんですかねアレ!!」
「はぁ〜見る限りドラゴンのように見えますね、師匠」
「えっ、ドラゴン!?」

 その瞬間、後部座席からもの凄い勢いで運転席付近まで飛び出してきた人物がフロントガラスに張り付いた。よくよくその人物を確認して見ると、どうやら大獅子最愛であると、3人は気がついた。

「おおっ!! すごい、本当にドラゴンだ初めて見たよぉ!! うわぁ〜写真撮っておかなくちゃ!!」

 最愛は、ポーチの中から高校生が所持するにはかなり上等そうなカメラを取り出し、目の前にいるドラゴンをパシャパシャと撮り始めた。
 ドラゴンは大きな目玉をギョロギョロ動かしてこちらを見ているようだ。今のところ襲ってくる気配はないが、今後もこの状態が続いてくれるとは限らない。何かしらの手立てを打つべきだろう。
 最愛がずっとドラゴンを撮影していると、他のクラスメイトたちも騒ぎに気づいたのかバスの最前列へと集まってきた。

「おお、何デスかあの金ピカに光るお金になりそうな怪物は!?」
「まぁ! 綺麗なドラゴン……。『金龍ゴールド・ドラゴン』かしら? 小説ではよく登場する定番な龍ですが……」
「かっこいい! あれ、本当に生きてるのかな!? なあ、悟?」
「気になるなら隼人、お前が外に出て観察してきたらどうだ? 何なら俺も一緒に行くぞ」

 皆がそれぞれドラゴンの襲来に驚いていると、目の前のドラゴンが突然咆哮を始めた。

『グアォォォォォォォォォォ!!!!』
「あらぁ? どうやら私たちを威嚇しているみたいね。……それはよろしくないわ。ストレスを和らげるお紅茶を用意しないと」
「ふふっ、あのドラゴン。見たところ僕の美しさに嫉妬しているようだッ! やはり至高の"美"は、種族の垣根も超えてしまうんだね……!」
「お腹空いたなぁ〜。……ドラゴンって食べられるのかな?」
「みんな割と余裕なんだね!?」

 皆の平然とした様子に思わずツッコミを入れる日向。仮にも武門の名家の生まれである自分が異常事態に動揺している方がおかしいのだろうか? と少し心配になってしまう。
 そして、皆が無邪気にこの状況にはしゃいでいる中、クラス委員の彼方ノ原が険しい表情でドラゴンを見つめながら声を発した。

「ドラゴンか何か知らないけれど、 あれは私たちに危害を加えてくるのか?」
「さあ、知らん。だが、世の中には"先手必勝"という言葉がある」
「手を出される前に先に仕留めるって?」
「必要ならな」

 そう言って奏多は、腰に差していた鞘から一振りの刀を引き抜いた。
 それを見た最愛が驚いて奏多を止めようとする。

「えっ、殺しちゃうの!? 駄目だよ可哀想だって!」
「何が可哀想だ。俺たちに危害を加える可能性が1%でもある限り、この場で始末した方が安全だ」
「でも、あの子があたし達を襲うとは限らないじゃん!」
「最悪の事態を考慮するべきだ。……俺は降りて始末しに行くぞ」
「えっ、奏多くん本気で行く気なの!?」
「師匠はここで待っていてください。あんなドラゴン、俺1人で十分ですから」

 奏多は外へ出ようと出入り口の扉を開こうとする。その時、彼に続いてバスを出ようとする人物が集まってくる。

「1人だけでは何かと面倒でしょう。私も加勢します」
「クラスを守る委員長として、目の前の危険を見逃すわけにはいかないからね」
「ドラゴンは殺させないから! あたしが前に出て説得してみせるよ」

 奏多に同行しようとする志願者は一斉野誠十郎、彼方ノ原きなこ、大獅子最愛の3人だった。
 奏多は「好きにしろ」と素っ気なく応じ、彼らの同行を許可した。4人はバスの外へ出て、ドラゴンが降り立っている元へと進んでいった。
 残ったメンバーはそれを見送り、自分たちも何か出来ないかとそれぞれが知恵を絞っているようだ。

「ていうかあのドラゴン、攻撃した瞬間僕たちを襲ってくるとか無いよね?」
「もしそうなったら手分けして逃げるしかないな。運が良ければ何人か生き残れるだろう」
「う〜んこのバスは動かせるのかなぁ。誰か運転出来る人いない? 今日は専属の運転手を連れて来てないんだぁ〜」
「誠十郎さんが運転出来そうな感じだったけど、……何であの人、高校生なのに運転出来るんだろう?」
「まあ、あの人は大人びてるし、年齢不詳な感じデスからねぇ。運転免許くらい持ってるんじゃないデスか?」
「他に寝てる奴らもいるしな。あいつらを置いて逃げるわけにはいかないぜ」

 そう口々に皆が話し合って、緊急時の際は誠十郎を運転手にしこの場を離れようと相談していた次の瞬間!
 フロントガラスの向こうで留まっていた金色のドラゴンが突然、バサァッと空高く飛び立って行く姿を皆が目撃した。

「おや、飛んでいったぞ」
「逃げていったんデスかね?」
「彼方ノ原さんのムキムキの剛腕に恐れ慄いたのかもね」

 影踏が軽い冗談を言ってハハッと1人で笑い出す。
 そして、停車しているバスが突然大きく横揺れを起こし始めた。
 皆は手すりに掴まり、今度は誰も倒れることはなかったが車内は徐々に動揺に包まれていった。

「おおっ!? 何だ、襲撃か!?」
「わぁあゴメンなさい!! 悪気があって言った訳じゃないんです彼方ノ原さん!!」
「いや、彼方ノ原さんがやったんじゃないでしょこれ」
「でもあいつならこれくらいやりそうだよな」
「隼人くんまでそんな……」
「……おや? みんな、窓の外を観て」

 その時、今まで黙っていた香織がそう皆に告げた。彼女に言われ、他の皆も窓の外を見ようと前のフロントガラスに注目する。
 そこで彼らが目にしたのは、どんどんと地面から離れていく光景だった。まるでエレベーターから外を眺めているような上への移動模様。
 要するに結論から言えば、スクールバスは空を飛んでいた。

「っておぉぉぉぉいッッ!!?!」
「大声で妙ちきりんに叫ぶなデス。そんなんだからモテないんデスよ」
「喜びの罵倒に感謝! いやそんな場合じゃなくて、これ確実に空を飛んでるよね!?」
「もしかしてドラゴン? こんなことが出来るのはあれくらいしか思い浮かばないけど……」
「巣に持ち帰ろうとしてるのかなぁ? やっぱりドラゴンもお腹空くんだねぇ」
「食べられちゃうの!? 私たち!」
「まあ、そうなったら日向に一肌脱いでもらうしかないな。任せたぞ日向」
「任せたデス、日向ちゃん!」
「ええ〜、私あんなのと戦って勝てる気しないよ。女の子だもの」
「「「「またまたご謙遜を〜!」」」」
「みんな私のこと何だと思ってるの!?」

 そんなやりとりをしている間にも、バスは高く上昇していきあっという間に雲に届きそうなくらい飛び立ってしまった。

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