異世界に食事の文化が無かったので料理を作って成り上がる

山外大河

4 23歳会社員男性が女子中学生を自宅に連れ込もうとした事案(未遂)

 一言で纏めると、東京都在中の会社員(23)による女子中学生を自宅に連れ込む事案は未遂に終わった。
 どうやら異世界と繋がった俺の部屋の扉、入場制限というか入国制限というか、その辺のセキュリティチェックが相当厳しいらしい。

「駄目です、色んな魔術を試しましたけど全然突破できそうにないです」

「……これは面倒な事になったな」

 俺達は二人してため息を付く。


 時はほんの少し遡る。


 辿り着いた廃墟の扉と俺の部屋は当たり前の様に繋がっていた。
 俺はその事に一安心し、リーナは扉の先が明らかに別次元に繋がっている事に驚きを見せた。
 そしてそんな俺達は部屋の中に入ろうとしたわけだ。
 俺が先に入り靴を脱ぎ、そして後方からは何かにぶつかった様な呻き声が聞こえて振り帰った。

「どした?」

「いや、なんか見えない壁が」

「見えない壁? なにもねえだろ」

 扉の外に手を出してみるが、地球と異世界を隔てる物は何もない。

「で、でも!」

 だがリーナが手を伸ばすと、そこに壁があるように手が止まるのだ。

「……ほら」

「えーっと、パントマイムでもやってんの?」

「結構自信ありますけど今は違うんです!」

 自信あるんだ……というかこの世界にもパントマイムあるんだ。
 でもまあそれがガチな話だとすれば」

「どうしましょう。私そっちに行けないかもしれません」

「マジで?」

 そこから10年に一人の天才リーナちゃんによる空間突破の為の魔術お披露目ショーが開催され、ズガガガガガガと色々凄い事になっていたけど、結局通れず現在に至る。

「どうしましょう? 此処超えられないと私破門ですか?」

「いや、そんな事しない! そんな事しないからちょっと泣くの止めようか!」

 なんか泣きそうになっているリーナを宥めつつ考える。

 リーナが此処を通れないという事は、異世界人は……というより俺以外の人間は此処を行き来できないという事なのだろうか?
 そしてそれは今立証できないから一旦置いておくとして、これからどうしようという話である。
 多分異世界人の中でも相当凄い力をもっているであろうリーナでもどうにもならないのなら、俺の様など素人にはどうにもできない。
 だったら俺は一体どうすればいいのだろうか?

「……あ、そうだ」

 少し考えて一つアイデアが思いついた。

「何か通る方法分かりました?」

「いや、此処通るのは一回諦めよう。だから通らなくてもいいやり方をするべきだ」

「通らなくてもいいやり方? それってどうするつもりですか?」

「俺がそっちの世界に必要なものを持ち込む」

 元々リーナを俺の部屋に招いた理由は、この世界に食材や調理器具が一般的に流通していないであろうことを予測した上で、だったらその目途が立つまで道具も食材も揃う俺んちでやろうかという結論に至ったからだ。
 だから必要なものさえ手に入れば俺の部屋で何かをする必要は何もないわけだ。
 だから俺の部屋から異世界へと持ち込む。
 そうすれば一応暫定的な解決策になる。

「悪い、軽く必要なもの調達してくる。2、30分掛かるかもしれないけどちょっと待っていてくれ」

「はい!」

 リーナには悪いが少しの間待っていてもらう事にして、とりあえず俺は必要なものを揃える事にした。
 包丁とかの調理器具はとりあえず家にある物を持っていけばいい。だけど食材は仕事帰りに色々買おうと思っていたから碌なものが残っていない。
 だとすれば近くのスーパーで買ってくる。それがいい。

「さて、玄関は使えないから窓から脱出っと。よしなんの問題もないぞ」

 俺はとりあえず玄関が使えないので窓から外へ出て買い物へと繰り出した。
 でも後々冷静に考えてみればアパートの鍵の使用上外から掛けれないんだし、問題しかないよね。
 だからと言ってどうにもできないけれど。


「……しかしどうしたもんか」

 スーパーである程度の食材と食材を運ぶ際にクーラーボックスに一緒に入れておく保冷材を購入した俺は、帰宅途中に少し考え事をしていた。

 こうして教える分には俺が食材を調達してくればいい。
 だがいつまでもこうしてはいられないだろう。それこそリーナが料理人になりたいっていうなら。
 可能ならあの世界で食材や調味料を入手できるような環境にしなければならない。
 ……その為にはどうすればいいのだろうか?
 その答えは簡単には出てこない。そもそもの所、俺はあの世界の事をまだ知らなすぎるんだ。半日しか経ってないしね。
 で、結局答えは出てこないまま、俺はアパートに帰って来た。
 隣の住人の子供に何か好奇の目を向けられながらも窓から侵入。見ちゃいけません。
 そしてとりあえず段ボールに携帯用のガスコンロや包丁。鍋やフライパン、食器などを新聞紙で包んで一通り入れ、クーラーボックスに保冷剤と食材を入れ準備を終える。
 つーか食材はいいとして、調理器具と食器結構な量になったな。結構街まで距離あると思うんだけどこれ運ぶのか……すげえ億劫なんだけど。凄く重い。

「……しかしまあ、持ってかねえとなんもねえからな。仕方ない」

 とりあえず段ボールとクーラーボックスを持ち、足で扉を空ける。

「悪い待たせたなリーナ……ってあれ?」

 再び扉の外の異世界へと足を踏み入れ周囲を見渡すも、リーナの姿が見えない。

「……まさかまた魔獣ってのが現れたのか?」

 それで戦闘中とか……大丈夫かな?
 とりあえずそういう仮説を出していた時だった。

「……あ、リーナだ」

 視界の奥。城下町の方角からリーナが走ってくるのが見えた。
 そして明らかに人間場馴れした速度で走るリーナはあっというまに俺の前へとたどり着いた。これが若者の人間場馴れか。

「す、すみません……師匠が戻ってくる前に済ませようと思ったのですが……待ちました?」

 リーナが荒い息でそう聞いてくる。

「いや、俺も今来たところだ。つーか何してたんだ?」

「よくぞ聞いてくれました」

 言いながらリーナはポーチから青い宝石の様な物を取り出す。

「なにそれ?」

「転移結晶です。まあ簡単に言えば設定した場所と場所をワープ出来る様にする為の道具みたいなものですかね。これを使えばとりあえず城下町の私の家の近くまで飛ぶ事ができます」

「……それを態々取ってきてくれたのか」

「色々荷物出るでしょうし、それに師匠にまたこの道歩かせるわけにはいかないじゃないですか。魔術も使えないって言ってましたし、それはきっと私が思っている以上に苦行です」

「リーナ、お前……」

 待ってる間にそれに気付いて、気を聞かせて走って取りに行っていた。
 リーナが疲れきっているのをみるとそれが例え魔術を使えたとしても大変な事だろうに。
 素直に嬉しかった。
 俺に気を使ってそうやって頑張ってくれたことが、本当に嬉しくて。とにかく料理教えるのもそうだけど、もっとうまい物を食わしてやりたい。そう思った。

「いや、とりあえず数回分纏めて買ったんですけど、やっぱ便利な分結構値が張りましたね。貯金結構吹っ飛んじゃいましたよ、アハハハ」

「そ、そうか……なんかごめん」

「気にしないでください。この位お安い御用です!」

「……あの、嬉しいけど今度から一声かけてな?」

「は、はい」

「約束だぞ」

 前言に少し追加しよう。
 もっとうまい物を食わしてやりたいじゃない。もっとうまい物を食わしてやらないと駄目だ!
 そうじゃないと凄く心が痛い!
 というかこの子の食と料理に対する熱意凄すぎィ!

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