ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

オークの攻撃

 変身は解けた。
 倦怠感が全身に回り、酷い睡魔に襲られる。
 しかし、意識を失うわけにはいかない。
 俺たちの背後には、巨大なオークが追ってきているのだから……
 オークは障害物になる建築物を破壊しながら最短距離で駆けてくる。
 それは、もはや1つの災害のようなモノになっていた。

 チラリと背後を振り向いたカスミが――――
 「ひどい」と呟いた。

 「カスミ、俺たちが原因だと背負うなよ」
 「え?」
 「この町を破壊して、被害者を出しているのはアイツだ。あのオークこそが原因であり、元凶だ。間違っても『自分たちがこの町に来なければ……』なんて感じなくてもいい責任を―———重圧を背負う必要はない」

 聖騎士団の一員とは言え、カスミは幼い少女だ。
 これを彼女のトラウマとして、心に深く刻まれる事はあってはならない。
 だから、俺は――――

 「あのオークを倒すぞ。これ以上、被害が出る前に……な?」

 彼女が俺の言葉をどう捉えたのか?それは彼女にしかわからないだろう。
 しかし、カスミは――――

 「うん、早く止めないと」

 力強く頷いた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「でも、どうやってアイツを倒すの?」
 「それは……今、考えている!」

 ガックリとカスミの頭が垂れた。

 「取りあえず、距離を稼ぐ。飛ぶぞ! カスミ!」

 俺は触手を建物の高所に向けて発射する。
 張り付いた触手を一気に縮めて……

 「大ジャンプだ!」

 限界まで伸ばしたゴムのように、俺とカスミの体を引っ張られて、宙を舞った。
 俺を背負っているのが小柄なカスミだからこそ可能な飛行術だ。

 「うわぁ! 飛んでるよ。ミミックくん、こんな事もできるんだ」

 どこか呑気とすら思えるカスミの言葉。
 先ほど見せた張り詰めていた精神状態よりはマシだ。

 「このまま、町の外まで誘導すれば……いや、この機動力が生かせるのは町中だからこそ……ちっ、決め手に欠けるか」

 俺は悪態をつく。
 悪態がつけるほどまでの余裕を取り戻していた。
 余裕……それは油断と言い換えてもいい。

 「え?」

 触手が消えた。
 確かに張り付けていたはずの触手が一瞬の痛みと共に消滅した。
 浮遊感。

 「……落下している」

 振り向く。背後のオークが笑っているように見えた。
 アイツが何かしたのだ。おそらく、不可視の攻撃。
 落下中、俺は考える。俺も不可視の攻撃を行う……しかし――――
 変身時の俺の触手は、刃物のような切れ味を得るために極限まで細く、研磨されている。
 では、アイツの不可視の攻撃は?
 俺と同じように何かが、細いのか?いや違う。
 奴の攻撃は俺と違って破壊力がある。
 破壊力がある……つまり、破壊に必要な質量を有しているという事……
 だから、単純にアイツの攻撃は速過ぎて見えないという事だ。
 しかし、本来のオークに離れた位置の敵を攻撃するような方法はないはず。
 ならば、あの攻撃は後付け。人間をオークへ定着させたように―———何か、ほかのモノを定着―———加えられている。
 カスミは空中で反転。態勢を整え着地。
 その前に―――俺の触手はオークに向かって放たれる。
 人ならば即死の猛毒を付加させた一撃。
 それは、何かで弾かれる。

 「むっ!」

 確かに高速で飛来した何かに弾かれた感覚。
 そして、それはオークの体に有している機能――――生物のソレではない。

 (なんせ、毒の効果がないからな……だとすれば……)

 やはり、何かを体の周囲に高速で飛ばしている。

 「カスミ、お前の動体視力で捕えれないか?」

 カスミの動体視力は俺よりも遥かに良い。
 薄暗い地下で生活していた俺の視力は、他の機能よりも劣るとは言え……

 「ん~ 激しい動きの中じゃ無理。せめて集中できたら……」
 「よし、移動は俺に任せろ。カスミは集中してくれ」

 「うん」とカスミは頷く。
 俺は触手の伸ばした。今度は高所に張り付けるのではなく、低所へ張り付ける。
 そのまま、今度は低空飛行で体を浮き上がらせた。
 障害物の多い町中で、これを使うのは非常に危険だ。 
 歩行者の急な飛び出しがあれば、普通に事故になる。
 できれば使いたくない手ではあるが……今は、そうも言ってられない。

 そして、前方に破壊が起きた。

 「見えたか? カスミ」

 俺は聞く。しかし―———


 

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