ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

決着。しかし、終わらず

 
 ―――遥か昔―――

 人間であった俺の肉体は朽ち果て、記憶も自我も失われ、
 魂だけがこの世界にやってきた。
 そして、その魂はある魔物モンスターへ定着する。
 それがミミックだった。

 それは、俺の脳が作り上げた幻想イメージなのか?それとも現実なのか?
 本当に魂は存在して、この場所は異なる世界からやってきたのか?
 それとも―――いや……それは、まだわからない。
 しかし、一方で―――わかることもある。

 俺がこの世界で生まれ、この世界で生きてきた年月。
 生きることで得たモノが、確かに存在している。

 「それが、これ!冒険者たちから奪い取ってきた武器の山だ!」

 名剣と言われた業物。

 国の宝と言われた宝剣。

 神からの贈り物と言われた神剣。

 魔に堕とす物と言われた魔剣。

 使用者を狂気で支配すると言われた妖刀。

 大量生産の粗悪品が信仰を得た結果、真理に至った剣。

 あるいは名も知れぬ匠が打ち、名も知れぬ冒険者が使った無名。

 それは剣だけではない。
 槍が、斧が、矢が、杖が、鈍器が、武器か、どうか不明な物さえも――

 あるモノは本物で―――
 また、あるモノは偽物で―――

 しかし――― もはや――― そんな事は無関係に封殺される。
 それは武器である必要性すら失い。質量という暴力に変貌を遂げていたからだ。

 それを見た者がいるとしたら、こう言うかもしれない。
 ごく平凡な家。そこに突然、雪崩が起きたのだと……
 武器による雪崩が家から唐突に発生したのだと……

 雪崩、あるいは爆発を連想される破壊が起きたのだ。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「かー ぺっ……ゲホンゲホン……ふぅ……」

 俺は喉に詰まった短剣をなんとか吐き出した。
 どうやら、体の変動が原因で吐き切れなかったみたいだ。
 いつの間にか、豪華絢爛だった俺の体は、元の木箱に戻っていたのだ。

 そして、目の前の風景を見て―――

 「さすがにやり過ぎた。いや、ちょっと待って……さすがにマズい!」

 反省した。 
 依頼人の家を破壊して、周囲の地形を破壊して……
 古今東西、何百、あるいは何千種類という武器の野外博物館が生まれてしまった。 
 魔族に乗っ取られた息子―――コウ少年も無事ではすまないはず。
 いや、無事でいてもらわないと、依頼人の子供を殺害したとなっては、俺もマリアも冒険者として生きていけないのだが……
 そう言えば、マリアは?
 あの戦いの最中に、高濃度の魔力を叩き込まれ失神したと判断したのだが……
 よくよく考えてみると、見た目だけで判断して、他の付加効果が入っていたらマズい。
 俺は、今も意識を失っているマリアの元に向かい、彼女を揺さぶり起こそうとする。

 「むにゃむにゃ、まだ眠いよ」

 どうやら、無事のようだ。もう少し揺さぶりに力を入れて、マリアを起こした。

 「ん~、あれ?ミッくん?あの後、ミッくんが倒してくれたんだね」
 「起きて、すぐに俺の勝利を確信してくるのは素直にうれしいのだが……」

 「あれ、あれ」と武器の山を指した。

 「どうも、コウ少年はあの下敷きに……」
 「え……ええ!?一体、何が起きたの?」 
 「説明は後回しで、まずはコウ少年を掘り起こさないと」
 「う、うん。そうだね」

 しかし――― 

 「心配は無用だよ」

 武器の山からコウ少年の声がした。

 「まさか、物理的な質量に押しつぶされるような戦いになるとは想定外だったよ」

 武器の山からコウ少年の声がした。(2回目)

 「でも、この借りは必ず返させて貰う」

 武器の山からコウ少年の声がした。(3回目)
 どうやら、自力で脱出できないみたいだ。

 「どうする?」と俺はマリアに聞いた。

 「とりあえず、いきなり掘り出して暴れても困るから、このまま体力の消費を待ってから捕まえるってのが現実的じゃないかな?」

 意外とシビアな答えだった。

 「よし、それでいこうか……」

 しかし、俺たちはその作戦を実行する事はできなかった。

 声がした。

 「疑問その1つ。例えば、この空前絶後レベルの戦闘が自宅で行われても、姿をみせなかった依頼人はなにをしていたのか?」

 俺たちの背後から声がしたのだ。
 俺とマリアは反射的に振り返る。

 「疑問その2。そもそも、コウ少年に魔族の人格を憑依させた魔法陣。それを少年のベットに書いたのは誰か?」

 男が立っていた。
 黒衣で身をまとめた男性。特徴は―――細身の中年男性で眼も細い。
 そいつは肩に女性を担いでいた。
 肩に担いている女性は―――意識を失っている女性は―――
 依頼人か?

 「その2つの疑問は繋がる事になった。なぜなら―――

 私が犯人だ」

 犯人を名乗るそいつは、高らかに宣言した。

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