~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実の愛を誓います。

簗瀬 美梨架

古代王国アケト・アテン王国王女ティティインカ 商人と婚約する?!

***

「ええと、もう一度言ってくれない? 婚約者と兄って何?」


 ――ティティインカの前に、疑問が二つ現れた。額を指で押さえ、顔を上げた。


 古代神殿の重厚な土の城壁は残響を残し、風が呟きを奪い去る。二人の男は、互いに嘲笑を浮かべていた。ティティインカは怒りに堪えつつ、ゆっくり聞き返した。


「何がおかしいの。わたしは、もう一度説明を、と言っているの」
「いや、コブラがな……よくもゆっさゆっさ揺れるものだと。話もままならん」

(コブラ? コブラって、あ!)

 ティティはハッと頭に手をやった。コシのある黒髪の中央をふんわりと膨らませ、先をちょこっと細くして軽さを出した髪型だ。間違いない。二人の男はティティが頭を振って怒っている状態を、「コブラだ」と笑っていた!


「あ、あたしの……自慢の髪型……っ! 真剣に聞いているのに……っ?」


 悔しさと恥ずかしさで、涙目になる。笑っているうちの一人は現アケトアテン王国で、王を名乗ったばかりのラムセス十七世。不貞不貞しくも王座に深く座り、王にだけ許されし頭巾に王冠。略奪王はティティの声に反応し、耳を塞いでいる。


(信じられない。突然国を奪って、父と母を追い出し、挙げ句にわたしの兄。力一杯疑わしい。父も母も何も告げてらっしゃらなかったわ)


「ともかく、説明をもう一度して。それに、お父様、お母様は……」

 ティティは、王座の背もたれに腕をかけ、斜め立ちしている男に今度は眼を向けた。

 男は先程から手をひらひらと振る。おかげでラムセスの話に集中ができない。

(う、邪魔。王の背後に立つなんて。なら、身分は限られてくる。書記か、神官)

 だが、男は神官服を着ておらず、適当に切った長衣に、商人がよく使う三連の腰布。左腕の上腕にはバカ太い腕環を嵌めている。王族にも見えない。町民か。

(本当、誰なんだろう……王モドキと親しげだけど、真っ赤な狼の眼をして)

 視線があった。にっと男らしく笑われて、ティティはぱっと視線を逸らせた。状況を見抜いたラムセスが軽く笑って、背後の男を振り仰いだ。


「イザーク。我が妹は大層おまえが気になるらしい。これは巧く行きそうだな。婚約者としてどうだ? 俺の妹は可愛いだろう」

 ――これ以上の冷静気取り、無理。



「だから、その婚約者について、説明しなさいと言っているのよ――っ!」

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