私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~
三十一話『神話信仰国の者達』
―――喫茶店にてシオンと駄弁っていると、ふとシオンが顔を険しくして私とフーラと名無しを交互に見つめた。
しばらく迷ったように顔をしかめてからシオンは口を開く。
「目立ちたいですか?」
言葉を限界まで絞ったのだろう。
一番先に出てきた言葉はそれだった。勿論目立ちたい。この世界にフーラと名無しに敵う者はいないと思っている。
そして私に敵う者も少ないとは思っている。
「はい」
なので、私は満面の笑みで肯定した。
シオンはやはりな、と言って人差し指を立て、神妙な笑みを浮かべた。
「きっと神話信仰国が動くと思います」
「神話信仰国……? それって神話を信じる国って感じのですか?」
名前通りだ、とシオンは頷く。名無しは面白くなってきた、というように伸ばしていた背中を椅子にふわりと付ける。
フーラも興味ありげにケーキを頬張る手を一度止めてシオンを見た。
私は相変わらず魔王様にシバかれた余裕の姿勢を崩さず、シオンを見つめる。
「その神話というのは、特に名前は決められてないんです。ただ、ゼウスを筆頭をするオリュンポス十二神がなんだとか……」
「そ、それって……!」
あまりにもの驚きに私は余裕の姿勢を崩し、テーブルに手をバン、と置いて立ち上がった。フーラになだめられてゆっくりすわる。
ゼウス様を筆頭に―――オリュンポス十二神―――それはまるで―――。
私は、神話に興味がなかったわけではない。
ただ地球に居た時間が完全に神話を学ぶことを許さなかった。
しかし有名なゼウス様とオリュンポス十二神は知っている。
「重要なのは、彼らがステータス画面を消したということです。それぞれが神の属性を引き継ぐ―――神王権を持っていることです」
「レガリア……つまり才能、みたいなものですか」
「ええ、そういうことです。ゼウスの属性は雷、そして普通は国王が引き継がれる属性です。最高神なのでとても最強なんですよ、そして彼らは最強な者を集めては洗脳をして、ステータス画面を消してこの国の者にする。そうすると自動的に神の属性が引き継がれることになるのです」
「へぇ、でも神の数が足りないってことは無いんですか?」
「ありません。地帯によって信仰する神話もたまに違いますし、ただこの神話が主なだけです。この神話を信仰するタイプの人間を『ディーオ』といいます。その者の名は苗字を抜いて自動的に神の名が入れられます」
―――元の名を名乗る事すら、許されないのか。
シオンの話をさらに聞くと『ディーオ』は才能ある者には優遇し、才能無き者には差別をする。そんな残忍な国なのだそう。
神話信仰者たちで集めた土地を組み合わせた国の名は―――『ビオフレオ』国王も王女も女王も、国民さえも絶世の美しさがなければ認められない。
そして彼らが私たちを狙ってくる可能性がある、ということだ。
「彼らは勢力が高いです、いくら貴方達が強くても数で押し負ける可能性があります。それに親しい者を人質に取られ戸惑ったら捉えられます。……そこで、取引しませんか?」
シオンは可愛げにウィンクしながら、立てた人差し指を前に差し出す。言っていることは正論なので、とりあえず聞くことにする。
フーラと名無しは交渉のプロでもあるので、問題はないはずだ。
「国王様に会ってくれませんか? 最強の新星として、です。国王様は現在強い者を欲しておりますので……その代わり、賢者である私の優秀な兵は全てお貸ししましょう。そして私も協力致します」
「どうする? ゼロ、セルカ?」
「わたくしは―――いい交渉だと思いますけれど」
「……」
名無しは黙っている。品定めをするかのようにシオンの方を向いている。しばらくして名無しは椅子から優雅に背中を浮かせた。
「僕も、悪いとは思わない」
シオンにとって一番の強敵は名無しだったようで、その言葉を聞いて険しい顔をしていたシオンがふわりと笑顔に戻る。
私としては国王様に会えるのが一番手っ取り早いと思う。魔王様のことをしばらく伝えなければいい、ただそれだけなのだ。
魔王様が来てから私は王国の前から姿を消すつもりなのだから―――。
「早速だけど情報を渡します。まず、ビオフレオには四天王がいます。稀になのですが、国王ではなく王女がゼウスの力を引き継ぐ場合があります。今回はその場合です。―――王女アシュリア。それが四天王の中でもトップに君臨する者です」
「アシュリア……」
「次に大魔導士アリエラはハーデースの力を引き継ぎます。Sランク冒険者アウルスはヘーパイストス、幻無の森の魔女エイルはタナトスの力を引き継ぎます。彼らが一番厄介になるでしょう」
シオンは長年生きてきて、エイルに会ったことがあるらしい。彼女は比較的差別心が低いのだが、王国に対する忠誠心が異常に高い。
ヘーパイストスを引き継ぐアウルスはステータス画面を持つ人間をひどく恨んでいる。彼が一番注意すべき人物だ。
王女アシュリアは全てが謎に包まれている闇の少女である。真っ白の髪で黄色の瞳をしていて、絶世の美女であることしかシオンにもわからないらしい。
アリエラは比較的明るい人物だが、闇の力ハーデースを異常なほどに使いこなし、エイルの親友で、エイルを生きがいとする変態気味の少女。
とにかく、アウルスを名無しが引き付けている間私とフーラが何かをするしかない。アリエラと名無しの相性は悪いので戦わせるわけには行かない。
そうして悩んでいると、シオンがコーヒーを一口飲んで柔らかく微笑む。
「今私たちで悩むより、フィオも混ぜて一緒に悩みましょう。それにきっとまだ動かないはずです、情報が確かではありませんから」
「確かに、ゼロの情報は少なそうですよね……謎に包まれている感じですし」
「何で僕だけ。でも僕がいるおかげで時間が引き延ばされるならそれはそれで役に立ってうれしいよ」
そう言った名無しはどこかをずっと気にしている感じがしていた。
――――――――。
レストランとそう離れていない路地裏で、白髪の黄色い瞳をした美しい少女が、素朴なドレスの裾を握った。
「我が神ゼウス様―――どうか我々をお守りください」
祈りを捧げる少女の後ろから、ある男が近づく。
「行動が早いですねぇ?」
「貴方は、クロノス……ハイル・クロノスですね? 私の名はアシュリア、ゼウス・アシュリアと申します」
ハイル・クロノス。アシュリアはある程度彼の情報を把握していた。少々変態気味の少年で、勝つことにこだわっている。
そんな性格だからこそ《クロノス》に選ばれたのだろう。
しかし、《クロノス》の加護を持つ者がわざわざ《ゼウス》の加護を持つ者に会いに来るなど……アシュリアは警戒していた。
「まあ警戒はよしてください……どうせ私は貴方に勝てませんしねぇ……国王様が呼んでますよ、さっさと帰れとね」
「お父様はそんないい方しませんよ……分かりました、帰ります。ある程度情報もつかめましたし―――気づかれてしまったようですので」
アシュリアは冷静な顔でそう言って、動かないハイルの方を見た。
国王―――ネイスト・アレースがアシュリアを呼び戻したわけは大体想定が付いていた。
「行かないのですか?」
「いや、少々気になることがあっただけですよ……」
国王の側近がハイルだ。ハイルとネイストが掛け合わせてもアシュリアには勝てないので、ハイルはアシュリアに敵対心を表すことはない。
ハイルはもういいですよ、と言って、早々転移して消えてしまった。
「……相変わらずあの男の考えていることは分かりません」
加護を使えば分かるのだが、一度使うと依存してしまう可能性もあるので控えている。それにきっと本当に必要な時ではない。
アシュリアはつぶやいて、ハイルと同じく転移を使って消えていった。
しばらく迷ったように顔をしかめてからシオンは口を開く。
「目立ちたいですか?」
言葉を限界まで絞ったのだろう。
一番先に出てきた言葉はそれだった。勿論目立ちたい。この世界にフーラと名無しに敵う者はいないと思っている。
そして私に敵う者も少ないとは思っている。
「はい」
なので、私は満面の笑みで肯定した。
シオンはやはりな、と言って人差し指を立て、神妙な笑みを浮かべた。
「きっと神話信仰国が動くと思います」
「神話信仰国……? それって神話を信じる国って感じのですか?」
名前通りだ、とシオンは頷く。名無しは面白くなってきた、というように伸ばしていた背中を椅子にふわりと付ける。
フーラも興味ありげにケーキを頬張る手を一度止めてシオンを見た。
私は相変わらず魔王様にシバかれた余裕の姿勢を崩さず、シオンを見つめる。
「その神話というのは、特に名前は決められてないんです。ただ、ゼウスを筆頭をするオリュンポス十二神がなんだとか……」
「そ、それって……!」
あまりにもの驚きに私は余裕の姿勢を崩し、テーブルに手をバン、と置いて立ち上がった。フーラになだめられてゆっくりすわる。
ゼウス様を筆頭に―――オリュンポス十二神―――それはまるで―――。
私は、神話に興味がなかったわけではない。
ただ地球に居た時間が完全に神話を学ぶことを許さなかった。
しかし有名なゼウス様とオリュンポス十二神は知っている。
「重要なのは、彼らがステータス画面を消したということです。それぞれが神の属性を引き継ぐ―――神王権を持っていることです」
「レガリア……つまり才能、みたいなものですか」
「ええ、そういうことです。ゼウスの属性は雷、そして普通は国王が引き継がれる属性です。最高神なのでとても最強なんですよ、そして彼らは最強な者を集めては洗脳をして、ステータス画面を消してこの国の者にする。そうすると自動的に神の属性が引き継がれることになるのです」
「へぇ、でも神の数が足りないってことは無いんですか?」
「ありません。地帯によって信仰する神話もたまに違いますし、ただこの神話が主なだけです。この神話を信仰するタイプの人間を『ディーオ』といいます。その者の名は苗字を抜いて自動的に神の名が入れられます」
―――元の名を名乗る事すら、許されないのか。
シオンの話をさらに聞くと『ディーオ』は才能ある者には優遇し、才能無き者には差別をする。そんな残忍な国なのだそう。
神話信仰者たちで集めた土地を組み合わせた国の名は―――『ビオフレオ』国王も王女も女王も、国民さえも絶世の美しさがなければ認められない。
そして彼らが私たちを狙ってくる可能性がある、ということだ。
「彼らは勢力が高いです、いくら貴方達が強くても数で押し負ける可能性があります。それに親しい者を人質に取られ戸惑ったら捉えられます。……そこで、取引しませんか?」
シオンは可愛げにウィンクしながら、立てた人差し指を前に差し出す。言っていることは正論なので、とりあえず聞くことにする。
フーラと名無しは交渉のプロでもあるので、問題はないはずだ。
「国王様に会ってくれませんか? 最強の新星として、です。国王様は現在強い者を欲しておりますので……その代わり、賢者である私の優秀な兵は全てお貸ししましょう。そして私も協力致します」
「どうする? ゼロ、セルカ?」
「わたくしは―――いい交渉だと思いますけれど」
「……」
名無しは黙っている。品定めをするかのようにシオンの方を向いている。しばらくして名無しは椅子から優雅に背中を浮かせた。
「僕も、悪いとは思わない」
シオンにとって一番の強敵は名無しだったようで、その言葉を聞いて険しい顔をしていたシオンがふわりと笑顔に戻る。
私としては国王様に会えるのが一番手っ取り早いと思う。魔王様のことをしばらく伝えなければいい、ただそれだけなのだ。
魔王様が来てから私は王国の前から姿を消すつもりなのだから―――。
「早速だけど情報を渡します。まず、ビオフレオには四天王がいます。稀になのですが、国王ではなく王女がゼウスの力を引き継ぐ場合があります。今回はその場合です。―――王女アシュリア。それが四天王の中でもトップに君臨する者です」
「アシュリア……」
「次に大魔導士アリエラはハーデースの力を引き継ぎます。Sランク冒険者アウルスはヘーパイストス、幻無の森の魔女エイルはタナトスの力を引き継ぎます。彼らが一番厄介になるでしょう」
シオンは長年生きてきて、エイルに会ったことがあるらしい。彼女は比較的差別心が低いのだが、王国に対する忠誠心が異常に高い。
ヘーパイストスを引き継ぐアウルスはステータス画面を持つ人間をひどく恨んでいる。彼が一番注意すべき人物だ。
王女アシュリアは全てが謎に包まれている闇の少女である。真っ白の髪で黄色の瞳をしていて、絶世の美女であることしかシオンにもわからないらしい。
アリエラは比較的明るい人物だが、闇の力ハーデースを異常なほどに使いこなし、エイルの親友で、エイルを生きがいとする変態気味の少女。
とにかく、アウルスを名無しが引き付けている間私とフーラが何かをするしかない。アリエラと名無しの相性は悪いので戦わせるわけには行かない。
そうして悩んでいると、シオンがコーヒーを一口飲んで柔らかく微笑む。
「今私たちで悩むより、フィオも混ぜて一緒に悩みましょう。それにきっとまだ動かないはずです、情報が確かではありませんから」
「確かに、ゼロの情報は少なそうですよね……謎に包まれている感じですし」
「何で僕だけ。でも僕がいるおかげで時間が引き延ばされるならそれはそれで役に立ってうれしいよ」
そう言った名無しはどこかをずっと気にしている感じがしていた。
――――――――。
レストランとそう離れていない路地裏で、白髪の黄色い瞳をした美しい少女が、素朴なドレスの裾を握った。
「我が神ゼウス様―――どうか我々をお守りください」
祈りを捧げる少女の後ろから、ある男が近づく。
「行動が早いですねぇ?」
「貴方は、クロノス……ハイル・クロノスですね? 私の名はアシュリア、ゼウス・アシュリアと申します」
ハイル・クロノス。アシュリアはある程度彼の情報を把握していた。少々変態気味の少年で、勝つことにこだわっている。
そんな性格だからこそ《クロノス》に選ばれたのだろう。
しかし、《クロノス》の加護を持つ者がわざわざ《ゼウス》の加護を持つ者に会いに来るなど……アシュリアは警戒していた。
「まあ警戒はよしてください……どうせ私は貴方に勝てませんしねぇ……国王様が呼んでますよ、さっさと帰れとね」
「お父様はそんないい方しませんよ……分かりました、帰ります。ある程度情報もつかめましたし―――気づかれてしまったようですので」
アシュリアは冷静な顔でそう言って、動かないハイルの方を見た。
国王―――ネイスト・アレースがアシュリアを呼び戻したわけは大体想定が付いていた。
「行かないのですか?」
「いや、少々気になることがあっただけですよ……」
国王の側近がハイルだ。ハイルとネイストが掛け合わせてもアシュリアには勝てないので、ハイルはアシュリアに敵対心を表すことはない。
ハイルはもういいですよ、と言って、早々転移して消えてしまった。
「……相変わらずあの男の考えていることは分かりません」
加護を使えば分かるのだが、一度使うと依存してしまう可能性もあるので控えている。それにきっと本当に必要な時ではない。
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