私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~

なぁ~やん♡

六話『だいけんじゃさまのおうちへ!(1)』

『旅に出ます。探さないでね! ふぃりあ』

 未だ書きなれない異世界の字でそう書いた私は、いつも魔王様が使う机に登り、それを置いた。どういうわけかこの世界の文字は難しいのだ。

 しばらく魔王様に会えないのは淋しいけれど、これも強くなるため。

「あんな真実を知って、自分だけ楽してたまるかー」

 とある小説を読んで、とある主人公が好きになって、その主人公のセリフの中で私が一番好きなセリフを持ち出す。
 かっこいい。このセリフを見て率直にそう思ったのを覚えている。

 でも、あの主人公と同じように私がかっこいいことをできる自信は無い。

「でも出来る事はしないと……!」

 《転移魔法》
 前、魔導書を覚えていた時に偶然見つけた物。私には使いどころがないな、と思っていたけれど、この際はとても役立つだろう。

 それを無詠唱で発動し、私はワープした――――――。
 転移した先は、目的地そのものではない。目的地の《その場所》は魔力が濃密すぎて転移魔法が弾き飛ばされてしまうのだ。

 私や、魔王様くらいしか入れないような場所だ。

「よいしょ……うーん、毎回大変だなあ」

 崖をよじ登っていく。
 土が落ちたりして頬が汚れるけれど、そんなのは気にしない。

「ごめんなさいねー、ボクの家がすごーく入りにくくて」

「あ、ううん! そういうわけじゃなくて」

「……まあ、フィリアちゃんが入ってくるときだけ魔力を少なくしとくよ。ボクなんか存在してるだけで歩く破壊兵器なんだもの」

「そんなことないよ。ふぃりあ、テーラ様のことすごく好きだよ!」

「嬉しいなあ、ボクはこんなこと言われるの初めてだよ」

 銀髪を腰まで伸ばし、銀色が少し濁ったような瞳をした少女―――伝説の大賢者テーラ・ヒュプス。人間界でも魔界の味方でもない。
 しかし、魔界や人間界を破壊されるようなことがあれば、彼女は自ら出向く。

 どうしてだろう、とずっとそう思っている。
 テーラ様が二重人格だということは知っているけれど、もしかしてそれなのか。

 力の強い者は、そろいもそろって優しい言葉をかけられたことがない。
 魔王様も、テーラ様も。
 いつか私もそうなるのかな、と思うと少し怖い。
 でも私には魔王様がいるし、テーラ様も優しい―――だけど―――。

「テーラ様! ふぃりあをつよくして」

「―――勿論。ボクしか勝てないくらい、強くしてあげるよ」

 テーラ様の横顔は―――なんだか狂気がちょこっと見えて。この状況を心から楽しそうにしているのは私に伝わった。
 何でもいい、楽しいと思ってくれるなら―――。

「ね、ねえテーラ様! 二重人格はどうなったの?」

「それか―――ボクたち、同一人物になったからね。フィリアちゃんは心配しなくてもいいよ。ボクはなんともないからさ」

「よかったね!」

 テーラ様の優しい微笑みは、魔王様と同じくらい安心させてくれる。……魔王様の方が上だよ? 本当だよ?
 私が満面の笑みでそう言うと、テーラ様も微笑んだ。

 テーラ様は私の手を引いて、大きな屋敷に迎えいれてくれた。
 魔王様が連れてきてくれたのと同じで、やっぱりメイドさんが出迎えてくれる。
 このメイドさん、実は暗殺者や奴隷などの、身分が裏ルートな者達だ。

 なんと何と、全員がテーラ様に助けられた者達なのである。

「どう? やっぱり前と変わらないでしょ。というか、変えられないし」

「この家大規模だから、変えちゃうと時間がかかるよね」

「そうだねぇ、家具全てに魔力が籠ってるしね、外すのが大変なんだよ」

 全ての家具がテーラ様の魔力で固定しているとなると、さすがのテーラ様でも全部変えるには時間がかかる。
 私だったら全部変える前に疲れちゃうな、と思う。

 手を引かれ、最上階まで行くと大きな訓練場があった。そこにはいかにも不良かのような赤毛の男が真ん中に座っていた。

「前から言っていたでしょ、レイン。そんなところに座っていたら邪魔だよ」

「……俺は此処が気に入ってるんだ」

「気に入っているかそうじゃないかで世界が壊せると思う?」

「ごめんなさい」

 そう言ってレインと呼ばれたテーラ様の弟子はど真ん中からどいて、端に座った。レインという名前とは似つかわしくない性格だ。
 雨に打たれても負けるな、という感情を込められた名前なのだそう。
 しかし、人間に両親を殺され、テーラ様のところへ助けを求めたらしい。

「あ、そうそう。フィリアちゃんレインとバトルしてみない?」

「ふえぇ!? ふぃりあがレインさんとバトル!?」

「えー……俺がフィリアとか? 魔王様にぶち殺されるからいやだな」

「魔王様はそんなこわいひとじゃないよ!」

 私は知ってる。
 魔王様はどんな罪を犯した者だってはっきりと死罪にできるか、少しためらってから判決を決める優しさがあることを知っている。
 私がレインとちょっとバトルしただけで怒るようなひとではない。

「魔王様が怒ったら、ふぃりあが怒らないようにする!」

「フィリアちゃんのバトルジャンキーが出ちゃった所で……レイン。君はボクと戦いたくないと言っていたが、フィリアちゃんならいいんじゃない?」

「フィリアも十分強いだろ……」

「でも、ボクと戦うよりはいいでしょ。逃げてたら強くなれないよ?」

 私がそんなに怖いのかな。
 仲間外れにされたような感じがして、思わずしゅんとしてしまう。

「それにほら、フィリアちゃんをこんな感情にさせちゃった方が、魔王にぶち殺される可能性が高いんじゃないの?」

「戦うわ! ごめんなさい!」

「……魔王様はそんなこわいひとじゃないもん!」

 何度言ったら分かるんだ。
 ちょっとムキになって背伸びをしてレインさんを見上げる。

「まあまあ。じゃあ、試合開始ね?」

「うん!」

 そういえば、私が魔王様に内緒で此処に来たことをテーラ様は察することができるはずなのに、テーラ様は何も言わなかった。
 私が崖を上るだなんて、魔王様は絶対にさせてくれないのだから。

 ちょっとした疑問も抱きつつ、試合は始まった――――――。

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