ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

戦いが終わり ちょっとした日常

 「やれやれ、老体に鞭を打って指導したのに、この体たらくとは……なぁ」
 「……すいません。ご足労をおかけします」

 変身が解けて老人になったパンタ師匠。
 変身が解けて木箱になった俺。
 変身時には、僅かに体を浮かせ宙を浮いて進む方法だったが、変身が解ければこの歩行法は使えない。
 普段通り、全身の筋肉と勢いを使ってジャンプしながら進むしかない。
 本来、歩くという動作が極端に少ないミミックは移動するだけでも激しい疲労が襲いかかってくる。
 要するに戦闘による疲労のピークによって俺は動けなくなってしまったのだ。
 言い訳させてもらうと森という悪地形にも原因はあるのだが……
 そして、いま、パンタ師匠に持ち上げられて聖騎士団が待機しているベースキャンプまで帰還することができた。

 「ん?なんだか騒がしいな」
 「……喧嘩みたいですね。誰か2人が掴み合ってます」
 「やれやれ、団員同士の私闘は禁止しているのじゃが、ワシがいない間に気が緩んだか。どれ、誰と誰が争っているかわからぬか?」
 「……」

 本来なら聖騎士団に入団して2日目の俺には団員の名前と顔が一致しない。
 しかし、ここで俺が沈黙したのは、争っている人物が誰と誰か、わかったからだ。

 「あの……どうやら、争っているのは……マリアとカスミみたいです」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 女の子同士の掴み合いの喧嘩。
 しかし、両者共に聖騎士団の団員。ただの掴み合いも武道家の技の掛け合いみたいになっている。
 一体、何が原因でこんな激しい争いに? それに喧嘩ご法度が規律なら、どうして誰も止めないのか?
 俺はパンタ師匠から地面に降ろしてもらうと同時に駆け出した。
 体を包む疲労感はそのままだが、それを気にかけている場合ではなく、強引に無視して急ぐ。
 近づいてみると違和感は増していく。不思議な事に、マリアとカスミを見ている団員はニヤニヤと笑みを浮かべているのだ。
 いや、そんな事よりも―――

 「マリア、カスミ!一体何があった…んだ……?」

 「今日は私がミミックくんと寝るの!」
 「駄目だよ!私、枕が変わると眠れなくなるの!だから、駄目!」

 俺は『気配遮断』と『擬態』スキルをフル活用して、静かに後ろへ下がった。

 「あっミミックくん、聞いてよ。マリアお姉ちゃんがわがまま言うんだよ」
 「ちょ!わがまま言っているのはカスミちゃんでしょ!」

 まずい!気付かれた!

 「ミッくん!どうして逃げるの!」
 「これはアレだね。捕まえた方が一緒に寝れるって奴だね!」
 「そうか。ミッくんは私たちを試しているのね」
 「きっとそうだよ。マリアお姉ちゃん!ここからは正々堂々と勝負だよ!」

 「違うわ!」と俺の絶叫はむなしく響く。
 逃げる俺。しかし、背後からは凄まじい圧力が迫ってくる。
 捕まれば……死? 鮮明な死のイメージが叩き付けられた。
 「ひいぃ!」と恥も外聞もなく、俺は悲鳴を漏らす。
 振り向くと既に2人は、手を伸ばせばそのまま俺に届く位置まで間合いを詰めている。
 そして、2人同時に俺を捕まえようとジャンプしてきた。

 「止めぬか、バカ共めが」

 ジャンプしたカスミとマリアは空中にパンタ師匠に首根っこを押さえられ、そのまま地面に叩きつかれ、ようやく動きを止めた。

 「だって……」
 「マリアお姉ちゃんが……」

 「2人ともわけは聞いた。だが、それが争う理由になるか!」

 「「……はい」」と2人は体を縮めて、しゅんとなった。

 「やれやれ、どうして3人で仲良く寝るという結論はでないのか」
 「「それだ!」」

 「それだ!じゃねーよ!」と俺は再び逃げ出した。

 そんな聖騎士団での生活が数日経過した頃、ギルドから早馬がやってきた。
 その内容は―――

 『マイクロフト 帰還』

 その報告だった。しかし、その報告は異常だった。
 なぜなら、その早馬に乗っていたのは……
 傷ついたマイクロフト本人だったからだ。

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