最強スキルがあることを主人公はまだ知らない。だから必死にゴブリンと向き合います。
個性派揃いのパーティーメンバー
ぼくは自己紹介を終え、
「あの……お名前、聞いてもいいですか?」
ぼくは恐る恐る自分より年上で、身長も自分より数段高い神官の男性に声をかける。神官の男性は視線をうようよと、もしくはきょろきょろと怯えた小動物のようなにしながら、開口する。
「ご、ごっ、ごっ、ゴン」
「ん? ゴン?」
「へぇ。……あっ、はい」
ゴンっていう名前なんだ……。なんか、イメージと合わなすぎて、逆にかわいそう。
ってか、へえってなんだよ。どこの百姓だよ。
「……」
「……」
やべえ。こんなに沈黙って怖かったっけ……。
ぼくは思わず、この永遠と続いてしまいそうな静けさにいたたまれなくなり、咳払いをして、横目でゴンを見つめる。
ひょろっというような言葉がこの世で一番似合いそうな男性。背もひょろっと高く、足も手をひょろっと長い。ぜひともアルティーニさんと横に並んでいる姿を見てみたい。
「来ないですね、戦士さん」
「はっ、はい」
「どうします? 待ちます?」
「……どっ、どどどどっど、どっちででも」
なにそれ。どっちでもってなんだよ。はっきりしてくれよ。
これはアルティーニさんから聞いた話だけれど、神官という職業は希少職業らしく、そして尚且つパーティーメンバーの中で、作戦を立て実戦にて支持をするべき重要な役割を持つという。要するにパーティー内の核というべき存在なのだ。
なのに、ねえ。この状態のままだとぼくがパーティーのリーダーをやらないといけなくなってしまうかもしれない。まあ、そうなってしまったら、やるしかないんだけどさ。
まあ、でも、まだ戦士さんと会ってないからこれから先のことはわからないけれど。もしかしたらリーダーシップの塊みたいな人かもしれないし。
――そういう……気むずかしいひとの集まり、それがイェーナなんや。
思い起こされる昨日の忘れたい記憶。そんな可能性なんか微塵もないか。
「じゃ、待ってて時間を無駄にしてしまうのももったいないし、行っちゃいましょうか。鬼怒の森へ」
■■■
「遅ええよ、おめえら!」
とぼくらのいる後ろを振り返り、そう言いながら、ゴブリンの姿を見ずに殴り切る女性の戦士らしき人物。半袖の白いシャツにミニのスボン、というような軽装。とてもじゃないけど、この服だけでは戦士とは判断できない。イメージとしては酒場の若女将みたいな感じ。ジョッキのビールが似合いそう。
彼女が戦士だと判断できた理由は一つ。ファルシオンと呼ばれる戦士がよく好んで使用するという刀剣を所持しているということ。
もしかして……だけど。もしかして……。
「もしかして、アルティーニさんから紹介された戦士さんってあなた――」
「そうつってんだろ」
ぼくが言い終わらないうちに言葉を紡いでしまう。はっきりいってぼくの苦手なタイプ。
しばらく女戦士を見つめる、ぼく。赤髪に、女性とは思えないような鋭いネコのような目。全体的にすらっとしていてモデル体型。美女の無駄遣いとはこういう人のことを言うんだと思う。
品定めしているように見えてしまったのか、ぼくを睨んだ女戦士は、
「早く行くぞお、おらああ。おめえらが遅れたぶんを取り返しになあ!!」
いや、遅れたの、あなたのせいですからね。
ぜったい集合場所間違えたでしょ?
■■■
「さっさと回復しろや、おらああ」
「へ、へっ、へえい」
「はあ? なにその顔、きもっ」
「……ぐっ、ぺぺえぺへ、ぐはあ」
「はあ!? おまえ、なんのために冒険者やってんの?」
「イェーナさんに拾ってもらいまして……はい」
「へえええええ。イェーナさんに拾ってもらったから、しょうがなく冒険者ギルドに入って冒険者やってんだあ。金と女、ただそれだけのために冒険者、そんな職業やってってんのか」
「女のためってわけではないですけど……」    
「黙ってろ、童貞」
「……いや、それ関係なくないで――」
「文句あんのか、おらああ」
「はい、すみません」
とまあ、こんな感じに言われほうだいされ、初めてのパーティーでの集団行動は失敗に終わり、午後の強い日差しに嫌気を感じながら、ぼくは訓練場のドアの前にノックもせずにただ呆然と立ちすくんでいる。
「……はあ」と思わずため息。ため息をいくら重ねたって何も解決なんかしないけれど、思わず出てしまう。
本当にひどかった。もうパーティーで活動してなかったといっても過言ではないくらい。女戦士さんは一人で先頭を切って、ゴブリンを続々と切り倒し、ただそれを見ながら、追いかけるぼくと神官のゴン。
ふいにゴンを呼んだと思ったら、自身のちょっとしたかすり傷を回復させるだけ。ぼくも必死に女戦士さんの少しでも役に立とうと助太刀をしようとしたが……邪魔の一言。
そして金。ゴブリンの場合、倒したあと魔石とよばれる換金可能なアイテムがドロップし、通常それをパーティーのみんなで山分けするっていうのが暗黙のルールなんだけど、女戦士は、
「はあ? 山分け? ほとんどわたしの功績だろ。甘えてんじゃねえよ」
とぼくの進言を抹殺。でも、まあ、正論なんだけどさ。
……ソロのほうが良かったかなあとふいに思ってしまう。ゴブリンが倒せないから、お金が稼げないから、こうしてパーティーを作って活動しようとしたんだけど、早計だったのかもしれない。今ならパーティーとしての行動をやめられるかもしれないけれど……。
いや、よくないな。こういうこと思うの。たぶんよくない。それになんだか、あきらめるのも癪に障る。
もうすこし頑張ってみようよ、ユウキ。
ぼくは訓練場のドアをノックし、開ける。
「おかえりんご!! きみちゃんっ」
満面の笑みで迎え入れてくれるアルティーニさん。
「アルティーニさん、ぼくにパーティーメンバーと仲良くなる方法を教えていただいてもいいですか?」
がんばれ、自分。
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