ミミック転生 ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~
裏切者の影
俺は汗を触手で拭きとりながら、パンタ師匠に話しかけた。
「マリアの修行はどうだ?」
「まぁまぁじゃな」
「……」
「……」
それだけで会話が止まった。室内に籠る膨大な熱気が考えを遮るからだ。
「熱い……」と思わず口から漏れてしまう。宝箱の内部に潜り込んでも熱さを遮断する事はできない。
轟々と音を上げる火炎を前にパンタ師匠は剣とハンマーを手にしていた。
ここは聖騎士団のベースキャンプ内に作った簡易的な鍛冶場。
パンタ師匠はマリアの聖剣を鍛え直しているのだ。
折れた聖剣を熱し、刀身に炭を押し付けている。
直すと同時に強度を上げるため炭素を取り込んでいるらしい。
カンカンカンと奇妙に甲高い音が響く。俺だけではなくパンタ師匠も汗にまみれている。
暫くするとパンタ師匠も集中力が切れてきたのか―――
「あの子の場合は、特殊職業である『聖騎士』のスキル性能を自ら抑えているだけじゃかな。精神を刺激してやると、直ぐに全盛期に戻るじゃろ」
「抑えている?じゃ今までのマリアの力は?」
「精々、本来の力の半分くらいよ」
「半分?そんなにマリアは力を抑えていたのか……」
「もっとも……」とパンタ師匠は話を続ける。
「スキルの開放で戦術が倍に増えるという話で、筋力が2倍になるとか夢のような話とはちと違うがなカッカッカ……」
「うむ、なるほど」と俺は唸った。
パンタ師匠は熱の入った聖剣を水に入れて冷やす。
「じゅー」と水分が蒸発する音がする。焼きを入れるってやつか……
あれ?俺、なんでマリアの聖剣修理を見守っているんだっけ? あれ?俺、必要なくねぇ?
脳が煮え豆腐みたいに茹っていく感覚。 くるくるとぐるぐると世界が回っている。
そう言えば、転生してから今の今まで、ヒンヤリと涼しい迷宮暮らしだった。
ミミックの姿に転生して、過剰な熱気を浴びるのは初めてじゃないか。
体がふらふらする。もしかすると熱に慣れていない俺は熱中症になったのかもしれない。
ミミックも熱中症になるらしい。
「す、すいません。出ます」
「うむ、木陰に座り、水と塩を摂取するのは失念するな」
「はい」と返事をして、簡易的鍛冶場から抜け出した。
どうやら、ミミックの体に熱中症対策は有効なのか?今から実験をしないといけないみたいだ。
しかし、外に見ると奇妙な雰囲気に覆われているのに気が付いた。
「何があった?」と周囲の人間―――聖騎士団のメンバーに情報を求めた。
「いや、よくわからない。どうやらギルドから使者が来たらしい」
「よくわからない?」
どういう意味だろうか?
姿を消した魔族。それを追っているマイクロフト。
それらの顛末がギルドへ伝わると聖騎士団へ出動要請が来るということは、皆が共有している情報なはずだが……
いや、それよりも、ギルドからの要請なら最優先でパンタ師匠へ伝えられるはずだ。それが行われていなということは……どういうことだ?わからん。
俺はギルドからの使者を確認するために前に出た。
そして、その人物を確認した。その人物を見て俺は酷く驚いた。
その人物がマイクロフト本人だったからだ。
いや、ただ、彼自身が使者として来ただけなら驚かなかっただろう。
しかし、現れたマイクロフトの姿は―――
ボロボロだった。
茶色に変色した包帯を体に巻いている。不衛生なのは包帯だけではない。
土煙の後が顔にまでこびりついている。
スマートな騎士という印象だったマイクロフトはそこにいなかった。
両目を閉じて、呼吸も荒々しい。
聖騎士団でも回復要員を担当していた団員が治療を行っている。
「大丈夫なのか?」
回復要員は俺に視線を合わさず「大丈夫。必ず助ける」と力強く返してくれた。
俺はマイクロフトに視線を戻した。そこに気づく。マイクロフトの手には紙が握られている。
なんだ?俺は回復要員の許可を得て、慎重にマイクロフトの手を開かせた。
「これは……」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
簡易ベットに横たわっていたマイクロフトの目が開いた。
俺とマリアとパンタ師匠……他にも見守っていた団員の面々から同時に安易のため息が漏れた。
「ミミックさん、マリアさん……いけない!」
目を覚ましたマイクロフトはいきなり起き上がろうとする。
それを周囲が止めた。
一度、落ち着きを取り戻したの確認して俺は尋ねた。
「一体何があったんだ?なんでお前自身がコレを持っている?」
俺の手には、気を失っているマイクロフトの手に握られていた紙がある。
それにはこう書かれていた。
『マイクロフト 帰還』
「なぜ、ギルドからの連絡をお前自身が持っていたんだ?それもボロボロの姿で?」
「はい……それは…」とマイクロフトは一瞬、躊躇するような顔を見せ、そして苦々しい表情で答えた。
「裏切者がいたのです」
「裏切者?」
「ギルド内部に魔族への内通者がいました。本来、これを届けるはずだった使者は殺され、そのことに気づいた私も襲われた」
マイクロフトの告発。ギルドの裏切者。
それは聖騎士団の面々にも深い衝撃を与えた。
「マリアの修行はどうだ?」
「まぁまぁじゃな」
「……」
「……」
それだけで会話が止まった。室内に籠る膨大な熱気が考えを遮るからだ。
「熱い……」と思わず口から漏れてしまう。宝箱の内部に潜り込んでも熱さを遮断する事はできない。
轟々と音を上げる火炎を前にパンタ師匠は剣とハンマーを手にしていた。
ここは聖騎士団のベースキャンプ内に作った簡易的な鍛冶場。
パンタ師匠はマリアの聖剣を鍛え直しているのだ。
折れた聖剣を熱し、刀身に炭を押し付けている。
直すと同時に強度を上げるため炭素を取り込んでいるらしい。
カンカンカンと奇妙に甲高い音が響く。俺だけではなくパンタ師匠も汗にまみれている。
暫くするとパンタ師匠も集中力が切れてきたのか―――
「あの子の場合は、特殊職業である『聖騎士』のスキル性能を自ら抑えているだけじゃかな。精神を刺激してやると、直ぐに全盛期に戻るじゃろ」
「抑えている?じゃ今までのマリアの力は?」
「精々、本来の力の半分くらいよ」
「半分?そんなにマリアは力を抑えていたのか……」
「もっとも……」とパンタ師匠は話を続ける。
「スキルの開放で戦術が倍に増えるという話で、筋力が2倍になるとか夢のような話とはちと違うがなカッカッカ……」
「うむ、なるほど」と俺は唸った。
パンタ師匠は熱の入った聖剣を水に入れて冷やす。
「じゅー」と水分が蒸発する音がする。焼きを入れるってやつか……
あれ?俺、なんでマリアの聖剣修理を見守っているんだっけ? あれ?俺、必要なくねぇ?
脳が煮え豆腐みたいに茹っていく感覚。 くるくるとぐるぐると世界が回っている。
そう言えば、転生してから今の今まで、ヒンヤリと涼しい迷宮暮らしだった。
ミミックの姿に転生して、過剰な熱気を浴びるのは初めてじゃないか。
体がふらふらする。もしかすると熱に慣れていない俺は熱中症になったのかもしれない。
ミミックも熱中症になるらしい。
「す、すいません。出ます」
「うむ、木陰に座り、水と塩を摂取するのは失念するな」
「はい」と返事をして、簡易的鍛冶場から抜け出した。
どうやら、ミミックの体に熱中症対策は有効なのか?今から実験をしないといけないみたいだ。
しかし、外に見ると奇妙な雰囲気に覆われているのに気が付いた。
「何があった?」と周囲の人間―――聖騎士団のメンバーに情報を求めた。
「いや、よくわからない。どうやらギルドから使者が来たらしい」
「よくわからない?」
どういう意味だろうか?
姿を消した魔族。それを追っているマイクロフト。
それらの顛末がギルドへ伝わると聖騎士団へ出動要請が来るということは、皆が共有している情報なはずだが……
いや、それよりも、ギルドからの要請なら最優先でパンタ師匠へ伝えられるはずだ。それが行われていなということは……どういうことだ?わからん。
俺はギルドからの使者を確認するために前に出た。
そして、その人物を確認した。その人物を見て俺は酷く驚いた。
その人物がマイクロフト本人だったからだ。
いや、ただ、彼自身が使者として来ただけなら驚かなかっただろう。
しかし、現れたマイクロフトの姿は―――
ボロボロだった。
茶色に変色した包帯を体に巻いている。不衛生なのは包帯だけではない。
土煙の後が顔にまでこびりついている。
スマートな騎士という印象だったマイクロフトはそこにいなかった。
両目を閉じて、呼吸も荒々しい。
聖騎士団でも回復要員を担当していた団員が治療を行っている。
「大丈夫なのか?」
回復要員は俺に視線を合わさず「大丈夫。必ず助ける」と力強く返してくれた。
俺はマイクロフトに視線を戻した。そこに気づく。マイクロフトの手には紙が握られている。
なんだ?俺は回復要員の許可を得て、慎重にマイクロフトの手を開かせた。
「これは……」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
簡易ベットに横たわっていたマイクロフトの目が開いた。
俺とマリアとパンタ師匠……他にも見守っていた団員の面々から同時に安易のため息が漏れた。
「ミミックさん、マリアさん……いけない!」
目を覚ましたマイクロフトはいきなり起き上がろうとする。
それを周囲が止めた。
一度、落ち着きを取り戻したの確認して俺は尋ねた。
「一体何があったんだ?なんでお前自身がコレを持っている?」
俺の手には、気を失っているマイクロフトの手に握られていた紙がある。
それにはこう書かれていた。
『マイクロフト 帰還』
「なぜ、ギルドからの連絡をお前自身が持っていたんだ?それもボロボロの姿で?」
「はい……それは…」とマイクロフトは一瞬、躊躇するような顔を見せ、そして苦々しい表情で答えた。
「裏切者がいたのです」
「裏切者?」
「ギルド内部に魔族への内通者がいました。本来、これを届けるはずだった使者は殺され、そのことに気づいた私も襲われた」
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