異世界に食事の文化が無かったので料理を作って成り上がる
3 なんか物足りない異世界観光
「いやーうん。思った以上に栄えてんな」
「そりゃ城下町ですもん」
リーナに案内されてたどり着いた城下町からみるに、この世界の文明はそれなりに繁栄しているように思えた。
基本は中世っぽいといえばいいのか、ファンタジーファンタジーしてるって言えばいいのかって所だが、街頭を見た感じ電気は通っていそうだ。
まあこのファンタジー的外観でそれはどうなんだとも思わなくもないが、別に地球と同じ流れで発展しているわけではないだろうし、普通に外観以上に発展している文化があってもおかしくない。
特に……コイツらの食ってるタブレットは健康食品という観点で見れば圧倒的に地球の商品のそれを凌駕している訳で。
つまり人も世界も見掛けにはよらないんだ。
「それで、どこから案内すればいいですか?」
「そうだな……とりあえずお任せで」
「了解です師匠!」
そうしてリーナによる城下町案内が始まった。
リーナの案内はわりと丁重で、敬語なのも相まってまさしく観光ガイドのようだった。そんで俺も全く知らない土地だからか凄く観光客感が出ていたと思う。
行く行く先で色んな所に目が移りまくるもん。
なんというかこの城下町という奴は、東京住まいの俺からすれば街そのものが文化財のそれの様に見えてくる。
そういう意味では感覚的には修学旅行で初めての京都に行ったのに近いのかもしれない。
もっとも加えて異世界形のラノベに嵌っていた事もあってか、心の躍りようは段違いだけれど。
だがしかし、一つ物足りない事もある。
「しかしやっぱ飯屋がないだけで、なんかこう……違うよなぁ」
「飯屋……ですか?」
「そ、飯屋。金払ってさっきリーナが食べてたみたいな食べ物を提供してくれる店だ。俺の世界じゃそこら中にあるんだよ」
「そこら中……師匠の居た世界は天国か何かですか!」
「……まあこの世界見てりゃ天国なのかもしれねえな」
まあ自分のいた世界が天国だとは中々思えないけれど。
「……まあとにかく俺達の世界ではその土地特有の文化から生まれた名物料理とかがあってな。そういうのを食べて回るのも旅の楽しみというわけだ」
「なるほど。つまりこの世界にはそれがないから、折角の観光なのにつまらないという事ですか?」
「いや、つまらなくはねえよ? 実際色々すげえなって思って見てるし。ただなんか物足りないって感じただけだよ」
「……タブレット、食べてみます?」
「まあこれがこの世界の名物料理見たいな物か」
丁度腹も減ってたし、正直少しどんなものか気になってはいたからな。一応食べてみるべきなのかもしれない。
というか弁当を失った今、空腹を満たせる物はそれしかないわけだし。
「じゃあ頂くよ」
「なら手を出して下さい」
そしてリーナが取り出したケースを振ると、中から錠剤が一粒俺の手に落ちる。
「それ一粒でお腹一杯になります」
「……改めて見ると信じらんねえな」
「まあ食べてみれば分かりますよ」
「お、おう……じゃあいただきます」
一応そう言ってからタブレットを口に入れ噛み砕き、そして飲み込む。
「あ、ほんとだ。マジで腹膨れた」
「ですよね?」
確かにこんな小さな錠剤を食べただけで腹が膨れた。一体どういう原理なのかは分からないけどマジですげえって思うよ。
だから非常食とかそういう観点でみればありえない程優れたものだとは思う。
もっとも食事という観点でみれば、無味無臭で酷いものだけれど。
だから改めて思うよ。
リーナが俺に見せたオーバーにも程があるあのリアクションは決しておかしなものじゃないって。
生まれたときからずっとこんなものだけを食べ続けたら俺だってああなるかもしれない。
それだけ食事としては劣悪の極みだ。
そしてそんな俺の微妙な表情を見て、リーナが言う。
「みんなそれしかしらないんです。それが当たり前で生きてるんです」
「……なあ、リーナ」
その言葉を聞いてどうしても聴いておきたくなって、リーナに問いかける。
「お前さ、料理を覚えてどうしたい?」
その問いに対する返答に迷いはない。
「私は師匠の料理を食べて、本当に幸せな気分になれたんです。だから……もっといろんな人に幸せになってほしいなって、そう思うんです」
「……そうか」
それを聞いて自然と思った。
その志の背は押されなければならない。
押してやらなければならないと。
元から料理を覚えたいという熱意と、俺が頼られる胸の高鳴りで押しえようと思ったけど。
それ以上に頑張ってほしいと、そう思ったんだ。
「そんなに大きな目標があるならきっとやれるさ。頑張らないとな」
「はい!」
そう言ってリーナは笑みを浮かべる。
大丈夫だ。
それだけ大層な目的意識があれば絶対に叶えられる、叶えさせる。
……人に教えた事なんてないけど頑張らないとな。
さて、そう思った所で一つの疑問にぶち当たる。
この世界に食事という概念はない。つまりはそれを行う為の調理器具や食材なんかも出回っていない筈だ。
……さて、そんな状況で俺は一体どう頑張ればいいのだろうか?
「私どれだけ厳しい修行にも耐えて見せますよ。ところで少し気が早い気はするんですけど、まずどういう事から始めるんですか?」
うん、気が早いね。お兄さんなんの答えも出てねえよ? 今問題にぶち当たったばっかりだよ?
「あーえーっと……」
とりあえず何も考えていないって正直に言いますかね?
……あ、いや、駄目だ。結構期待の眼差しで見られてる。熱意と好奇心の視線を前にそんな事言えねえよ!
……ああ、もう。とにかく何でもいいから絞り出せ。
絞゛り゛だ゛す゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!
「……とりあえずウチ来る? 食材も調理器具も揃えられるし」
やった。絞り出た!
でもなんだろう。すっごい事案感が凄いや。
「なるほど。分かりました! じゃあ後でお邪魔させてもらいます!」
いや、お前ももうちょっと躊躇おうよ。成人男性のおうちに一人で簡単に付いていっちゃいけないからね? 世の中くっそ危ないからね? 大丈夫なのかこの子。
……まあいいや。いいのかは知らんけど。
「ああ、もしアレだったら観光また今度にしてもう俺んち来る?」
本日は金曜日で明日明後日は土日で仕事は休みなわけだが、それでも流石に月曜日まで休むわけにはいかない事を考えると、今、月曜日までに避ける時間はあまり多くはない。
別にいますぐ全てを叩き込まなければならない訳ではないけれど、それでもこうして有効活用できる時間があるのなら、それはきっと有効活用しておくべきなのだ。
「そうですね。そうしましょう!」
リーナは好奇心に溢れた声でそう言う。どんだけ嬉しいんだよ。
「あ、でもちょっと待ってもらっていいですか?」
「ん? いいけどどうした?」
「いや、実は私、今ギルドで森の魔獣の討伐を依頼されてまして……その報告に行かないと。ああ、ギルドって言うのはですね――」
そうしてリーナはギルドの説明をしてくれた。
でもまあ何の偶然か大体イメージ通りだったというか、冒険者が依頼を受ける組合みたいなところだった。そこでリーナは今あの森に出現していると噂されていた魔獣(仮称・ライオンさん)の討伐依頼を受けていたらしい。
「すげえな、普段からそんな仕事してんの?」
「こう見えて10年に1人の天才って言われてるんですよ。知らない内に戦乙女とかいう二つ名まで付けられちゃってるみたいで」
それを少しドヤ顔で言ったリーナはこう付け加える。
「まあもう廃業予定ですけどね」
「止めんの?」
「だって私の夢は料理人ですもん」
「お、おう……」
うわぁ10年に一人の天才を……戦乙女を見習い料理人に転職させちゃったよ! えぇ……いいのかこれ。
これ背中を押してやりたいとか押さないといけないとか考えちゃったけど、おかしな方向に導いて崖から突き落としてない俺。大丈夫このこの人生。責任持てないよ俺。
……これはあまりに責任重大すぎだぞオイ。
「じゃあ行きましょうか」
「そ、そうだな」
こうして俺はとんでもない責任を背負わされた気分になりながら、彼女と共に一旦自宅に戻る事にした。
……本当に良かったのだろうか。
この子のジョブチェンジの事も。あとこの位の子を家に連れ込む事も。
いや、なんかとっても業が深いね。
「そりゃ城下町ですもん」
リーナに案内されてたどり着いた城下町からみるに、この世界の文明はそれなりに繁栄しているように思えた。
基本は中世っぽいといえばいいのか、ファンタジーファンタジーしてるって言えばいいのかって所だが、街頭を見た感じ電気は通っていそうだ。
まあこのファンタジー的外観でそれはどうなんだとも思わなくもないが、別に地球と同じ流れで発展しているわけではないだろうし、普通に外観以上に発展している文化があってもおかしくない。
特に……コイツらの食ってるタブレットは健康食品という観点で見れば圧倒的に地球の商品のそれを凌駕している訳で。
つまり人も世界も見掛けにはよらないんだ。
「それで、どこから案内すればいいですか?」
「そうだな……とりあえずお任せで」
「了解です師匠!」
そうしてリーナによる城下町案内が始まった。
リーナの案内はわりと丁重で、敬語なのも相まってまさしく観光ガイドのようだった。そんで俺も全く知らない土地だからか凄く観光客感が出ていたと思う。
行く行く先で色んな所に目が移りまくるもん。
なんというかこの城下町という奴は、東京住まいの俺からすれば街そのものが文化財のそれの様に見えてくる。
そういう意味では感覚的には修学旅行で初めての京都に行ったのに近いのかもしれない。
もっとも加えて異世界形のラノベに嵌っていた事もあってか、心の躍りようは段違いだけれど。
だがしかし、一つ物足りない事もある。
「しかしやっぱ飯屋がないだけで、なんかこう……違うよなぁ」
「飯屋……ですか?」
「そ、飯屋。金払ってさっきリーナが食べてたみたいな食べ物を提供してくれる店だ。俺の世界じゃそこら中にあるんだよ」
「そこら中……師匠の居た世界は天国か何かですか!」
「……まあこの世界見てりゃ天国なのかもしれねえな」
まあ自分のいた世界が天国だとは中々思えないけれど。
「……まあとにかく俺達の世界ではその土地特有の文化から生まれた名物料理とかがあってな。そういうのを食べて回るのも旅の楽しみというわけだ」
「なるほど。つまりこの世界にはそれがないから、折角の観光なのにつまらないという事ですか?」
「いや、つまらなくはねえよ? 実際色々すげえなって思って見てるし。ただなんか物足りないって感じただけだよ」
「……タブレット、食べてみます?」
「まあこれがこの世界の名物料理見たいな物か」
丁度腹も減ってたし、正直少しどんなものか気になってはいたからな。一応食べてみるべきなのかもしれない。
というか弁当を失った今、空腹を満たせる物はそれしかないわけだし。
「じゃあ頂くよ」
「なら手を出して下さい」
そしてリーナが取り出したケースを振ると、中から錠剤が一粒俺の手に落ちる。
「それ一粒でお腹一杯になります」
「……改めて見ると信じらんねえな」
「まあ食べてみれば分かりますよ」
「お、おう……じゃあいただきます」
一応そう言ってからタブレットを口に入れ噛み砕き、そして飲み込む。
「あ、ほんとだ。マジで腹膨れた」
「ですよね?」
確かにこんな小さな錠剤を食べただけで腹が膨れた。一体どういう原理なのかは分からないけどマジですげえって思うよ。
だから非常食とかそういう観点でみればありえない程優れたものだとは思う。
もっとも食事という観点でみれば、無味無臭で酷いものだけれど。
だから改めて思うよ。
リーナが俺に見せたオーバーにも程があるあのリアクションは決しておかしなものじゃないって。
生まれたときからずっとこんなものだけを食べ続けたら俺だってああなるかもしれない。
それだけ食事としては劣悪の極みだ。
そしてそんな俺の微妙な表情を見て、リーナが言う。
「みんなそれしかしらないんです。それが当たり前で生きてるんです」
「……なあ、リーナ」
その言葉を聞いてどうしても聴いておきたくなって、リーナに問いかける。
「お前さ、料理を覚えてどうしたい?」
その問いに対する返答に迷いはない。
「私は師匠の料理を食べて、本当に幸せな気分になれたんです。だから……もっといろんな人に幸せになってほしいなって、そう思うんです」
「……そうか」
それを聞いて自然と思った。
その志の背は押されなければならない。
押してやらなければならないと。
元から料理を覚えたいという熱意と、俺が頼られる胸の高鳴りで押しえようと思ったけど。
それ以上に頑張ってほしいと、そう思ったんだ。
「そんなに大きな目標があるならきっとやれるさ。頑張らないとな」
「はい!」
そう言ってリーナは笑みを浮かべる。
大丈夫だ。
それだけ大層な目的意識があれば絶対に叶えられる、叶えさせる。
……人に教えた事なんてないけど頑張らないとな。
さて、そう思った所で一つの疑問にぶち当たる。
この世界に食事という概念はない。つまりはそれを行う為の調理器具や食材なんかも出回っていない筈だ。
……さて、そんな状況で俺は一体どう頑張ればいいのだろうか?
「私どれだけ厳しい修行にも耐えて見せますよ。ところで少し気が早い気はするんですけど、まずどういう事から始めるんですか?」
うん、気が早いね。お兄さんなんの答えも出てねえよ? 今問題にぶち当たったばっかりだよ?
「あーえーっと……」
とりあえず何も考えていないって正直に言いますかね?
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やった。絞り出た!
でもなんだろう。すっごい事案感が凄いや。
「なるほど。分かりました! じゃあ後でお邪魔させてもらいます!」
いや、お前ももうちょっと躊躇おうよ。成人男性のおうちに一人で簡単に付いていっちゃいけないからね? 世の中くっそ危ないからね? 大丈夫なのかこの子。
……まあいいや。いいのかは知らんけど。
「ああ、もしアレだったら観光また今度にしてもう俺んち来る?」
本日は金曜日で明日明後日は土日で仕事は休みなわけだが、それでも流石に月曜日まで休むわけにはいかない事を考えると、今、月曜日までに避ける時間はあまり多くはない。
別にいますぐ全てを叩き込まなければならない訳ではないけれど、それでもこうして有効活用できる時間があるのなら、それはきっと有効活用しておくべきなのだ。
「そうですね。そうしましょう!」
リーナは好奇心に溢れた声でそう言う。どんだけ嬉しいんだよ。
「あ、でもちょっと待ってもらっていいですか?」
「ん? いいけどどうした?」
「いや、実は私、今ギルドで森の魔獣の討伐を依頼されてまして……その報告に行かないと。ああ、ギルドって言うのはですね――」
そうしてリーナはギルドの説明をしてくれた。
でもまあ何の偶然か大体イメージ通りだったというか、冒険者が依頼を受ける組合みたいなところだった。そこでリーナは今あの森に出現していると噂されていた魔獣(仮称・ライオンさん)の討伐依頼を受けていたらしい。
「すげえな、普段からそんな仕事してんの?」
「こう見えて10年に1人の天才って言われてるんですよ。知らない内に戦乙女とかいう二つ名まで付けられちゃってるみたいで」
それを少しドヤ顔で言ったリーナはこう付け加える。
「まあもう廃業予定ですけどね」
「止めんの?」
「だって私の夢は料理人ですもん」
「お、おう……」
うわぁ10年に一人の天才を……戦乙女を見習い料理人に転職させちゃったよ! えぇ……いいのかこれ。
これ背中を押してやりたいとか押さないといけないとか考えちゃったけど、おかしな方向に導いて崖から突き落としてない俺。大丈夫このこの人生。責任持てないよ俺。
……これはあまりに責任重大すぎだぞオイ。
「じゃあ行きましょうか」
「そ、そうだな」
こうして俺はとんでもない責任を背負わされた気分になりながら、彼女と共に一旦自宅に戻る事にした。
……本当に良かったのだろうか。
この子のジョブチェンジの事も。あとこの位の子を家に連れ込む事も。
いや、なんかとっても業が深いね。
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