私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~

なぁ~やん♡

三十二話『ビオフレオの者達』

『………………たった一手。あたしの奥の手、それひとつで貴方は倒される』

 右の長めの前髪を三つ編みにし、左の普通の長さの前髪は眉毛まで垂らされている少女。紫と青の混ざった髪色をしている。
 彼女の前には、幻無の森に迷い込んだそれなりの強さの元冒険者三人。
 彼女ならばわかる。彼らはもとAランク冒険者で、まだ若いが引退したこと。

『ヒッ……お、おれはアストライオスの力を引き継いでいるというのに……』

『ああ、星の神。でもあたしにはかなわない。幻無の森だと知らずに迷い込んだのなら、消えて』

 一人は星の神アストライオスの力を引き継いでいる。恐らく彼がリーダーだろう。アストライオスの力は強く、レアだ。
 少女もただで彼を殺すわけではない。
 対して兄弟だろう二人は風の神々アネモイの『ボレアース』と『ノトス』の力を引き継ぐ強くも弱くもないただの平凡なAランク。
 少女は掌を三人に向けた。三人は死を覚悟する。

『安心して。苦しませない』

―――どこに安心できる要素があるというのか。
 アストライオスの力を引き継いでいるリーダーは残り二人をかばうようにして抱きしめ、少女は舌打ちをして力を放出した。
 アストライオスの力を引き継ぐ男が目を開けると、自分しか残っていなかった。

『少し面倒くさかった。……………キミは必要。残ってくれたら殺さない』

『―――貴方を信じます。アストライオス様がそうおっしゃられております』

 神の力を引き継ぐビオフレオの者達は、その神から助言を貰ったり神託や予言を聞いたりすることもできる。
 男は一瞬諦めたようにしたが、予言を聞いたのか目を輝かせて従うことを決めた。

『あたしの名はエイル。エイル・タナトス。あたしに従ってくれたから許す』

『はっ』

『あ、エイル! また従者探してたの? エイルの従者はみんな優秀だから憧れるよー、対してワタシはまだまだだしね』

『アリエラ……………冥界に行くつもり?』

 冥界の王ハーデースの力を引き継ぐアリエラ・ハーデースは幻無の森を通って冥界に行くことができる。人間ならば入っただけで死んでしまう冥界だが、アリエラならば問題はない。
 四天王の中でアシュリアの次に強いエイルも問題はない。現在冥界に入れるのはアリエラとアシュリアとエイルだけだ。

 エイルの言葉を聞いたアリエラは微笑みながら頷いた。

『うん。アシュリア様から命令を貰ってね、そうだエイル、今回はエイルも一緒に行った方がいいと思う。その命令はエイルにも下されたものだし、エイル成分を補注したい!』

『……アリエラは一か月に一度は来てる。でもあたしも行く。アストライオス、そこにいて。決して幻無の森から出てはだめ』

『はっ』

 言いながらエイルに抱きついたアリエラをエイルは何でもないように引きはがす。アリエラのオレンジ色の瞳がエイルの氷のような瞳をギラギラと照らす。
 月に一度アリエラはエイル成分(?)を補注しに幻無の森へきている。

 エイルは拒否せずアリエラを嬉しそうに迎えていることに二人の仲の良さがわかる。

『そういえば、アウルスには会った?』

『あ、そうか。エイルはめったに此処から出ないもんね。ワタシは会ったよ! 相変わらずステータス画面を捨てられない人間を見下してた』

『ああ、アウルスらしい。それで、王国からの命令はやはりあの人間?』

『あれ、ある程度知ってるんだね、そうだよ。最強の人間を捕獲して洗脳するんだって。使う神様はガイア様だよ』

 エイルはそう、と言って長い袖を地面につけ、足に力を入れ、アリエラは慣れた手つきでもう片方のエイルの手を掴んだ。
 すると、エイルは足にもっと力を入れ、空の上に飛んだ。飛翔は楽勝だ。
 幻無の森ではエイルの導きがなければ冥界にたどり着くどころか出ることすら不可能だ。アリエラは昔此処で迷ったことがある。

―――ガイア。カオス達初期神の中の一人。地母神みたいな立場。

 エイルは飛びながら記憶を漁って情報を取り入れていく。エイルは永遠の時を生きる魔女だ、経験も知識もひとつとびぬけている。

『ガイア様を使う…………賢明な判断。さすが王国』

『まぁねえ……エイルは相変わらず王国に執着心が高いね、羨ましいわぁ王国』

『ん、問題ない。アリエラにも執着心高い』

 ありがとうー、と言ってアリエラはエイルに抱きつく。ある岩の前に来ると、エイルはバッと手を広げた。その瞳は星のように輝いている。
 何もないはずの壁に扉が生じ、それはゆっくりと開くと共に生々しい死の匂いと血の鉄のような味を漂わせた。
 相変わらずの冥界にアリエラもエイルも苦笑いである。

『死の神タナトス様。冥界の神ハーデース様。………本当はハーデース様の方が強い。どうして? どうしてアリエラはあたしを超えない?』

『―――あ、ほら、エイル。冥界の守護天使ミカエルさまだよ』

 あらかさまに話を逸らしたアリエラ。エイルはそんな珍しいアリエラに、話したくないのだろう空気を感じ取った。
 冥界を守るのは本来アリエラだが、彼女の召喚した最上級天使ミカエルに任せている。
 ミカエルさまと呼んでいるのはアリエラの趣味だ。
 ミカエルは祭壇を見つめながら一刻も絶えず祈りを捧げ続けている。

『ミカエル、誰を信じてる?』

『わたくしは、誰も信じておりません。強いて言えば、アリエラ様を信じております』

『うん、及第点。ゆるす』

 エイルはずんずん進み、もう一段階の扉を開いた。そこには冥王が座るべき玉座が闇の光を美しく放っていた。
 アリエラは何でもないかのように冥王の玉座に君臨(座った)した。

『さて。ワタシ達四天王に下った命令はひとつ、最強三人を捕獲して洗脳してくること。一番注意すべきなのは十五歳くらいの明るい少女と謎めいた少年だって』

『あたしたち四人でたった三人を? 今回のはそんなすごい?』

『らしいね。軽くアシュリア様くらいの実力はあるって聞いたけど?』

『分かった。それが王国の命令なら、やる』

 エイルは拳を固く握った。王国へ恩を返すために、彼女は戦い続ける。
 そんな彼女を守るために、アリエラは何度でもエイルの敵を排除し続ける。


―――そして、四天王は成り立っている。

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