ミミック転生 ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~
子鬼狩りと乱入騎士
―――ダンジョン40階層―――
狭い通路と呼ぶにはあまりにも狭い通り道。
人間が通れない隙間は子鬼たちは疾走する。
小さいな体をさらに縮めて、道なき道の僅かな隙間を縫うように駆け抜けてくる。
「キッ!キッキッキ」
子鬼狙いの冒険者たちを馬鹿にするような笑い声をあげて、子鬼たちは姿を消した。
「畜生が!また逃げられた!」
「やはり、仲間に狩人がいないとダメだ」
「そうだな。追いかけても捕まえられない。罠に精通したスキル持ちの職業を仲間にほしい」
40階層は冒険者たちの活気に溢れていた。
おそらく、需要が高まっているのだろう。子鬼の角収集の依頼は1つではなかった。
同種の依頼を受けた冒険者たちが40階層に集結しており、その結果、40階層は―――
混雑、混乱、混沌としていた。
つまり、従来の子鬼の角収獲と比べて競争率の増加。それに伴い難易度も跳ね上がることになった。
しかし、そんな中であっても、他のグループと比べて安定して子鬼の角を手に入れているパーティがあった。
それは、もちろん、俺とマリアのパーティだ。
「キッキッキキキッ」
「キリリキッキイキキイ」
「キキキキキリリリイイキ」
子鬼たちの話声が聞こえてくる。
ユニークスキル『意思疎通(魔物)』によって自動的に訳される。
「愚かな人類どもめ。鈍足でありながら、高貴な我が体に触れようとは万死に値する」
「全くですわ。その巨大な体に縛れていることすら気づかず、地上の王の如く振る舞い。そろそろ、絶つべきではございませんこと?」
「はっ、我らの機動力をもってすれば、人間など恐れるに足らぬ存在。我が主君の命とあっては、すぐに地上へ進軍を開始してみせましょう」
……すげぇ会話だな。
俺は子鬼たちの群れから少し距離をとった場所に陣取っていた。
彼の声が聞こえるくらいの距離。
もちろん、『擬態』と『気配遮断』のスキルを使用している。
子鬼はもちろん、クエスト中の冒険者たちにも気づかれていない。
(さて……そろそろやるかな)
「む……」
「どうかなさいましたか?我が王よ」
「余の勘違いか……甘い香りが……」
「いえ、これは確かに桃の匂いに違いありません。おそらく、冒険者が落とした物でしょう……古来より桃は異界から運ばれた不死の果実と言わ言わ言わいわいわいわいわ……」
子鬼は最後まで言葉にできなかった。
バタバタと倒れていったからだ。
「毒触手流拳法 聖散果林の拳」
俺は、誰にも聞かせるでもなく呟く。
広範囲に影響がある種類の毒を調合して、子鬼たちに向けて散布したのだ。
もはや、拳法でもなんでもない気がしないでもない。
しかし、この方法ならば、近くに来た子鬼に気取られることはない。
逃げ出さない子鬼はただの小人に過ぎない。
狩るのは容易い。俺は倒れた子鬼たちに触手を伸ばし、体内へ収納した。
「さて、これで20匹か。1匹で角が2つ取れるから……少し、とり過ぎたか」
魔物の乱獲はよくない。
ダンジョンの生態系を狂わせてしまうと何が起きるか想像することすら難しい。
極端に数が減った個体数は、そのまま全滅することだってあり得る。
「マリアが猛獣使いのスキルで使役できれば……繁殖って方法もあるけど、そもそも使役の成功確立は低いからなぁ」
そんな感想を述べていると視線がゆがむ。いや、ゆがむってレベルじゃない。
空間が波打つように大きくブレて行き……
場所が変わった。
「ヤッホー ミッくん、成果はどうだった?」
マリアの姿が見える。
どうやら、猛獣使いの固有魔法『召喚』の効果だったらしい。
「まぁまぁ……かな?20匹は捕まえてきたよ」
「へぇ~負けちゃった。私は17匹だったよ」
「むむむ……」と俺は唸った。
マリアは俺みたいに罠を使うようなスキルも魔法も有していない。
シンプルに身体能力のみで17匹も捕まえてきたのだ。
「2人で37匹で74本か。多く取り過ぎちゃったね。どうしようか?」
「子鬼を狙っている冒険者に売るしかないだろう」
「そうだね。こんなにも混雑しているなら知り合いの冒険者も何人か……」
「では、僕に譲っていただきたい」
俺とマリアは突然、声をかけられ驚いた。
完全に気配が感知できなかったから……それともう1つ。
俺よりも上位の気配遮断スキルの持ち主は1人しか思い浮かばなかったからだ。
「これは失礼。驚かせてしまいましたかな?」
騎士がいた。
シーラ女王の背後に控えていた例の騎士だった。
「僕の名前はマイクロフト。マイクとでもお呼びください」
騎士―――マイクは優雅に礼をして見せた。
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