私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~

なぁ~やん♡

三十五話『フレデアイア家の』

 ギルドに戻った私はフィオに出迎えられ、ギルドマスターの部屋に連れて行かれる。勿論そうなるよう交渉したのは名無しだ。
 フレデアイア家の事について、そして撲滅依頼について聞きたいことは多い。まずそんな依頼が張ってあって、何故揉み消されていないかが一番怪しい点だ。
 貴族ならば、汚点となる物は何としてでも排除しようと汚い手を使うのに。

「フレデアイア家? ああ、あの汚れた侯爵家か。ギルドに貼ってあった依頼について聞きたいことがあるのだと思うが、果たして合っているだろうか?」

「フィオさんすごいです。合ってます! 私達、それが聞きたかったんです! なんか、貴族の人たちを撲滅するー、っていう依頼がありまして、それで、ええと、その依頼が何であるのかとか、そーいうことが聞きたいんですよっ」

 ちゃんと言えたかどうか、私は不安である。交渉訓練だと名無しとフーラが私に喋らせたのだが、正直言うと不安しかない。
 そんな顔でフィオの顔を覗くと、彼女はくすくすと笑いながら私の頭を撫でてくれた。
 魔王様が私の頭を撫でるときは、ふんわりと撫でてくれる。でもフィオは、滑るように気持ちよく撫でてくれる。

 どっちがいいかなんて選べないけど、やっぱりフィオは良い人だよね!

「だろうな。あの依頼にはビオフレオの息が掛かってる。丁度お前らも探していただろう。私もこのことを詳しく調査してやろう。今はあまり結果が出ていないが」

「あ、有難うございますっ!」

 ビオフレオの息が掛かっていたとは、さすがの私も思わなかった。
 貴族がどのようなものかの詳細は私も分からないが、確かに怪しい点は多かった。でも、ビオフレオがかかわっていたとは。
 確かに丁度良いけれど、いくら汚れていたとしても、どうして一貴族が巻き込まれているのかも私はとても気になった。

 それを問うと、フィオに「良い質問だ」とまた頭を撫でられる。

「まずは考えられるうちの理由のひとつ。ビオフレオに協力しており、利用価値がなくなったために切り捨てられた。これが一番可能性が高い」

「そうか。ビオフレオは価値を重視しますからね。ステータスを恨む彼らにとって、ステータス持ちはただの道具でしかありませんよね」

 名無しがフィオの言葉に納得したように返す。でも私は納得しない。人はみんな同じなのに、ステータスで差別するなんて駄目に決まってる。
 そんな私の表情に気が付いたのか、フィオは優しい笑みを浮かべた。

「安心しろ。これから貴殿らはビオフレオに対抗するのだろう? その差別も全て改善してやれ。元から私も気分悪く思っていたところだ」

「本当!? フィオさんもそう思ってくれたんだね。私も、がんばる!」

「うむ。それでは何か事態に動向がないか私もできる限り調べておこう。貴殿らも警戒を強めておくことだ。奴らは強者に容赦がない」

「はいっ。フィオさんは何か用事ありますか?」

「私はないな。貴殿らは帰って休むと良い。精気を養っておいた方が身のためだ、これから何が起こるか分からないからな」

「了解しました。ではお言葉に甘えさせてもらいますね。行きましょう」

 フーラは私の手を取ってギルマスの部屋から出た。思わぬ話をたくさん聞いてしまった。聞きたくないような人間関係も、全部。
 こんな人間関係の絡みがある事を、私は知らなかった。魔王軍のみんなはとても仲がいい。フラネスの件もあったけれど、すぐに仲直りしたから。

「……ね、セルカ。今、人間界に来てから何日がたったの?」

「お嬢様……! ……二週間が経っております。魔王様が来るまでは良ければ一週間ちょっと、遅ければ二週間になりますでしょう」

「ああ。そっか、でも安心しなよ。魔王様なら馬車ぶっ飛ばしてくるか、そもそも部下連れて転移魔術で来るかのどっちかだからさ」

 私の気持ちに気付いたフーラがやや寂し気に、名無しが私とフーラをフォローするようにして冗談交じりにそう言う。
 魔王軍の人たちは、みんな優しい。改めて繰り返して、目尻に涙が貯まる。こんな時魔王様なら、もっとみんなに的確な指示が出来たのに。
 こんな時魔王様なら、もっと強く対応していたのに。魔王様なら、たとえ神様だって吹き飛ばしちゃうんだもん。

 私じゃ、こうやって聞き込みをする事しかできない。私は力だけ天才天才って言われてて、魔王様みたいに事実的に強くなんかない。
 魔王様が、一番強いの。だから―――、私は魔王様が一番、大好きなの。
 だから戻ってきて。私は、ふぃりあは、ずっと魔王様のこと待ってるから。

「っ……」

「お嬢様。泣いて構いませんよ。どうぞ、こちらへ……名無し、気を利かせて路地裏を見張っててください。怪しい者が来たらぶっ飛ばすんですよ」

「言われなくともそうするよ。泣いてるフィリアちゃんを邪魔する奴を放っておくほど、僕だって甘くないんだ」

 思わず溢れてくる泪。
 フーラがそれを隠してくれて、路地裏の死角に移動させてくれる。
 名無しが怪しい人が来ないように、じっと見張ってくれている。

 魔王軍の人たちは、とても優しい。私は、ぼろぼろと絶えず涙をこぼした。



「フィリア……?」

 部下は四天王であるサテラ、ライト、アリア、リゼの四人だけを引き連れ、最低限の荷物のみを持って旅をしていた魔王ライテリアがふと明後日の方向に振り返った。
 やや疲労を貯めていた四人は魔王の怪奇な行動に目をきょとんと瞬かせ、あまりの寂しさに幻覚を見てしまったのかと勘違いする。

「魔王様、あの子のいる所はもうすぐっス。さすがに幻覚を見る程じゃないと思うっスよ。いつ見ても親ばかっすね」

「いや、違うんだ。どこかでフィリアの泣いていた声が聞こえて……」

「以心伝心、という奴ですのね。これはすぐに行った方がよさそうですわね。なんかいやな予感がしますのよ」

「サテラの予感はいつも当たる。よし、早めに行こう。ついてこい!」

 ライトの言葉を否定したライテリアの言葉に、サテラが顎についと手を当てて返す。それに頷いたライテリアは皆の足に迅速の魔術をかけた。
 才能はフィリアだが、技術で言えばライテリアが圧倒的だ。だてに魔王ではない。満足いく結果に彼は深くうなずき―――、

 フィリアの元へ疾走するのだった。

 この文体だけを見れば、やはり只の親ばかにしか見えないのが魔王の残念な所であり、また魔王軍にとっての愛着の部分でもある。

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