僕の彼女は……です。後輩「何言ってるんですか?先輩?」幼馴染「彼女?彼女って何?」
【ヒロインを幼馴染に設定しますか?】『YES / NO』 【『YES』を選択しました】
ピーンポーン。
家のチャイムが鳴った。
この音を聞き、鞄を持って玄関を開ける。
開けた先に居るのは僕の幼馴染だ。
副生徒会長でもある。
「おはよう。幼馴染」
「おはよう! 僕君!」
幼馴染はいつもテンションが高い。
朝だというのにご苦労なことだ。
「目にくまできてるけど……どうせ、昨日も変なことしてたんでしょ?」
「ちげぇーよ。昨日は色々と忙しかったんだ」
玄関を出て、道路に出るとそこに後輩ちゃんが居た。
電柱の後ろに隠れているつもりらしいが、丸見えである。毎日の様に後輩ちゃんを見るけど何をやっているのだろうか?
気になって仕方がない。
「どうしたの? 僕君、変なところみて」
「いや。なんでもねぇーよ。それで今日は良かったのかよ。幼馴染、挨拶運動とかあるんじゃないのか?」
僕達の学校の生徒会は朝の挨拶運動というものがある。校門に立って、生徒全員に挨拶するというものだ。
「あぁー。今日はいいんだ。今日は」
「どうしてだよ? そんなわけにはいかねぇーだろ。
何かあったのか? 生徒会で」
「べ、別に何もないよ! 別に……」
幼馴染の顔が少し曇った。
俺はこの表情を昔も見たことがある。
この顔は彼女が何か悩んでいる時の顔だ。
助けてやりたいという気持ちもあるが、彼女も高校生だ。昔の彼女ではない。自分の力で解決するだろう。
「まぁ、何かあったんだったら頼ってくれよ。
いつでも助けに行くからさ」
「いつでもかぁー。本当に?」
「本当だよ。神に誓うぜ」
「神じゃなくて、私に誓ってよ」
「分かった分かった。女神、幼馴染に誓うよ」
「口だけじゃ分かんないよぉー! ちゃんと何かはっきりと証明できるものがほしい!」
「証明できるもの? そんなこと言われてもなぁ〜。
例えばどんなものだ?」
「形に残るもの。例えば、お揃いのストラップとか。
べ、別に……き、キ……すぅとかでもいいけど」
「お揃いのストラップかぁー。確かに良いかもな。
よしっ、じゃあ今日買いに行こうか?」
「…………うん」
釈然としない表情で幼馴染が頷いた。
✢✢✢
「あぁ〜これがいいわ! ちょうちょう、ちょう、可愛い! 僕君はどう思う?」
いつも見せない笑顔をした幼馴染がストラップを手に取って、俺に見せる。
「良いかもな。可愛いと思うぞ」
「そうだよねぇ〜。よしっ、これにしよ! で、でもなぁ〜。これも可愛いし……う〜ん。選べないよ。
ねぇねぇ、僕君。どうしたら良いと思う? 」
「そうだなぁー。二つとも買うのは僕の財布が痛いから無理として……最初に選んだ方が良いと思うぞ」
「そっかぁー。よしっ、じゃあ、これにする!」
「はいっ!」と手渡しされた。
レジで購入する際に「可愛い彼女さんですね」と店員さんに言われたので慌てて「違いますよ」と反論したけど、笑って誤魔化された。
絶対に勘違いされたよな。
だけど幼馴染は可愛いよな。
俺の自慢の幼馴染だし。
もしも幼馴染に他の男とか居たら……。
あぁーいかんいかん。そんなことを考えてはいかん。
俺と……はただの幼馴染であって、恋人では無いし。
「ほらっ、幼馴染。買ってきたぞ!」
「ありがとぉー。僕君。次はアイス食べたい!」
この日は幼馴染に色々と連れ回されたが、かなり楽しかった。アイス食べたり、ゲーセンでぬいぐるみ取ったり、迷子の女の子を助けたり、幼馴染の洋服を見たり、最新作ラノベを見たり。
今日一日、色々とあったけど最高に楽しかった。
僕はこの日を絶対に忘れないだろう。
っていうか、これって世間一般的に言うデートなんじゃ?
いや、違う違う。あれはただの幼馴染との腐れ縁みたいなものだ。
うん、そうだ。そうに決まっている。
その日、僕は幼馴染を考え過ぎて全く眠れなかった。
✢✢✢
ピーンポーン。
インターホーンがいつもの様になる。
でも……少し早いような。
まぁ、そういうことはどうでもいいさ。
僕は急いで鞄を持って、ドアを開ける。
そこに居たのは後輩ちゃんだった。
「あれ? 後輩ちゃん……? どうしたの?」
僕が尋ねると後輩ちゃんは言った。
「どうしてですか……? どうして……ですか?」
後輩ちゃんが涙を流しながら、僕を睨みつけてきた。
「あの……どういうこと? どういうこと? 後輩ちゃん?」
「どうして、先輩は私のことを見てくれないんですか!
私は先輩のことしか見てないのに、私は先輩のことしか考えていないのに。どうして、先輩は幼馴染さんばかりを見るんですか? 何故なんですか?」
後輩ちゃんの涙が頬へと伝わり、地面へと落ちた。
アスファルトでできた地面には雫が浮かび上がった。
「じゃあ、逆に聞くけど……後輩ちゃんは僕をどうして付きまとうのかな?」
後輩ちゃんの息が少し荒くなった。
「そんなの決まってるじゃないですか……。
私、先輩のことが好きで、好きで……毎日毎日、一生懸命弁当を作って、だけど先輩には……という可愛い可愛い幼馴染さんが居て。私には絶対に勝てません。
あんな……人には勝てませんよ。幼馴染さんは頭良くて、スタイル抜群で、皆から信頼も厚く副会長をしているあんな人にどうやって勝てって言うんですか!」
後輩ちゃんは僕に言ってくれた。
僕に『好き』と言ってくれた。
「それなのに夢に出てくる先輩はいつもいつも私に優しくしてくれて……私はそんな先輩にいつも助けられて……。だけど、それは所詮夢で。夢の中の先輩は私を選んでくれて。とっても嬉しかったんです……。
だけど現実は……現実は……」
後輩ちゃんは僕に抱きついてきた。
僕は後輩ちゃんの頭を撫でる。
「後輩ちゃん。僕もね、好きな人が居るんだ。
その人は努力家でいつも皆が見てない所で必死に頑張ってて、周りからの信頼も厚いし、勉強もできる。
おまけにスポーツもできるんだ。だけどさ、だけどね後輩ちゃん。こんな完璧超人な幼馴染でも欠点があるんだ」
「それはね――」
僕が言おうとした時、幼馴染がやってきた。
そして僕を睨みつけて言った。
「このバァーか!」
その目には涙が溢れていた。
僕は彼女が何故、努力するのか疑問だった。
何故彼女が副生徒会長になったのか。
ずっとずっと疑問だった。
幼馴染はスポーツもできるし、勉強もできる。
おまけに性格も良くて、超絶完璧超人。
実際言ってこんなのチートだろ。人生勝ち組過ぎるだろ、そんな気持ちがある。
だけど、よくよく考えてみろ。
こんなラノベのヒロインみたいな女の子居るわけが無いのだ。この世界に。
僕は中学の頃、幼馴染にこんなことを聞かれたことがあった。
『ねぇー付き合うならどんな女の子がいい?』
俺はそれを自分の理想とする女の子を言った。
『可愛くて、スポーツができて、勉強もできて、性格もできて、あぁーそうだなぁー。完璧超人が良いかな?
あ、それで生徒会長とかだったら良いかもな』
僕はこんなことを言った記憶がある。
そう思えば、彼女が変わったのはこの日以来だった。
いつもは引っ込み思案な幼馴染が自分から色々とこなしていくようになったのは。
自ら変わろうと学級委員になったり、実行委員になったり、し始めたのは。
なんで……僕は気付かなかったんただろう。
こんなことに。こんなにも近くに居たのに。
いや、こんなにも近くに居たから気づかなかったのか。
僕は馬鹿だった。
「後輩ちゃん。ごめん。僕、行ってくるよ」
「せ、先輩……行かないでください!」
動こうと思った瞬間、腕を掴まれた。
「何故なんですか? 何故……私じゃだめなんですか?」
後輩ちゃんが僕に尋ねてくる。
確かに後輩ちゃんは可愛い。
それにドジっ娘で、面白い。
会話は実際後輩ちゃんと居た時の方が面白いし、弾む。
だけど……だけど……。
「好きだから。これだけじゃダメかな?」
「ダメです! 納得できません!」
後輩ちゃんは離してくれない。
「じゃあ、これならいい?
僕の理想の女性だから」
「納得できません! 私も……私も……先輩の為にと、毎日毎日努力してるんですよ! 胸はまだまだですけど……これから絶対に大きくなる予定です! それでもダメなんですか? それでも……私は幼馴染さんに負けてしまうんですか?」
「うん、ごめんね。後輩ちゃん。
僕は別に幼馴染の身体とか、性格とか、勉強ができるからとかスポーツができるとか、そんな完璧超人だから好きっていうわけじゃないんだ。
ただ、僕が彼女の側にいたい。彼女の役に立ちたいと思っている。それだけなんだよ」
「せ、先輩……それセコすぎます! せこいです!
私だって、私だって……先輩の役に立ちたいんです!
先輩の側に居たいんです! 先輩の……。先輩の……」
「ごめん、後輩ちゃん。
僕は幼馴染の所に行くよ」
後輩ちゃんの頭をもう一度撫でてあげると後輩ちゃんの手はスルスルと外れていった。
女の子をあんなにも泣かしてしまったという後悔が生まれたが、仕方ない。
僕は幼馴染のことが好きだから。
幼馴染を追いかけてみたが、全く見つからなかった。
もう学校に着いたのかもしれないと思い、校門に立っていた生徒会長に尋ねてみたが、見てないと言われた。
生徒会長も心配そうな表情をしていた。
良い生徒会長である。
そうだ。携帯に電話してみれば……。
携帯を取り出し、かけてみる。
だが、学園ドラマのお約束的展開のように着信できなかった。携帯の充電が無くなったのか、電源を切っているのか分からない。
昔……こんな時。幼馴染はどこにいたっけな?
僕は考えてみた。幼馴染は昔、大好きなクマの人形を持って、公園へと着ていたな。
それで一人寂しく、クマさんと一緒に遊んでいたっけ?
とりあえず、公園に向かってみるか。
僕は急いで向かった。
そこにはやはり、ベンチに座った幼馴染の姿があった。走ったので息切れ状態だ。
「やっと……見つけたぞ。幼馴染」
「……………………」
幼馴染は黙って、先日買ったストラップを触っていた。彼女はそのストラップを鞄につけていた。
正直、めちゃくちゃ嬉しかった。
「さっきのは誤解なんだ。幼馴染……僕は……僕は」
言葉が詰まる。
この言葉を言ってしまえば僕と幼馴染の関係が壊れる可能性がある。だけど……。
さっきまでの後輩ちゃんの姿が蘇る。
その時だった。
公園の外から声がした。
「先輩ぃぃぃーーー! 私を振ったんですから、絶対に成功してくださいぃぃぃぃーー!」
後輩ちゃんの声である。
涙を流していたせいか、声がガラガラだった。
あまり声は聞こえてこなかったが、気持ちは十分伝わった。
僕も言わなければならない。
「幼馴染、お前はずっと頑張っていたんだな。
俺、そんなこと全く気づかなかったよ。いつもいつもなんであんなに頑張ってるんだろうと思ってた。
生徒会長になれなかったとき、めちゃくちゃ落ち込んでいる幼馴染を見て、僕は不安に思ったよ。
なんであんなにも悲しんでるんだろうって。
副生徒会長でも凄いじゃんって思ってさ。
でも……お前は違ってたんだな。幼馴染にとって、生徒会長というものは大きいものだったんだなって思ってさ……。本当にごめん……全く気づかなかったよ。
本当にごめんな……幼馴染」
幼馴染の目からは涙が溢れ出す。いつもはあまり表情に出さない彼女も顔に出ていた。
「……………………」
彼女は何も言わなかったが、ずっと顔を隠して泣き続けた。そんな彼女の隣に座り、彼女の身体を擦った。
――十分ぐらい擦り続けた時だろう。
幼馴染が言った。
「ごめんね。……君の理想の女性になれなくて」
何言ってんだよ。幼馴染。
お前は既に僕にとっての――。
「理想の女性では無いかもしれない。だけどね、幼馴染。君は既に僕にとっての理想の彼女だよ」
彼女は僕に抱きついてきた。
仄かないい匂いがした。
「幼馴染、僕と付き合ってくれないか?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
こうして、僕達は付き合い始めた。
といっても僕達二人の関係はあまり変わってはいない。
あると言えば、手を握ったことだけか。
まだ今はそんなことしかできないけど、将来的にはキスとかもするのかもしれない。
その時までに練習しておかないといけないな。
ちなみに僕の彼女と後輩ちゃんは仲良しである。
✢✢✢
だけど僕達はまだ気づいていなかったんだ。
ある人が僕達の愛を引き裂こうとしていることに。
家のチャイムが鳴った。
この音を聞き、鞄を持って玄関を開ける。
開けた先に居るのは僕の幼馴染だ。
副生徒会長でもある。
「おはよう。幼馴染」
「おはよう! 僕君!」
幼馴染はいつもテンションが高い。
朝だというのにご苦労なことだ。
「目にくまできてるけど……どうせ、昨日も変なことしてたんでしょ?」
「ちげぇーよ。昨日は色々と忙しかったんだ」
玄関を出て、道路に出るとそこに後輩ちゃんが居た。
電柱の後ろに隠れているつもりらしいが、丸見えである。毎日の様に後輩ちゃんを見るけど何をやっているのだろうか?
気になって仕方がない。
「どうしたの? 僕君、変なところみて」
「いや。なんでもねぇーよ。それで今日は良かったのかよ。幼馴染、挨拶運動とかあるんじゃないのか?」
僕達の学校の生徒会は朝の挨拶運動というものがある。校門に立って、生徒全員に挨拶するというものだ。
「あぁー。今日はいいんだ。今日は」
「どうしてだよ? そんなわけにはいかねぇーだろ。
何かあったのか? 生徒会で」
「べ、別に何もないよ! 別に……」
幼馴染の顔が少し曇った。
俺はこの表情を昔も見たことがある。
この顔は彼女が何か悩んでいる時の顔だ。
助けてやりたいという気持ちもあるが、彼女も高校生だ。昔の彼女ではない。自分の力で解決するだろう。
「まぁ、何かあったんだったら頼ってくれよ。
いつでも助けに行くからさ」
「いつでもかぁー。本当に?」
「本当だよ。神に誓うぜ」
「神じゃなくて、私に誓ってよ」
「分かった分かった。女神、幼馴染に誓うよ」
「口だけじゃ分かんないよぉー! ちゃんと何かはっきりと証明できるものがほしい!」
「証明できるもの? そんなこと言われてもなぁ〜。
例えばどんなものだ?」
「形に残るもの。例えば、お揃いのストラップとか。
べ、別に……き、キ……すぅとかでもいいけど」
「お揃いのストラップかぁー。確かに良いかもな。
よしっ、じゃあ今日買いに行こうか?」
「…………うん」
釈然としない表情で幼馴染が頷いた。
✢✢✢
「あぁ〜これがいいわ! ちょうちょう、ちょう、可愛い! 僕君はどう思う?」
いつも見せない笑顔をした幼馴染がストラップを手に取って、俺に見せる。
「良いかもな。可愛いと思うぞ」
「そうだよねぇ〜。よしっ、これにしよ! で、でもなぁ〜。これも可愛いし……う〜ん。選べないよ。
ねぇねぇ、僕君。どうしたら良いと思う? 」
「そうだなぁー。二つとも買うのは僕の財布が痛いから無理として……最初に選んだ方が良いと思うぞ」
「そっかぁー。よしっ、じゃあ、これにする!」
「はいっ!」と手渡しされた。
レジで購入する際に「可愛い彼女さんですね」と店員さんに言われたので慌てて「違いますよ」と反論したけど、笑って誤魔化された。
絶対に勘違いされたよな。
だけど幼馴染は可愛いよな。
俺の自慢の幼馴染だし。
もしも幼馴染に他の男とか居たら……。
あぁーいかんいかん。そんなことを考えてはいかん。
俺と……はただの幼馴染であって、恋人では無いし。
「ほらっ、幼馴染。買ってきたぞ!」
「ありがとぉー。僕君。次はアイス食べたい!」
この日は幼馴染に色々と連れ回されたが、かなり楽しかった。アイス食べたり、ゲーセンでぬいぐるみ取ったり、迷子の女の子を助けたり、幼馴染の洋服を見たり、最新作ラノベを見たり。
今日一日、色々とあったけど最高に楽しかった。
僕はこの日を絶対に忘れないだろう。
っていうか、これって世間一般的に言うデートなんじゃ?
いや、違う違う。あれはただの幼馴染との腐れ縁みたいなものだ。
うん、そうだ。そうに決まっている。
その日、僕は幼馴染を考え過ぎて全く眠れなかった。
✢✢✢
ピーンポーン。
インターホーンがいつもの様になる。
でも……少し早いような。
まぁ、そういうことはどうでもいいさ。
僕は急いで鞄を持って、ドアを開ける。
そこに居たのは後輩ちゃんだった。
「あれ? 後輩ちゃん……? どうしたの?」
僕が尋ねると後輩ちゃんは言った。
「どうしてですか……? どうして……ですか?」
後輩ちゃんが涙を流しながら、僕を睨みつけてきた。
「あの……どういうこと? どういうこと? 後輩ちゃん?」
「どうして、先輩は私のことを見てくれないんですか!
私は先輩のことしか見てないのに、私は先輩のことしか考えていないのに。どうして、先輩は幼馴染さんばかりを見るんですか? 何故なんですか?」
後輩ちゃんの涙が頬へと伝わり、地面へと落ちた。
アスファルトでできた地面には雫が浮かび上がった。
「じゃあ、逆に聞くけど……後輩ちゃんは僕をどうして付きまとうのかな?」
後輩ちゃんの息が少し荒くなった。
「そんなの決まってるじゃないですか……。
私、先輩のことが好きで、好きで……毎日毎日、一生懸命弁当を作って、だけど先輩には……という可愛い可愛い幼馴染さんが居て。私には絶対に勝てません。
あんな……人には勝てませんよ。幼馴染さんは頭良くて、スタイル抜群で、皆から信頼も厚く副会長をしているあんな人にどうやって勝てって言うんですか!」
後輩ちゃんは僕に言ってくれた。
僕に『好き』と言ってくれた。
「それなのに夢に出てくる先輩はいつもいつも私に優しくしてくれて……私はそんな先輩にいつも助けられて……。だけど、それは所詮夢で。夢の中の先輩は私を選んでくれて。とっても嬉しかったんです……。
だけど現実は……現実は……」
後輩ちゃんは僕に抱きついてきた。
僕は後輩ちゃんの頭を撫でる。
「後輩ちゃん。僕もね、好きな人が居るんだ。
その人は努力家でいつも皆が見てない所で必死に頑張ってて、周りからの信頼も厚いし、勉強もできる。
おまけにスポーツもできるんだ。だけどさ、だけどね後輩ちゃん。こんな完璧超人な幼馴染でも欠点があるんだ」
「それはね――」
僕が言おうとした時、幼馴染がやってきた。
そして僕を睨みつけて言った。
「このバァーか!」
その目には涙が溢れていた。
僕は彼女が何故、努力するのか疑問だった。
何故彼女が副生徒会長になったのか。
ずっとずっと疑問だった。
幼馴染はスポーツもできるし、勉強もできる。
おまけに性格も良くて、超絶完璧超人。
実際言ってこんなのチートだろ。人生勝ち組過ぎるだろ、そんな気持ちがある。
だけど、よくよく考えてみろ。
こんなラノベのヒロインみたいな女の子居るわけが無いのだ。この世界に。
僕は中学の頃、幼馴染にこんなことを聞かれたことがあった。
『ねぇー付き合うならどんな女の子がいい?』
俺はそれを自分の理想とする女の子を言った。
『可愛くて、スポーツができて、勉強もできて、性格もできて、あぁーそうだなぁー。完璧超人が良いかな?
あ、それで生徒会長とかだったら良いかもな』
僕はこんなことを言った記憶がある。
そう思えば、彼女が変わったのはこの日以来だった。
いつもは引っ込み思案な幼馴染が自分から色々とこなしていくようになったのは。
自ら変わろうと学級委員になったり、実行委員になったり、し始めたのは。
なんで……僕は気付かなかったんただろう。
こんなことに。こんなにも近くに居たのに。
いや、こんなにも近くに居たから気づかなかったのか。
僕は馬鹿だった。
「後輩ちゃん。ごめん。僕、行ってくるよ」
「せ、先輩……行かないでください!」
動こうと思った瞬間、腕を掴まれた。
「何故なんですか? 何故……私じゃだめなんですか?」
後輩ちゃんが僕に尋ねてくる。
確かに後輩ちゃんは可愛い。
それにドジっ娘で、面白い。
会話は実際後輩ちゃんと居た時の方が面白いし、弾む。
だけど……だけど……。
「好きだから。これだけじゃダメかな?」
「ダメです! 納得できません!」
後輩ちゃんは離してくれない。
「じゃあ、これならいい?
僕の理想の女性だから」
「納得できません! 私も……私も……先輩の為にと、毎日毎日努力してるんですよ! 胸はまだまだですけど……これから絶対に大きくなる予定です! それでもダメなんですか? それでも……私は幼馴染さんに負けてしまうんですか?」
「うん、ごめんね。後輩ちゃん。
僕は別に幼馴染の身体とか、性格とか、勉強ができるからとかスポーツができるとか、そんな完璧超人だから好きっていうわけじゃないんだ。
ただ、僕が彼女の側にいたい。彼女の役に立ちたいと思っている。それだけなんだよ」
「せ、先輩……それセコすぎます! せこいです!
私だって、私だって……先輩の役に立ちたいんです!
先輩の側に居たいんです! 先輩の……。先輩の……」
「ごめん、後輩ちゃん。
僕は幼馴染の所に行くよ」
後輩ちゃんの頭をもう一度撫でてあげると後輩ちゃんの手はスルスルと外れていった。
女の子をあんなにも泣かしてしまったという後悔が生まれたが、仕方ない。
僕は幼馴染のことが好きだから。
幼馴染を追いかけてみたが、全く見つからなかった。
もう学校に着いたのかもしれないと思い、校門に立っていた生徒会長に尋ねてみたが、見てないと言われた。
生徒会長も心配そうな表情をしていた。
良い生徒会長である。
そうだ。携帯に電話してみれば……。
携帯を取り出し、かけてみる。
だが、学園ドラマのお約束的展開のように着信できなかった。携帯の充電が無くなったのか、電源を切っているのか分からない。
昔……こんな時。幼馴染はどこにいたっけな?
僕は考えてみた。幼馴染は昔、大好きなクマの人形を持って、公園へと着ていたな。
それで一人寂しく、クマさんと一緒に遊んでいたっけ?
とりあえず、公園に向かってみるか。
僕は急いで向かった。
そこにはやはり、ベンチに座った幼馴染の姿があった。走ったので息切れ状態だ。
「やっと……見つけたぞ。幼馴染」
「……………………」
幼馴染は黙って、先日買ったストラップを触っていた。彼女はそのストラップを鞄につけていた。
正直、めちゃくちゃ嬉しかった。
「さっきのは誤解なんだ。幼馴染……僕は……僕は」
言葉が詰まる。
この言葉を言ってしまえば僕と幼馴染の関係が壊れる可能性がある。だけど……。
さっきまでの後輩ちゃんの姿が蘇る。
その時だった。
公園の外から声がした。
「先輩ぃぃぃーーー! 私を振ったんですから、絶対に成功してくださいぃぃぃぃーー!」
後輩ちゃんの声である。
涙を流していたせいか、声がガラガラだった。
あまり声は聞こえてこなかったが、気持ちは十分伝わった。
僕も言わなければならない。
「幼馴染、お前はずっと頑張っていたんだな。
俺、そんなこと全く気づかなかったよ。いつもいつもなんであんなに頑張ってるんだろうと思ってた。
生徒会長になれなかったとき、めちゃくちゃ落ち込んでいる幼馴染を見て、僕は不安に思ったよ。
なんであんなにも悲しんでるんだろうって。
副生徒会長でも凄いじゃんって思ってさ。
でも……お前は違ってたんだな。幼馴染にとって、生徒会長というものは大きいものだったんだなって思ってさ……。本当にごめん……全く気づかなかったよ。
本当にごめんな……幼馴染」
幼馴染の目からは涙が溢れ出す。いつもはあまり表情に出さない彼女も顔に出ていた。
「……………………」
彼女は何も言わなかったが、ずっと顔を隠して泣き続けた。そんな彼女の隣に座り、彼女の身体を擦った。
――十分ぐらい擦り続けた時だろう。
幼馴染が言った。
「ごめんね。……君の理想の女性になれなくて」
何言ってんだよ。幼馴染。
お前は既に僕にとっての――。
「理想の女性では無いかもしれない。だけどね、幼馴染。君は既に僕にとっての理想の彼女だよ」
彼女は僕に抱きついてきた。
仄かないい匂いがした。
「幼馴染、僕と付き合ってくれないか?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
こうして、僕達は付き合い始めた。
といっても僕達二人の関係はあまり変わってはいない。
あると言えば、手を握ったことだけか。
まだ今はそんなことしかできないけど、将来的にはキスとかもするのかもしれない。
その時までに練習しておかないといけないな。
ちなみに僕の彼女と後輩ちゃんは仲良しである。
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だけど僕達はまだ気づいていなかったんだ。
ある人が僕達の愛を引き裂こうとしていることに。
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