ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

追跡者

 
 「……尾行されている?」

 俺は小声でカスミに確認した。カスミは頷いた。
 カスミは俺よりも上位の気配感知スキルを有している。
 その彼女が認めたのだ。間違いないのだろう。
 俺とカスミは気づいていないように振る舞い、会話を続けた。
 その途中――――

 「次の曲がり角。先に人の気配はない。……やろうよ」

 カスミの呟きに俺は一瞬の躊躇。その後、頷いた。
 そして、角を曲がり……俺はカスミの背中から飛び降りた。
 追跡者を待ち受けるために……
 すぐにソイツは姿を現した。平凡な男に見える。
 どこか飲食店の店員なのか。店舗名の入った服にエプロンを身につけている。
 俺はカスミと目を合わせる。

 (別人か?)

 しかし――――

 「まさか、ここまであっさりと尾行がばれるとはな」

 ソイツは自身が追跡者だと告げた。

 「ギルドからの刺客か?」

 俺は問うた。
 追跡者には驚いた様子はなかった。おそらく、俺の正体を予め知っていたのだろう。

 「ギルド? 違うね。俺は力を得たのさ……冒険者を超える力を!」

 風切り音。
 反射的に回避運動を行う。
 何かが俺とカスミの間を通過した。

 「カスミ!」
 「うん、ミミック君!」

 不可視の攻撃に対して俺は防御を固めるため、口から触手を伸ばす。
 一方、カスミは距離を取り姿を消した。

 「なぜ、あの方がミミック程度のモンスターを警戒しろとおっしゃったのか、疑問だったが……
 とんだ化け物だな!」

 追跡者は前に出る。
 その動きに合わせて、俺は触手を伸ばす。
 触手の全てに麻痺毒の付加を済ませている。
 当たれば、行動不能――――そのはずだった。
 しかし、なぎ払われた。   

 「なっ! いつの間に!」

 追跡者は巨大な木刀を握っていた。
 絶え間なく繰り出す俺の攻撃をなぎ払い、少しづつだが、確かに前に進んでくる。

 (コイツっ! 太刀筋は出鱈目デタラメなのに的確で速い……ならば!)

 俺の意図を察したカスミが建築物の上に登り、追跡者の背後まで疾走。
 音もなく、着地して――――

 「――――――」と、無言でクナイを追跡者の背中を狙う。

 「だが、甘いね」

 追跡者は木刀を背中に回して、バックアタックを阻止。
 そのまま、小柄なカスミを力任せに弾き飛ばした。

 「カスミ!?」 

 思わず、攻撃の触手を緩めてしまった。
 追跡者も、その隙を見逃さないと前進の速度を速める。

 「貰ったぞ、ミミック!」

 木刀が俺の頭上に向かって振り落とされた。
 しかし、その一撃は俺に届かなかった。

 「いいや、遅いね」

 追跡者の木刀をズタズタに切断された。
 ――――いや、木刀だけではない。追跡者の体にも複数の傷が一瞬で刻まれた。
 俺のユニークスキル『比類なき同族殺し』の発動によって、不可視の触手が追跡者の体と木刀を切り裂いたのだ。
 追跡者が戦闘不能か確かめた後、倒れているカスミに近づいた。

 「大丈夫か? カスミ」
 「ん~ 少し頭がクラクラするよ」

 大丈夫らしい。

 「さて、取りあえず追跡者が何者か、尋問でもしないと……」

 そう言いかけた言葉を飲み込む。
 なぜなら、戦闘不能にまで追い込んだ追跡者が立ち上がり、俺たちを睨みつけていたからだ。



 



 

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