~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実の愛を誓います。

簗瀬 美梨架

全ての始まりへ

 テネヴェの崩れた床。サアラの姿はない。全ての諱が綺麗に剥がされたオベリスクは元通り、マアト神を湛えるべく、白銀に輝いていた。本来の慰霊碑の役目に戻った白銀のオベリスク。前でティティは、声弱く、名を口にして、ふらふらと立ち上がる。

「サアラさま? イザーク? ネフトさま……」

 無人の神殿にティティの声だけが響く。(誰もいない)ティティは泣き崩れた。


(ずるいよ……わたしだって行きたかった。酷い、もう神さまなんて信じないから!)

 駄々を捏ねた子供のように投げたスカラベは地面を討ち、サアラの爪先に当たった。
 サアラは相変わらずの鉄仮面で、ティティを覗き込んだ。


「水を汲んでいた。大丈夫か。ネフトも捕らえられた様子だ。目的が同じになった。私は昔から、あいつが好かない。非情にも程がある」

 サアラは腕を切ったらしく、流れた血を舐め、驚くティティの前に屈んだ。ティティは子供が父に抱きつくように、サアラに抱きついた。

「もう一人は嫌。サアラさまも、どこか行っちゃったと思ったの……!」

 サアラはしばらくして、ティティの腕をそっと外し、オベリスクを睨んだ。

「イザークに繋がる諱は剥がれてしまったな。唯一の方法だった。諱が世界を繋ぐ。これほどの強力な繋がりはない。汝は知っているはずだ」

 ティティは絶望で床に座り込んだ。諱がなければ繋がれない。

「イザークではなく、真実のイザークの命の名前、イホメト名が必要。それもイザークが命を込めた聖刻文字でなければならない」


(そんなものがどこに)と項垂れたティティの前で、サアラは表情に呆れを重ねた。


「諦めるか? イザークと汝の繋がりが全てだったが……」


 サアラは口調こそ静かだが、怒りを滾らせていた。(諦める)引っかかりがあった。

(「わたしは諦めない」どこかで、口にした気がする)ティティははっと気付いた。

 ――ラムセス十八世の王の笏丈! 全ての始まり。

 そこから、イザークへの呪いと裁きが始まった。アケト・アテン。ティティインカの生誕の地だ。

「あるわ。イホメトの名前が! あの字は、イザークが彫り込んだものだわ。だからこそ、呪いがかかったのだから! わたしの始まりだった……そうよ、戻るの」


 ティティは絶望を与えられた笏丈に、今こそ希望を抱かずにいられなかった。

 ――ラムセスとの決戦は近い。ティティインカはイザークからラムセスの本当の名を聞いた。
弟と、親友を差し出したイザークの想いは、受け取った。

「戻るわ。アケト・アテンへ。目指すはカルナヴァル! ――ラムセスよ」

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