最強スキルがあることを主人公はまだ知らない。だから必死にゴブリンと向き合います。
猫耳ナデコは処女、そしてヤンキー女戦士の秘密。
ぼくはアルティーニさんのアドバイスを聞き入れ、それを早速実行しようとある店の前に立っている。決して豪勢ではないが、古めかしさが逆に長い歴史を物語っているようで趣のある石造りの建物。イェーナの街のほとんどが木材などを使って建てられた建物ばかりなので、余計に目立つ。よってこの店の前をパーティの集合場所と定めているパーティもある、という。
この店の名は――猫耳ナデコのキャットフードと呼ばれる酒屋。小さなこの街イェーナ唯一の酒屋である。
そして尚且つ冒険者にとっての情報収集の貴重な場所。……まあ、冒険者ギルドのイェーナさんいわく街の日の当たらない路地裏にはヤミ市なるもう一つの情報収集の場があるというけれど……ぜひともそこにはお世話にならずにお天道様に顔向けできるような冒険者人生を送っていきたいものだ。
ぼくはドアノブを右に回し、ドアを開けた。
――パーティメンバーと仲良くなる方法? そんなの決まってるん。相手のことを知るってことっちゃ。まあ、言い換えたら、弱みを握ってくさいってこと。
そのアルティーニさんのアドバイスを果たしに、いざ前進!
■■■
「いらっしゃいにゃあ。おひとりさんま! かにゃ?」
「あっ、はいっ」
<猫耳ナデコのキャットフード>の入り、最初に飛び込んできたのは猫耳のカチューシャを着けメイドのような純白のふりふりとしたエプロンを来たウェイトレス。
……てっきり、店名から獣人族みたいな人がこのお店を営んでいると早とちりしていたけど……まさかカチューシャとは。めっさ、かわいい。
そのウェイトレスに案内され、お店の奥の方のカウンターにぼくは座る。まわりを見渡すにカウンターはお一人様専用の場所らしい。
「もしかして、お客様、童貞かにゃ?」と猫耳ウェイトレス。
「あっはい。一応。……ってええ、おい!!」
いや、なに言ってんの、このひと。
いや、なに言ってんの、ぼく。童貞ってバレちゃたじゃない。まあ、でも言い直せばばれねえか。
「いや、童貞ではない、です」
「かおで童貞ってわかるにゃあ」
はい、ダメでした。ばれました。
「あっ……にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃああああああ!!」急に大声を上げ、彼女の綺麗な黒髪でさえ変色してしまいそうに顔を紅潮される猫耳ウェイトレス。
「ど、どうかしましたか?」こんな質問するのもおかしい気もするけど。
顔をうつむかせながら、「ま、まちがえた、にゃ。童貞っじゃなくてにゃ、見習い《ルーキー》かって、聞こうとしたのにゃ。……にゃのに、にゃのに、にゃのに!」
ぼくの顔面に突然の猫パンチ!
「はあ!? いったああっ」
「せきにん、とれにゃああ!!」
続けざまの猫パンチ!
いや、普通に痛いから!
「なっなんの責任ですかああ!?」
「わたしの処女を奪ったせきにんにゃっ!」
あっ……このひと処女なんだあ。へえ、なんか、心があったまるね。
「しょ、しょ、処女じゃないにゃああ!」
完全な自爆である。
「むむむ、むしろ、ヤリマンにゃああ!!」
「いや、振れ幅の大きい女だなあ、おいっ!」
少し落ち着いたのか、連続の猫パンチをやめる猫耳ウェイトレス。顔は以前とゆでダコのように真っ赤っ赤のままだが。
何を思い立ったのか、猫耳ウェイトレスはふりふりのエプロンのポケットから長方形の紙を取り出し、ぼくに渡す。
それには、<猫耳ナデコのキャットフード>店長ナデコと書かれていた。どうやら名刺のようだ。なんかキャバクラみたい……あれ? キャバクラってなんだっけ。いかがわしいってことはわかるけど。
「二日に一回はこのお店に来ることにゃっ。ナデコの指名つきでにゃあ。約束にゃ。いやにゃ、脅迫にゃ!」
「えっ、いや、自分、おかねぜんぜんないんで――」
猫耳ウェイトレスあらため――ナデコは急にぼくの耳に顔を近づけ、耳打ちする。シャンプーの香りかわからないが、女性特有の香り。柑橘系のさっぱりとしたにおい。
「せきにん、とってにゃ」
そう言ってすぐにぼくのもとから立ち去っていくナデコ。
……はあ。ぼくはそう溜息を吐いて、紅潮してしまった顔を隠すため、カウンターにうつ伏せになる。
これから情報収集するために頭も顔もこころも、冷やさなきゃ。
そして、ぼくはある程度落ち着いてから、ぶどう酒を注文し、女戦士さんと神官のゴンの情報収集を開始した。
あれ? 未成年だけど、飲酒ってこの世界いいんですか?
■■■
ぼくはパーティーの集合場所である冒険者ギルドイェーナ支部へと着いた。集合時間の一時間以上前に。早朝のため、辺りは少し暗く、そしてさむい。
当然、神官のゴンの姿はない。きっと初日のときと同じように十分前には来てくれるのだろう。
だが――、
「へっくしゅん」
かわいらしいくしゃみ。ほんと、きのうのひとと同一人物とは思えないくらい。
「おはようございます、女戦士さん」
「きゃっ」
前から女戦士のもとへと向かったのにもかかわらず、ぼくの存在に気づいてしなかったようで、驚きの女性らしい声をあげる。まあ、集合時間の一時間前には来ないだろうと決め込んでいたのだろう。
「な、なんで、おめえがいんだよ」
女戦士さんは、こころの奥底の何かを隠すため、ひとつのキャラクターを演じさせる。
もう、いいのに。
「女戦士さん、ひとつ質問してもいいですか?」
「……はあ?」
咳払いするぼく。
「もしかして、女戦士さんって、ひきこもり、ですか?」
無慈悲な冷たい朝風がぼくの頬をなでる。姿をようやく表した陽光が地面を徐々に薄っすらと彩ってゆく。じっとぼくを見つめていた女戦士さんは視線をゆっくりとその地面へと移した。
「どこまで、知ってるの?」
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